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コラム

青山 知雄の悠々J適

2015/5/9 15:33

サポーターの力とスタジアムの一体感(♯10)

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サポーターの力。

それがピッチでプレーする選手に、どんな影響を与えるのかは分からない。ただ、スタンドを埋め尽くす大観衆が、スタジアムに不思議な雰囲気を作り出すことは間違いない。リズムに乗った手拍子や大声援でイケイケにもなれば、渦巻く大ブーイングが怒りを充填させることもある。失点して静まり返ってしまえば、落胆ムードが漂うかもしれない。一部サポーターの狙いによって作り出されるものも、自然発生的に生じるものもある。

スタジアムの雰囲気が選手やチームに伝播して、プレーや結果に影響したケースは決して少なくないと思う。もちろん大観衆のスタジアムに限ったことではな い。たとえスタンドに空席が目立ったとしても、どんな時にも必ず存在する集団の声はスタジアムに広がっている。少ない人数だからこそ醸成される空気もある。

今年のゴールデンウィークに取材した試合で最も印象的だったのが、サポーターの声援で作り出されたスタジアムの一体感についてだった。

多摩川クラシコが行われた味の素スタジアムはほぼ満員になった
多摩川クラシコが行われた味の素スタジアムはほぼ満員になった

5月2日に行われた明治安田生命J1リーグ第9節、FC東京と川崎フロンターレの一戦は“多摩川クラシコ”というライバル対決で、優勝争いへのサバイバルマッチということもあり、4万2604人もの大観衆が味の素スタジアムに詰めかけた。緩衝地帯として1ブロックを空けた以外は、メインスタンドからゴール裏、バックスタンドの1階、2階が「ほぼ満席」と言っていいほど。至るところで立ち見も出ていた。あれだけ埋まった味スタは久々に見た気がする。アウェイの川崎F側も盛り上がっていたが、やはりこの日はホーム側の応援や雰囲気に特筆すべきものがあったように思う。

応援に合わせて腕を振りかざせば、ゴール裏からバックスタンドまでが波打つように揺れ、手拍子を叩く動きはスタジアム中に広がった。前半、川崎FのFW大久保 嘉人に通算140ゴール目を決められて“カズダンス”を披露された際には少しおとなしくなったが、後半立ち上がりから積極的に攻め込むと、64分に数的有利な状況になったことでスタジアムの空気が一気に変わる。逆転に向けてホーム側サポーターの声量が1ランク、いや2ランクほど上がったように感じた。まだ 0-1のスコアではあったが、これから何かが起こりそうな予感が漂っていたのは確かだ。

逆転勝利を盛り上げたFC東京のサポーター
逆転勝利を盛り上げたFC東京のサポーター

71分、直接FKを狙おうとする太田 宏介に今シーズンから新しく完成した個人への応援歌が飛んだ。最初は太鼓のリズムに合わせて4拍子だった歌が、途中から手拍子と声だけの2拍子になってスタジアムに響き渡る。

太田はその歌に見守られるようにボールをセットし、腰に手を当てて壁の位置とゴールを見据える。スタジアムの手拍子を背景に彼の集中力が研ぎ澄まされていくのを感じ、自分も耳から入ってくる音と狙いを定めるレフティーの雰囲気にスッと引き込まれていく感覚を覚えた。

結果はご存知のとおり。太田自身はキックモーションに入ったところで「相手GKの重心が動いたのが、周辺視野で見えた」と説明しているが、それをリプレイで見る限りは蹴る寸前、本当に一瞬の出来事。彼の左足から放たれたボールは壁の外側を巻いてゴールネットを揺らした。あの瞬間、いわゆる“ゾーン”に入っていたのではないかと思って本人に聞いてみたところ、「自分の歌は聞こえていましたよ。すごく集中できていて、絶対に決めると強く思っていた。それが“ゾーン”に入っていたかどうかは自分では分からないですけどね」と当時の情景を思い出しながら話してくれた。

同点に追いついた後もFC東京サポーターの声量は衰えを知らず、ムードはまさに上げ潮。押せ押せムードでチームを勢いづける。そして87分、太田の左FKに武藤 嘉紀が豪快に頭で合わせて逆転に成功すると、総立ちになった満員の味スタが飛び跳ねて喜ぶ人と大歓声で揺れたように見えた。サポーターの声援との因果関係は証明できないが、少なくとも客観的に見ている側としてはスタンドとピッチがつながった瞬間だったように感じた。試合展開も手伝った稀なケースではあったが、スタジアムの雰囲気と逆転を狙う選手のプレーが相乗効果をもたらした好例と言っていいだろう。

 

5月5日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)グループステージ最終戦。ラウンド16進出の可能性を残す鹿島アントラーズをサポートするために、FCソウル(韓国)との祝日ナイトゲーム、しかも他会場との調整で20時キックオフという試合に今シーズンのクラブ最多となる1万9233人がカシマサッカースタジアムへ。勝てばグループステージ突破という大一番に、サポーターはキックオフ前から迫力ある大声援と手拍子を続け、チームを盛り上げようとしていた。試合は鹿島が序盤に先制しながら追いつかれ、後半に逆転を許す展開となったが、最後まで絶対に諦めないというサポーターの強い意志に心を奪われた。

試合終了まで選手と共に戦った鹿島のサポーター
試合終了まで選手と共に戦った鹿島のサポーター

手元のノートに記していたメモがある。

「78分 『奇跡を起こせ』の大合唱。今日一番の大声援」

代々歌われてきた『聖者の行進』のメロディー。残り15分で逆転し、大会史上初となる3連敗からのラウンド16進出を目指すチームに「奇跡」を起こさせろ――。その気持ちが歌に乗って伝わってきた。

直後の79分、柴崎 岳が2-2に追いつくゴールを決めても、思いを込めた歌は鳴り止まない。小笠原 満男が倒されながらノーファウルと判定されても、土居 聖真が厳しい判定でファウルを取られても、勝利だけを目指して声量は上がっていく。

だが、勝負は時の運。後半アディショナルタイム、自陣ゴール前でボールが不規則な回転からイレギュラーバウンドして寄せが一瞬遅れたところで決勝点となる ゴールを決められてしまう。次の1点が勝負を分けるであろうタイミングで喫した痛恨の失点。それでも『聖者の行進』が試合終了まで止まることはなかった。

2-3と撃ち合った末に敗れた後のミックスゾーン、西 大伍は「試合中はすごく一体感があった。だからこそ勝ちたかった」と悔しさを隠さなかった。試合後、結果の出なかったチームに対して、スタジアムに居残って抗議をしたサポーターがいた。強い気持ちで一緒に戦い、さまざまな感情が交錯しての行動だったのだろう。気持ちを伝える手法には様々な形があるが、スタジアムが最高の雰囲気だったことは事実。クラブ、チーム、サポーターがポジティブな関係で三位一体となって前へ進むことを切に願う。


サポーターの力。2試合とも一緒に戦って勝ちたいという思いが、スタジアム中に溢れていた。もちろんそれが必ず結果につながるとは限らない。FC東京のように大逆転劇の舞台となることもあれば、鹿島のように悔しい結果に終わることもある。ただ、選手たちに思いは伝わっているはず。その声が直接的な後押しになったかどうかは分からないが、少なくとも同じ目標に向かって進んでいるという一体感はあった。

実際、西は「一緒に戦いたい」ともつぶやいている。毎週末、日本中のスタジアムで繰り広げられている光景を少し切り取っただけではあるが、そんな気持ちを持ってスタジアムへ足を運んでいる人たちが数多くいる。

サポーターも選手も全力で戦う。一緒に戦って勝利を手にした時の充実感と、それでも勝てなかった時の悔しさ。勝ったから喜ぶ、負けたからブーイングという単純なリアクションではなく、ともに歩み、戦ったからこそ味わうことのできる感情が、そこにはある。