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コラム

J2番記者リレーコラム オフ・ザ・ピッチのネタ帳

2016/5/25 13:30

山口の躍進を支える「スタイル」と「距離感」(#11)

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レノファ山口FCのゴール裏を見渡すと、このチームが着実に、プロスポーツのなかった山口県のシンボルになり、人々の日常の一部になってきていることを実感する。今季の明治安田生命J2リーグはいわゆる「昇格組」の活躍が目立ち、第14節終了時点で山口も5 位に付けている。リーグを席巻する背景には、徹底した山口スタイルのサッカーと、それを一緒に楽しんでいるサポーターの姿があった。

就任3年目の上野 展裕監督はコンセプトとしてパスサッカーを掲げる。今年10番を背負うことになった庄司 悦大を軸にパスを使って揺さぶり、相手がバランスを崩したところで縦のスイッチ。福満 隆貴が積極的にシュートを放ったり、岸田 和人が裏に抜けたりとゴールパターンも多彩だ。

昇格1年目ながら躍進を続ける山口。リーグを席巻する背景には徹底したスタイルとそれを楽しむサポーターの存在がある
昇格1年目ながら躍進を続ける山口。リーグを席巻する背景には徹底したスタイルとそれを楽しむサポーターの存在がある

パスサッカーを展開する他のチームと比べてとりわけ異彩を放っているのは運動量。4-2と快勝を収め、サッカーファンを驚かせた第13節のセレッソ大阪戦では、その差が明暗を分けた。前半を1-2とビハインドを負って終えるが、迎えた後半は「逆転できるときに点を取って行ければいいとハーフタイムに話していたので落ち着いてできた」(小池 龍太)。得意のパス回しで相手を動かし、じわりじわりとC大阪のスタミナを削っていくと、72分、ダイレクトプレーの続いたパス回しに相手が付いていけなくなって鳥養 祐矢が逆転ゴール。86分には島屋 八徳が持ち出した自陣からのカウンターに、右サイドバックの小池 龍太が駆け上がって試合を決定づける4点目を奪取。このとき山口は相手ゴール前に島屋、小池のほか星 雄次、庄司 悦大も詰めており、終盤にも拘わらず相手陣内で数的優位を作り出していた。

C大阪戦のように山口のスタイルが見事に噛み合った試合がある一方で、金沢や長崎には無得点で敗れている。第14節の長崎戦では連係ミスからカウンターを食らったのが直接的な要因だが、運動量でも相手を上回れなかった。「全部勝ちたいが、J2は簡単なリーグではありません」と上野監督。「チームのコンセプト、やるべきことを最後までやりきること。あとは練習でハードワークして試合に臨むことが大事だ」と話す。持ち味はパスサッカーと運動量。勝っても負けても続けてきたこの山口流を変えることはない。全ての試合で表現できるまで、そのスタイルを深化させる作業を反復する。

自らの存在を「会いに行ける選手」と話す島屋。山口の選手たちはピッチ外の振る舞いも重要視している
自らの存在を「会いに行ける選手」と話す島屋。山口の選手たちはピッチ外の振る舞いも重要視している

そしてチームを取り巻くサポーターが増えていることも、選手たちに大きな勇気を与えている。練習見学に訪れるサポーターも日々増加。練習場が固定されず、場所や開始時間が発表されるのが前日の夜になることもあるが、それでも練習時間となれば老若男女、サポーターが集まって選手たちを応援している。C大阪戦後のインタビューで島屋 八徳が「会いに行ける選手」という名言を残したが、その言葉に偽りなく、選手とサポーターの距離感の良さが山口の力となっているのだ。

島屋は後日、「他のチームには『プロのサッカー選手』という感じで一線を引いてしまうこともあると思う。そういうのも必要だけど、山口のJリーグの文化はこれから根付いていくところ」と発言の意図を紐解いた。その上で、「選手との距離が近く、サインをもらいやすかったり、写真を一緒に撮ることができたり、そういうほうがサポーターの方も嬉しいと思う。レノファを愛してくれる方が多いので、もちろんプレーが第一だけど、ピッチ外でもそういう振る舞いで恩返しをしたい。それはプロとして大事なことだと僕は思っています」と強調する。

山口の躍進に比例するようにサポーターの数も増加。ゴール裏は熱さと心地良い雰囲気に包みこまれている
山口の躍進に比例するようにサポーターの数も増加。ゴール裏は熱さと心地良い雰囲気に包みこまれている

30度近い暑さの中で行われた長崎戦でも6000人超の来場を記録。特にゴール裏は1万人超えのスタジアムと変わらないほどの熱狂ぶりだった。そこにはゴール裏に行きやすいという山口独特の「ゆるさ」も理由にあるのだが、選手とサポーターの距離が近いように、サポーター同士の程良い距離感というのもあるのだろう。練習はハードだし、試合内容もハード。でも、山口のサッカーをみんなで楽しもうという雰囲気がスタジアムを心地よく包み、選手とサポーターが大きなファミリーとなって山口のJ2ロードを切り開いている。

 

文:上田 真之介
見た目からの自称は世界最小級ペンギン系記者。北九州市生まれ。北九州のJ2昇格以降、J's GOALやサッカー誌などに北九州関連の記事を寄稿。山口で学生時代を送り情報誌の編集にも携わった縁から、北九州と並行して山口も追いかけている。