新潟戦で負傷した佐藤寿人は、今回の遠征には参加していない。右内転筋の痛みは軽症ではあったが、とても連戦を戦える状態にはなかった。ここはしっかりと休養と治療に専念する方が得策であろう。
また、森崎兄弟もコンディションを考慮し、北京には渡っていない。佐藤・森崎兄弟・高萩・ミキッチ、そしてファン・ソッコ。これだけの主力が出場しない状況で、中国の強豪・北京国安に挑むことになる。

当然、厳しいメンバー構成となる。1トップ2シャドーは、FUJI XEROX SUPER CUPでの先発3人がすべて欠場。佐藤の代役となる石原直樹については、昨年から1トップで十分な実績を積み上げているわけだし、心配はない。問題は2シャドー。経験のある選手は、このポジションには残っていない。
そのシャドーの先発候補として有力な存在であるルーキー・野津田岳人は、昨年から公式戦に出場し、今季も既に２試合でピッチに立っている。強烈な左足を持ち、ミドルレンジからでも十分にゴールを狙えるだけでなく、相手の守備を切り裂くスルーパスにも独特の感性を持つ。国際試合の経験も年代別代表で豊富に積み上げており、海外の舞台だからといって萎縮する感覚もない。
北京空港で荷物が出てくるのを待ちながら、「どんな形でもゴールを決めたい」と語る表情には、広島の誇りを背負う責任と自信も感じられた。高円宮杯2年連続MVPを獲得し、決勝でも必ずゴールを決めるなど、大舞台に強さを発揮する逸材に、大きな期待をかけたくなる。
あと一人は、誰か。そこは、想像をたくましくするしかない。キャンプから成長を感じさせるイ・デホンは、高萩を彷彿とさせるようなアイディアの持ち主。ボールを引き出す動きや運動量には課題を抱えているが、ツボにはまった時の爆発力は抜群。ファイナルパスだけでなくシュート感覚も持っているデホンに、チャンスが訪れるか。
また、キャンプでは清水航平をシャドーに起用する形も、森保監督は試している。東海大五高時代はＦＷとして活躍し、インターハイ得点王にも輝いた経験を持つ清水は、プロに入ってもシャドーの位置でプレーを続けていた。キャンプでは活き活きとしたドリブルで守備陣を切り裂く動きも見せており、彼の突破と得点力に懸ける手もある。

守備陣は盤石のメンバーがそろっており、大きな破綻はないと信じたい。北京国安の前線にはかつてアフリカ最優秀選手に輝いたことのあるフレディー・カヌーテが存在。193センチの長身を持つ彼を主軸とする空中戦は、確かに脅威だろう。また、ドイツで８年間プレーした経験を持つＭＦ邵佳一の左足も要注意。経験を積んだタレントは豊富だ。アウェイでの開幕となった対浦項戦では０−０と引き分け、韓国チームから初めての勝点を手にした。チーム状態は決して悪くはないはずだ。まして、今回は彼らのホーム。サポーターの後押しを受け、広島を踏みつぶそうとやってくるだろう。

重要なのは、彼らの圧力に対してしっかりと我慢すること。強いフィジカルや身体能力を利した攻撃や球際に激しくくるファイターぶりに対し、広島は広島らしい闘いを示すこと。ボールを動かし、スペースをつくって主導権を握れればよし。それがうまくいかなくても、しっかりと自分たちの守備を構築し、チャンスがやってくるのを辛抱強く待てばいい。もちろん勝点3がとれればベストだが、1ポイントであっても広島としては問題ないはずだ。

試合前日の北京は霧雨。真っ白なモヤがかかった空気を吸うと、喉がいがらっぽくなる。選手たちはみんなマスクを携行し、日本から20台もの空気清浄機を持ち込んではいるが、試合中はもちろん、使用できるはずもない。
しかし、青山敏弘は「僕らは闘いにやってきたわけだから」と強い言葉を口にする。主力が多数不在のチーム構成、大気汚染が深刻化しているアウェイの環境など、厳しい状況が広島を襲い続ける。しかし、この状況を乗り切った時、チームは大きな財産を手に出来ることとなるだろう。ポジティブな未来を信じて、明日、北京工人体育場に選手たちは立つ。

以上

2013.03.12 Reported by 中野和也