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今日の試合速報

コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

観戦の動機

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今年は、作家松本清張の生誕百年にあたる。これまで市民の身近にプロスポーツのなかった、彼の出身地北九州市。サッカーも野球もバスケットも、観戦したいときには隣の福岡市まで出かけた。5市合併により政令市が誕生して45年を経た今日、ようやくサッカーのホームチームに恵まれた。この地に、真の“Home”が生まれる鍵は、スタジアムの観客の動機にある。 わざわざ遠くまで足を運ぶ“動機”が多種多様なほどに、いままでサッカーには縁の薄かった人たちのこころを動かし、やがては観客と化していく。

高座に上った落語家の第一声は決まって「ようこそのお運びで、厚く御礼申し上げます」。この“運ぶ”とは、まさに“身を運ぶ”こと。 “イレブンミリオン”プロジェクトの合言葉「スタジアムで喜びを分かち合う人、一人ひとりの笑顔を広げていこう!」を表現したデザインには、赤ん坊からお年寄りまで家族みんなの笑顔があふれている。 Jリーグの観客は若者が多いと思われがちだが、スタジアム観戦者調査(2008)によると、平均年齢は37歳と意外にも中高年層、過半は家族連れである。どのクラブも、スタジアムをまちの“広場”に見立てて、足を運んでもらういろいろな動機づくりに腐心している。家族で祭りに出かけても、銘々で楽しみにする屋台が異なるように。 90分間の試合観戦と地元チームの勝利はもとより、飲む、食べる、グッズを買う、家族や仲間と語らう、人に出会う、チアリーディングを楽しむ、マスコットと遊ぶ、まちの名を連呼する、全員で応援歌をうたう、旗を振る、手拍子や拍手をする、選手と握手する、サインをもらう、写真を一緒に撮る、スタジアム見学をする、未来の選手の試合を楽しむ・・・など入場料の対価は、あくまで観客本位で無限にひろがる。

「点と線」「眼の壁」など松本清張の作品の魅力は、“動機”を発見することにある。そこに描かれる“動機”は、どれも平凡な日常生活や人間の性格の奥底に隠された意識が複雑に絡み合っている。もしも、今日彼がJリーグの試合を小説の主題にしたならば、観戦の“動機”を、市民とチーム双方を固く結びつける絆『地元のクラブの意識』の中にこそ発想するにちがいない。