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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

準加盟クラブの原点 Ⅱ

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ドイツには、都市を代表する大クラブとは別に、都市内の生活圏単位で活動するクラブがある。そうしたクラブは、是が非でも上のリーグへの昇格を望んでいるわけではない。 ブンデスリーガ1部のカールスルーエSCの本拠地カールスルーエ市は、人口28万人、国の司法の中心を示す最高裁判所があるライン川沿いのまちだ。この地に長く暮らす友人でドイツ環境情報のジャーナリスト松田雅央さんから、数年前に興味深い話を聞いた。 FCノイロイト08は、市内のノイロイト地区を代表する名門スポーツクラブ。

会員数は約300名。サッカーを核に、水泳、体操、テニス部門がある。サッカーのトップチームは、5部リーグ(日本の県リーグ)に属し、女子やユースなど7チームがある。ホームグラウンドに面して、練習場2面、クラブハウス、レストランを所有。 トップの選手はすべてアマチュアで、職業は学生、会社員、医者、画家など、平均年齢は23歳。専従スタッフは置かず、クラブ運営はすべてボランティアでやってきた。 レストランの壁には、祖父や父親がプレーしたり運営に携わったりと、会員とともに綴られた悲喜こもごもの歴史を物語る写真が飾られている。スポーツがビジネスとしてではなく、地域住民に愛される楽しみとして連綿と続いてきた証しだ。 松田さんがレストランのオーナーに「4部に昇格すれば、もっとお客さんが増えますね!」と尋ねると「そうかもしれないし、そうでないかもしれない・・・」とはっきりしない返事が返ってきた。 その理由について「昇格すると確かに知名度は高まるが、リーグの地理的な範囲が広がり、アウェイゲームが遠くなる。

互いに応援するファンの出足が鈍るかもしれない。地元ファンが最も熱狂し楽しみにしているのは、何と言っても近隣同士の対決だから。」と語る。  70ユーロ(約1万円)の年会費、スポンサー・広告料、入場料、市の補助金などの収入で賄う身の丈のクラブ運営も、仮に昇格すれば残留を目標にした経営へと変わらざるをえなくなる。プロ選手の獲得や大口スポンサー探しなど、単にビジネス色を強めては『俺たちが運営する郷土のチーム』という感覚が薄らいでいく。 「我々の願いは、“地域のクラブ”として、このリーグでいつまでも戦い続けること」。 昨年、創立百周年のお祝い金として、市からクラブに1,000ユーロが贈呈された。トップのブンデスリーガを支える底辺のクラブにとって、地域とスポーツを愛する“情熱”のあり方は実にさまざまだ。お祝い金制度は、125周年、150周年とまだまだつづく。