2026年1月28日、東京・青山。国際連合大学ウ・タント国際会議場で開催された「Jリーグ サステナビリティカンファレンス2026」に集まったJクラブ関係者、パートナー企業の担当者、自治体関係者たちの熱気は、冬の寒さに負けないものだった。
1993年、「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」という理念の下、「スポーツで、もっと、幸せな国へ。」というJリーグ百年構想を掲げ、ホームタウンで多様な活動を推進しているJリーグ。そこから30余年。その「豊かなスポーツ文化」の土台とも言える自然環境そのものが危機に瀕している。急速な気候変動を前に、「サッカーができなくなる未来」をどう防ぐか。議論の軸となったのは、Jリーグが2026年から新たに取り組む「スポーツポジティブリーグ(Sport Positive Leagues/SPL)」だ。順位表というサッカー文化に馴染む形式を通じ、クラブの取り組みを“競争”ではなく“共有と改善”へとつなげる。その導入は、リーグやクラブがサステナビリティに向き合う姿勢を示すだけでなく、地域社会の行動変容を促す装置として期待されている。
この世界基準の施策である「SPL」とどう向き合っていけばいいのか、「サステナビリティカンファレンス2026」ではさまざまな議論が交わされた。
■スポーツが直面する「危機感」と「世界基準」
(Jリーグチェアマン 野々村芳和/日本財団 笹川順平理事長 挨拶)
冒頭、Jリーグチェアマン 野々村芳和が登壇。まず言及したのは、スポーツが成立する前提となる自然環境の変化に対しての危機感だ。
「猛暑、豪雨、台風などの異常気象。スポーツの土台となる自然環境が以前と比べると確実に変化していることに強い危機感を抱いています。Jリーグの試合が中止になる、という話だけではありません。子どもたちがプレーする環境が奪われ、大人が生涯の楽しみにしている週末サッカーの場も失われていく。そんな現実に、私たちはしっかり向き合わなければなりません」
2026年8月、Jリーグはシーズン移行という大きな転換を控えている。世界との競争を意識したシーズンを前に、環境への取り組みも世界基準で考えていくべき、と語る。
「世界のトップクラブほど、環境への意識は非常に進んでいます。社会問題や環境問題にどう向き合っていくか。そこからパートナー企業との関係性をより深めることもできますし、新しいパートナーとの結びつきにもつながります。Jリーグがアジアで初めて参画する『SPL』に対して、どんな取り組みや意識が必要なのか。今日この場を新たなスタート地点として、皆さんと一緒に前進していく機会にしたいと考えています」
続いて、日本財団の笹川順平理事長が登壇。日本財団が取り組んできたスポーツ事業と社会課題解決の関係性を紹介しながら、スポーツ、とりわけ地域に根を張るJクラブが果たし得る役割の大きさを語った。
「環境問題に対していかに取り組んでいくか。Jリーグ、そしてその先にいらっしゃる全国60クラブの皆さん、この方々が今までにない形でネットワークを作り、あえて競争して切磋琢磨してくことが重要だと考えています。それはなぜか。皆さんは地域に密着し、地域の問題をよく知っている。そしてその課題を解決するパッションと技術があると思うからです。今日の学びを通し、子どもたちを中心とした日本の社会の未来を築いていただく礎になっていただければ、私たちとしても幸いです」
■「Progress over Perfection」:完璧を求めるよりも、みんなで一歩でも前へ
(主催者挨拶:Jリーグサステナビリティ領域担当 執行役員 辻井隆行)
主催者挨拶として登壇したのは、Jリーグのサステナビリティ領域担当執行役員であり、「SPL」の旗振り役とも言える辻井隆行。環境問題に対しての厳しい現実を語る。
「2015年にパリ協定が締結され、気温上昇を1.5℃未満に抑えることで合意しました。しかし、現実はどうでしょうか。この10年、状況は加速度的に悪化し、この3年間だけでも過去最高気温を次々と塗り替えています。ある気候科学者が言っていましたが『誰か1人が勝って誰かが負けるというものではなく、全員が勝つか、全員が負けるか』という種類の課題です」
そのためにサッカー界として何ができるのか。一例となるのが「SPL」だという。
「簡潔に『SPL』を説明すると、サッカークラブの気候変動に対する取り組みを12の領域に分類し、点数をつけて可視化するとともに順位をつける、というもの。本日の基調講演スピーカーであるクレア・プールさんが創設し、イングランドでは2018-19シーズンから実施されています」
そのなかで、目覚ましい結果を残しているのがブリストル・シティ FCであり、もうひとりの基調講演スピーカー、ピーター・スミス氏はそこでサステナビリティ責任者を務める人物だ。
「スミスさんも元々はサステナビリティの専門家ではありませんでした。SPLが始まった当初、どう受け入れたのか、何から取り組み始めたのか、といった学びがあるはず。イギリスに視察に行った際、よく耳にしたのは『Progress over Perfection』という考え。『100点や完璧さを求めて躊躇するよりも、みんなで一歩でも前に進もう』という姿勢です。サッカーもスポーツも、ミスを繰り返して学んでいくことで、選手もチームも成長していく。今日集まった皆さんで、ポジティブにこの問題と向き合っていければ、と考えています」
■基調講演①「Sport Positive Leagues とは」
(SPL創設者兼CEO クレア・プール氏)
クレア氏は2018年に「スポーツポジティブ(Sport Positive)」を立ち上げ、気候変動やサステナビリティの重要性を訴えるとともに、サッカーを通じてポジティブな変化を促す取り組みを続けてきた人物だ。「スポーツ」と「サステナビリティ」を結びつけてきたこれまでの経験を踏まえ、「スポーツの持つ力」について語ってくれた。
「気候変動は、知識として理解されていても行動に移りにくいテーマである、という難しい現実があります。そのギャップを埋める装置としてスポーツが持つ力に着目しました。スポーツは、年齢や価値観、社会的立場の異なる人々が同じ瞬間に感情を共有し、同じ言葉で語り合う“共通言語”であり、“共通通貨”のようなもの。だからこそ、スポーツが発するメッセージは、より広い層へ届く可能性があります」
その象徴的事例がプレミアリーグで2018年から始まった「SPL」だ。環境に配慮した活動やポイント制度を導入してクラブの取り組みを可視化し、情報共有していくことでさらなる行動を促進していく。これらの活動はメディアや社会から高く評価され、クラブのサステナビリティ意識の向上と環境負荷の削減に寄与している。
「SPLでは順位付けを行いますが、それは単なる『ランキング』ではなく、クラブの行動を加速させる“わかりやすい翻訳”だと位置づけています。サステナビリティの報告書は専門的で分量も多く、ファンや現場スタッフに届きにくい。そこで、サッカー文化の中心にある“順位表”を用い、取り組みの状況を直感的に把握できる形にしました。重要なのは、順位の優劣ではなく、どこに改善余地があるか、どのクラブの実践が参考になるかを可視化し、学びの循環をつくることです」
世界的な共通課題である気候変動対策。だからこそ、プレミアリーグで始まったこの「SPL」は、すぐに独ブンデスリーガ、仏リーグ・アン、イングリッシュ・フットボール・リーグ(EFL)など、欧州の4つのプロサッカーリーグにまで拡大し、5番目のリーグとしてアジアで初めてJリーグが参画することになったのだ。ここまで拡大できた秘訣として、講演の中でクレア氏が何度も語ったのは、「完璧主義からの離脱」だ。
「最初から完璧な設計や完全なデータを求めると、動き出しが遅れ、結果的に何も変わらない、という事態に陥ります。重要なのは、現時点でできる最善の一歩を踏み出し、透明性を持って改善を積み重ねること。『SPL』はそのプロセスを後押しする仕組みであり、初年度のスコアが低いことは失敗ではなく、むしろ改善の可能性が大きいことの表れです」
その顕著な例として、プレミアリーグ・サウサンプトンの変化を紹介する。
「サウサンプトンのSPL順位は、20クラブ中18位からスタートしました。しかし、彼らはそれを恥じるのではなく、現状を直視するための『事実』として利用しました。そこからアクションを積み重ね、今やこの分野のリーダー的存在です。完璧である必要はありません。我々は全員、改善のための旅路にいるんだ、ということを示すことがSPLの目的と言えます」
だからこそ、究極的な目標はSPLがなくなること、という理想も語る。
「何かを達成して終わりではなく、常に進化し、継続していなければなりません。さらに言えば、SPLが続くこと自体が目的ではなく、いつかクラブのサステナビリティが“当たり前”になり、順位表が不要になる状態を目指しています。重要なのは『ポジティブ・マインドセット』。ポジティブな意識を持つことです。『解決すべき課題』としてよりも『Opportunity(機会)』として見出だすことができれば、この作業を楽しんでくださることができますし、収益につなげるなど、より良い関係性も構築できるはずです」
最後にクレア氏は、日本サッカー全体の取り組みに期待する意味も込め、こんなメッセージを残してくれた。
「早く進みたいのであれば一人で行くべき。しかしながら、遠くまで行きたいのであれば共に進むべきだ、とよく言われます。Jリーグ、日本財団の支援を得ることによって、全60のJリーグクラブが手を取り合えば、かなり遠くまで進むことができるのではないでしょうか」
■基調講演②「ブリストル・シティFCの取り組み」
(ブリストル・シティFCサステナビリティ部門責任者 ピーター・スミス氏)
130年超の歴史を持ち、現在、英チャンピオンシップ(2部相当)に所属するブリストル・シティFC。ピーター・スミス氏は幼少期からこのクラブを愛し、成人後は選手リクルートからスタジアムの大規模再開発プロジェクトまで、幅広い業務を担ってきた人物だ。そして今、サステナビリティ部門の責任者として奮闘し続けている。その言葉には、現場の葛藤を知り尽くした者特有の重みがあった。
「気候変動は未来のテーマではなく、すでに試合運営や施設管理に影響を与えています。洪水や豪雨、インフラへの負荷によって、アマチュアレベルでは、現在すでに年間15万試合が延期になっています。現場から見れば、サステナビリティは『倫理』だけの話ではなく、『リスク管理』であり『経営課題』なのだという認識に立つ必要があります。ただし、サッカー同様に戦略や正しい戦術がなければ、うまく対応することはできません。組織的対応が必要になります」
ピーター氏自身、サステナビリティについて当初は門外漢だった。取り組みを始めた当初の失敗や戸惑いも隠さない。
「ある時、『サステナブル対応コーヒーカップ』を導入したものの、どのゴミ箱に捨てればいいか、コーヒーショップのマネージャーも、スタジアムのゴミ担当者も誰も把握していない。廃棄物収集会社に問い合わせをしても、『こちらでは何もできず、焼却するしかない』と言われてしまう。良い意図で導入しても、戦略や仕組みが伴わなければ成果にならない。逆に言えば、失敗から学び、組織の対応力を高めることが前進につながります」
知らないことが多い領域だからこそ、まず取り組んだのはサステナビリティについて学び、理解すること。基本的なリサーチから始めていったという。
「リサーチしていくなかで、気候変動(Climate Change)、ゴミ・廃棄物(Waste)、水問題(Water)、生物多様性(Biodiversity)、大気汚染(Air Quality)の5つの主要領域があるとわかりました。この5つの領域にフォーカスをして、できることは何かを探っていく。たとえば、私たちのスタジアムでは飲食物の50%を12マイル(約19km)圏から調達し、余剰食品はホームレス支援へ。食品廃棄物は施設内で堆肥化して新たなエネルギーに転化する。こうした取り組みは、最初の一歩が難しい。でも、恐れを抱かず、完璧さを求めないことが何よりも重要です」
もっとも、これはあくまでもブリストル・シティFCでの実例。何ができるか、何をすべきかは、各クラブによって異なるという。
「チームのメンバーによく話しているのは、この取り組みは『クラシック音楽』ではないということ。これは『ジャズ』なんだと言っています。同じビート(目的)を共有しながら各自が最善を奏でることが必要です。どこかよその成功事例をコピー&ペーストすればいいわけでもありません。以前は、いかに利益を出すか、コストを抑えるか、ということばかり考えていましたが、今は『いかに正しいことをやるか』が私たちの基本理念です」
■「Sport Positive Leagues日本版」とは?
では、今季から導入される「Sport Positive Leagues日本版」の特徴とは?欧州での取り組みとはどんな違いがあるのか?Jリーグ サステナビリティ部部長の入江知子が解説する。
<SPL参画の背景>
(1)気候アクションの取り組み価値がわかりにくい
現在、すでに多くのクラブで気候アクションへの取り組みが実施されているものの、個別で行われていることも多く、その取り組みがどういった進捗があるのか、どういう成果を生んでいるのかがわかりにくい。
(2)地域での気候アクション重要性の高まり
各地域で気候変動の影響が顕在化し、気候アクションの重要性が高まってきた。そんな状況で、スポーツの力を生かした取り組みへの期待も一層大きくなっている。
<SPLに参画する理由>
[1]気候アクションの現在地と進捗をわかりやすく把握
SPLは気候アクションの現在地と進捗がとてもわかりやすく把握できる特徴があり、参画の背景で挙げた「気候アクションの取り組み価値のわかりにくさ」を解消できる。とくに、ランキング形式はスポーツ、サッカーファンにとって馴染みがあり、興味・関心を持っていただけるのではないか。
[2]良い事例を学びあい、気候アクションを推進
SPLをきっかけに各クラブが学びあい、地域に合わせてカスタマイズして導入することができれば、より気候アクションを推進できるのではないか。
[3]社会へ発信
SPLというプラットフォームを使うことで、世間への発信力を高め、より多くの方に知っていただけるのではないか。
こうした背景を踏まえつつ、各クラブが抱える課題は一様ではない。スタジアムの立地条件、自治体との関係性、交通アクセス、地域資源、スポンサー構造、ファン・サポーターの文化などが異なるため、欧州の成功事例をそのまま移植しても機能しない可能性がある。だからこそ“日本版”として最適化し、各クラブの状況に合わせたアクションへ落とし込む必要がある。
では、実際に欧州基準を日本で運用するにあたってどんな調整が図られたのか? SPL日本版の審査カテゴリーは12項目。いずれの項目も、サッカークラブが取り組むことで気候アクションを促進し、活動の質と量、方針の策定、文化醸成を重視している。
12項目の各項目では、具体的な評価基準や要件が設定されている。要素として抽出すると以下の3点になる。
❶活動の質×量
ポイント合計は最大33ポイント。項目ごとの活動内容・状況に応じて0〜3ポイント(ボーナスポイント含む)で配点
❷項目ごとの方針/戦略の有無(目指す姿や目標等)
❸ファン・サポーターの意識変容・行動変容につながる施策の有無(ボーナスポイント)
こうした項目・運用の先に目指すものは何か。スポーツポジティブ、Jリーグとともに日本版SPLの運用協議を進めてきたJリーグ気候アクションパートナーのKPMGコンサルティング株式会社の土屋光輝氏が解説する。
「全クラブで好事例を共有しながら、費用対効果を高める工夫や、マネタイズにつながる実践例などを、スピード感をもって共有していきたいと考えています。そうした好事例を参考にしながら、各クラブが一つひとつのアクションで競い合い、リーグ全体として気候アクションの取り組みを底上げしていくことが重要です。さらに、ファン・サポーターを巻き込み、全クラブの取り組みが各地域に広がっていけば、地域の意識が変わり、やがて社会全体の意識変容につながっていく。その連鎖を生み出せるのは、サッカーだからこそできることだと考えています」
■パネルディスカッション
Jリーグ辻井のファシリテーションのもと、セレッソ大阪の宮島武志 副社長、ジェフユナイテッド千葉の高橋薫 取締役が登壇。基調講演をしてくれたクレア・プール氏、ピーター・スミス氏も交えたパネルディスカッションでは、「現場の生の声」がいくつも飛び出した。
<セレッソ大阪の場合>
「未来の子どもたちにサッカーができる環境や社会を残したい。そのためには、まず『知る』ことから始める必要があると考えました。そこで、森島寛晃会長を筆頭に社員全員がサステナビリティ検定を取得し、学んだ知識を地域の学校で子どもたちに普及していく。クラブの選手OBである柿谷曜一朗さんにも協力してもらい、さまざまな業界の方々にサステナブル活動をプレゼンする。スタジアムではサポーターに対し自分たちの活動を理解していただき、一緒に巻き込んでいく。そんな取り組みを続けています」
たとえば、食品廃棄物から堆肥を作り、実際にその堆肥で野菜を作る。スタジアムグルメの各店舗には、持続可能な調達をしているか、使い捨てプラスチックへの対応、プラントベース(植物由来)食材への取り組み状況などを見える化し、優秀店舗はより優先してホームページなどで紹介……といった施策をすでに始めている。
「一つひとつはまだまだ小さい活動ですが、これから大きくしてきっちりした数字が出せたらと思っています。知ることから意識が変わり、意識が変わると気づきが生まれ、行動と結果が変わる。選手たちにも参加してもらいながら、未来につながる取り組みにしていきたいです」
この発表を聞いたクレア氏は……
「非常に素晴らしい取り組みだと感じました。さまざまな部門で、各クラブができるところから行動を始めていることがよく伝わってきます。会場で話を聞いていたクラブの皆さんも、『自分たちにもできる』『すでに取り組んでいる』と感じる部分が多かったのではないでしょうか。
日本ですでにこうした取り組みが実践されていることに、大きな感銘を受けています。英国と日本では状況や前提が異なりますが、だからこそ『日本ではこうしている』『アジアではこうした事例がある』と、欧州に向けて発信できる価値があります。こうした情報を国や地域を越えて共有できること自体がすでに重要な一歩であり、今後さらに広げていくべき取り組みだと感じました」
<ジェフユナイテッド千葉の場合>
「ジェフでは昨夏の3ヶ月間、大雨や落雷の影響でサッカースクールが65クラスも中止になりました。これだけ中止になるとスクール会費も取れなくなり、クラブ経営にダイレクトに響いてしまうことを実感しました。また、毎年夏に小学生の国際サッカー大会を開催していますが、昼間は暑すぎて試合ができないと、次年度から15時〜21時の時間帯での開催を検討しています。ただ、小学生の試合が20時キックオフで本当にいいのでしょうか。こうした問題をきっかけに、Jリーグのクラブとして環境問題にきちんと対応し、未来の子どもたちにサッカーができる環境を残していかなければ……そんな思いから、サステナビリティ活動に取り組んでいます」
ジェフユナイテッド千葉が取り組むサステナビリティ活動の一例として紹介されたのは、スタジアムでの割り箸回収と再燃料化。また、出資会社JR東日本との連携で、JR東日本管内で開催されるJリーグの試合に合わせて駅とスタジアムにデジタルスタンプラリーを設置。デジタルQRコードでのスタンプラリーを通して、CO2排出が少ない公共交通機関の利用促進につなげている。
「関東にはJクラブが多いので、関東の他のクラブとも積極的に連携して、もっとこのデジタルスタンプラリーを実施したいと考えています。Jクラブ単体ではマンパワーが足りない、ノウハウがないといった課題があるとは思いますが、皆さんでアイデアを出しあっていければいいですね」
この発表を聞いたピーター・スミス氏は……
「多くのクラブがすでに意義ある取り組みを進めていることがわかります。意味のあることを実行するための『材料』はすでに揃っているはずですので、この材料をしっかりとプロセスに乗せることができれば、グローバルで行われている取り組みのさらに先を行くことも十分に可能です。『日本は欧州に比べて10年遅れている』という意見も耳にしますが、すぐにキャッチアップし、さらにはグローバルリーダーになることもできる。その条件はすでに整っています。そして、JリーグがSPLを導入することで、それらの活動はより明確になっていくと思います。2030年にどのような成果が生まれているのか、非常に楽しみにしています」
こうしたディスカッションを踏まえ、ファシリテーターを務めた辻井はこう締めくくった。
「今回はセレッソさん、ジェフさんの実例をお聞きしましたが、他のクラブでもさまざまな取り組みが実施されています。この会場にもいらっしゃっている水戸ホーリーホックさんとガイナーレ鳥取さんは、農業を行いながら太陽光発電を行うソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)に挑戦しています。発電量自体は、地域全体の電力として見れば決して大きな数字ではありません。ただ、『あれはいい取り組みだ』という評価が生まれることで、地域の電力会社や環境省の出先機関などが集まり、『もっと増やせないか』という次の議論につながっていく。そうした流れを生み出せるのが、クラブとJリーグの持つ力だと思います。
私自身、3年前に別の業界からJリーグの世界に入り、驚いたことのひとつが『Jリーグの発信力』です。Jリーグ単体では本当に小さな取り組みであっても、良いことであれば必ず新聞やニュースで取り上げられます。この発信力をどう生かしていくかは非常に重要で、サッカーだからこそできる役割があると強く感じました」
■特別演説「スポーツ界に期待すること」
(根本かおる 国連広報センター所長)
「気候変動は、国連システム全体にとって『一丁目一番地』と言える最優先課題の一つです。現在、世界では多くの紛争が起きていますが、気候変動はその影響する期間の長さや規模の大きさという点で、紛争以上に深刻な破壊力を持ち、人類の生存そのものを脅かす脅威だと考えられています」
そんな言葉から特別演説を始めたのは、本カンファレンスにご後援をいただいた国連広報センターの根本かおる所長だ。辻井も語った「Jリーグの発信力」について「大きな期待を寄せている」と語ってくれた。
「個人が気候変動対策として取れる行動は数多く存在します。国連では、さまざまなデータをもとに、一般の方々でも実践でき、かつ効果の大きい行動を10項目に整理しています。現在、メディアの皆さまと連携しながら、この『個人でできる10の行動』を多くの人に実践してもらう呼びかけを行っています。こうした状況において、国連はスポーツ業界が持つ裾野の広さ、そして選手を含めチームや組織が一丸となって取り組んだ際の発信力の強さに大きな期待を寄せています。
本日の議論のなかでも、『完璧でなくていい。まずは一歩を踏み出すことが大切だ』という言葉が何度も共有されました。その言葉を信じ、この場を起点に新たな連携が生まれ、具体的な行動へとつながっていくことを心から願っています」
■「思い込みで可能性を狭めてはいけない。見えてくるギャップはチャンスでもある」
(閉会の言葉:Jリーグ辻井隆行)
途中に挟んだ軽食も交えながらの「ネットワーキング」や、気候アクション推進に向けてのグループディスカッション「ラウンドテーブル」も含めると、4時間半の長丁場となった今カンファレンス。最後を締めくくったのはJリーグ辻井の言葉だった。
「2年前にクレアさんと初めてお会いし、SPLについて話を聞いたとき、正直なところ『これを日本のJリーグで導入すると言ったら、大きな反発やハレーションが起きるのではないか』という不安が先に立ちました。しかし、チームのメンバーとともに自分たちにできることから一つひとつ気候アクションに取り組み、多くの方々と対話を重ねるなかで、思い込みで可能性を狭めてはいけないのだと実感しています。これほどのスピード感で、今年の『明治安田Jリーグ百年構想リーグ』から取り組みをスタートできるという事実は、その象徴だと思います。
ただ、SPLはまだ始まったばかり。実際に点数を付け、順位を公表するまでには、これから半年から10ヶ月ほどの時間があります。プレミアリーグでも、最初はスコアが低いクラブが多かったと聞いていますが、初期の結果に落胆したり、距離を置いたりする必要はまったくありません。初めての取り組みなのですから当然のことであり、そこで見えてくるギャップはすべて次の一歩につながるOpportunity(機会)、チャンスだという言葉を、先ほどクレアさんからもいただきました。
サッカー、そしてJリーグが持つ最大の力は、リーグやクラブ、地域の行政が持続可能な方向へ進もうとする際に、『それはいいね』と背中を押してくれるファン・サポーターという応援団を生み出せる点にあると思っています。自分が完璧でなくても、専門的な知識がなくても、『未来はこうあってほしい』とファン・サポーターの皆さんと一緒に声を上げることができれば、意思決定を担う人たちも自然とその方向へ動いていくはずです」
Jリーグの誕生が日本のスポーツ文化の「新たな常識」を形づくってきたように、サッカーがサステナビリティを「日本の新たな常識」にする。そのスタート地点として、本カンファレンスは確かな一歩を刻んだ。
“気候変動とサッカーには深い関係があり、サッカーファミリーはその解決の力になれる。”
温室効果ガス
「Scope1,2」排出量と削減量を可視化
目指す状態
クラブがハブとなって地域資源(人・文化・自然)を活かしながら、再エネが広がり、自然環境保全・再生が進みはじめている(10クラブ程度)
サッカーファミリーとともに
サッカーファミリーが学ぶ場の深化・拡大
“地球とサッカーを守るため、カーボンニュートラルを意識した選択と行動がサッカーファミリーのスタンダードになる。”
温室効果ガス
「Scope1,2,3」排出量と削減量を可視化
目指す状態
クラブがハブとなって地域資源(人・文化・自然)を活かしながら、再エネが広がり、自然環境保全・再生が進みはじめている(30クラブ程度)
サッカーファミリーとともに
サッカーファミリー、地域のステークホルダーが連携を深め、行動・実践が加速する
“ホームタウン全てで、カーボンニュートラルと地域活性化を両立するための社会システム実現が進む。”
温室効果ガス
CO2排出量初年度対比50%削減
目指す状態
クラブがハブとなって地域資源(人・文化・自然)を活かしながら、再エネが広がり、自然環境保全・再生が進みはじめている(60クラブ程度)
サッカーファミリーとともに
様々なステークホルダーとともに、便利で環境に優しい仕組みづくりに向けて前進する
※Scope1:燃焼によって直接的に排出される温室効果ガスの量
Scope2:供給される電気の使用に伴って排出される温室効果ガスの量
Scope3:Scope1、Scope2以外に間接的に排出される温室効果ガスの量