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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

犬とホームタウン

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11年前の春、ドイツに赴任した際に、シルバー色のトイ・プードル犬“ポンちゃん”(当時5才)も、家族と一緒に欧州大陸の土を踏んだ。 到着の翌日、フランクフルト市役所で家族の住民登録を済ませてから、ポンちゃんの住民登録のために犬税事務所に向かった。ドイツには、250年ほど前から「犬税」という地方税が存在し、一般財源の中に組み込まれている。自治体、犬の大きさなどによって税額は異なる。 年額180マルク(約1万2千円)を納めると、裏面に「Ich mache die Stadt sauber.」(私は、わが街を清潔にします)と記された首輪用の鑑札メダルをもらい、これでポンちゃんも、立派なフランクフルト“市民”として扱われ、市民権ならぬ「市民犬」となった。

日常生活では、食品売り場や最高級ホテルのメーンダイニング、教会など「犬不可」のマークの限られた場所を除けば、地下鉄・バス、デパート、レストラン、ホテル、空港など大抵のところでは同伴が許された(盲導犬は除く)。 欧州各国の年間処分頭数は、日本の4分の1程度という。中でも、ドイツは動物愛護先進国でもある。仔犬の入手方法は、原則としてブリーダーという専門業者を通じて行われ、小売りは一般的ではない。仔犬は、家族の一員として、また“市民”として、ホームタウン内にある“犬のしつけ”専門のクラブで飼い主とともに訓練をうける。 地域ごとに里親探しのテレビ番組があり、飼い主を失った動物(犬とは限らない)が、スタジオに一頭ずつ登場する。獣医から事情や特徴・健康状態などが毎週紹介され、新しい飼い主の適格性が審査されて引き渡されていった。 住民登録の次は、自宅近くの獣医に向かう。日本から持参した健康診断書と予防接種証明書を提出すると、英語・ドイツ語・スペイン語などで書かれたポケットサイズの犬用の検疫“パスポート”を交付された。

このパスポートを携帯すれば、ポンちゃんと一緒に欧州各地を旅することができる。書店には、愛犬と欧州を旅する手引書がおかれ、国別に必要な検疫書類・輸送機関別のルール・乗車料金などが詳細に説明されているので安心だ。 ポンちゃんとの最初の国外旅行は、1998年、赴任したばかりの6月に行われたFIFAワールドカップフランス大会の開幕試合:ブラジル-スコットランド(パリ・サンドニスタジアム)の観戦だった。「市民犬」は、その後の試合でも、訓練されていると入場ゲートで見なされ、受入れられた。おだやかな時代だった。