ニュース news

お知らせ

2021Jリーグシャレン!アウォーズ
ソーシャルチャレンジャー賞
『【地域を応援】ホームタウン テイクアウトマップ
横浜F・マリノス』活動レポート

横浜F・マリノスが取り組む「【地域を応援】ホームタウン テイクアウトマップ」が2021Jリーグシャレン!アウォーズ・ソーシャルチャレンジャー賞を受賞しました。この取り組みや横浜F・マリノスの活動は、地域にとってどのような価値があるのか。その魅力に迫るため、日々地域と向き合い仕事をする現地の「公務員」が、クラブや協働者に話を聞きました。

 

 

●活動エントリー内容は→【こちら

●話し手
一般社団法人F・マリノススポーツクラブ 牧野内隆さん・服部哲也さん
NPO 法人ハマトラ・横浜フットボールネットワーク 代表理事 荒川昭憲さん
●聞き手・文 
大山紘平(横浜市役所、NPO法人PolicyGarage)
※本インタビュー記事は、全国の思いある公務員が集う「オンライン市役所」(運営:一般社団法人よんなな会)が担当しました

 

 

 

 

地域のテイクアウトマップをクラブとサポーターで作る
シンプルな仕組みと熱い仲間と

 

「ホームタウンテイクアウトマップ」は、横浜F・マリノスのホームタウンである横浜市・横須賀市・大和市を中心にテイクアウト・デリバリーが可能なお店を一覧化したものです。Googleマップ上で、連絡先やwebサイトなどのリンクと共に見ることができます。


スタート当初は100店舗ほどの掲載でしたが、今では591店舗(2021年4月23日時点)が掲載され、アクセス数も70万回以上にのぼります。

 

掲載店舗への呼びかけなどは、サッカー・サポーターと地域コミュニティの連携によるスポーツを通じた地域文化の創造を目指すNPO 法人ハマトラ・横浜フットボールネットワークと連携。呼びかけはもちろんですが、Twitter上でハッシュタグ「#fmarinos」「#fmarinosテイクアウトマップ」がつけられた投稿を集計して、掲載店舗を増やしています。

 

この活動を担当する横浜F・マリノスホームタウン活動担当の牧野内さんは「F・マリノスの担当2人としては、情報を集めることと、その情報をひたすらGoogleマップに打ち込むという非常にシンプルな活動です」と話します。

 

 

■わずか1週間で実現した、コロナ禍だからこその企画
―『ポス活」に協力してくれる飲食店に恩返しをしたい

 

この企画が動き始めたのは、およそ1年前の2020年4月14日。新型コロナウイルス感染症が蔓延し、初めての緊急事態宣言が出され、日本中が混乱していた真っただ中でした。テイクアウトマップが公表されたのは、そのわずか1週間後の4月21日。驚くべき早さで実現した背景には、10年以上前から行っていた『ポス活」がありました。

 

「2007年から、試合告知のポスターを地域の飲食店に掲示してもらっていました。こうした活動を私たちマリノスサポーターは、ポスター活動、略して『ポス活』と呼んでいます。皆さんご存知のように、このコロナ禍で飲食店の皆様が大変厳しい状況となりました。『ポス活』に協力してくれている店舗の方に恩返しをしたい。そういう声が私たちサポーターから複数上がり、私たちが紹介・応援していこう、となりました」(荒川さん)

 

さらに続けて、「この恩返しには申し訳なさも込められている」と語ります。

 

「恩返しといえば聞こえはいいですが、『ポス活』でお世話になっていた飲食店や商店街を、そこまで利用できていないという気持ちもありました。試合が終わった後など、顧客として常に利用していたかというと、そこまで意識していた人ばかりではありません。もちろん、意識して利用しているサポーターもいますが、『ポス活』で協力してもらっているお店をもっと利用するべきなんじゃないかな、という気持ちがコロナ禍になる前からありました。だからこそ何かしたい。そんな気持ちがありました」(荒川さん)

 

世の中では、様々な地域でテイクアウトマップが生まれていたタイミング。横浜F・マリノスの服部さんは、この企画を聞いたときに「ハマトラさんだけでやるのではなく、クラブとしてもしっかり連携して発信力を高めたい。そのためにもF・マリノスとして公式でやろう」とほぼ即断だったと言います。とにかく、この活動の肝はスピードでした。

 

「まさに今、お店の方々が困っている状況ですから、丁寧に企画を練って良いものを仕上げるよりは、少しでも早く情報を発信できる、その実行までのスピード感が最も大事だろうということで、そこを最優先に取り組みました。Googleマップへのデータの流し込みや承諾をとる作業なども、私たち自身で対応しました」(服部さん)

 

準備期間をこれほどまでに短くできた点として、地域のお店との関係性がありました。

 

「10年以上続く『ポス活」を通じた関係性もあったと思います。今回、このようなテイクアウトマップの作成を考えています、掲載許可をお願いしますとお伝えしたところ、皆さん『ぜひ』ということでした。全く何も関係性がない中でのお願いでは、さすがにこうはいかなかったと思います。オープンまでの準備はそういう意味では非常にスムーズだったと思います」(荒川さん)

 

 

 

 ※ポスターをが掲示されている店舗。店長もF・マリノスを応援してくれている

 

その後も掲載店舗を増やしていく目的で、横浜F・マリノスからも新たな商店街へ、「今そちらの商店街でホームページに掲載しているお店情報を、私たちのテイクアウトマップにも転載させてください」と声がけを重ねました。

 

「その返事が、非常にウェルカムというか、もうぜひやって欲しい、ありがたいですっていうような声がほとんどでした。商店街さんも集客という意味で、クラブからサポーターへの発信力に期待いただけていたのが伝わってきました。頑張ろうと思いました」(牧野内さん)

 

また、今回はクラブからの情報収集だけではなく、サポーター個々人も活動に加われるようにと、Twitterを通じての掲載店舗情報の収集という動線も設計していました。

 

「例えば、当初は横須賀地域の情報が少なかったのですが、あるサポーターの方が『私が店舗情報を集める!』といって、精力的に活動してくれていました。実際にお店に行って、自分でテイクアウトをして写真を撮って投稿する。それも刺身など売りになりそうなものも注文する、ということを複数回行ってくれたんです。

 

ほかのサポーターもそうした姿を見ているんですよね。そうすると、自然発生的に『私も一緒にやろう!』と輪が広がるというか、つながるというか、とても良い循環がうまれた気がします。応援気質と言いますか。私たちはクラブサポーターなので、頑張っている人を応援する土壌がある。そういった点も、ひょっとするとよかったのではないかなと思います」(荒川さん)

 

 ※実際に投稿されたツイート

 

 

一つの目標に向かって仲間が集まっていく
―横浜F・マリノスの新しい使い方の兆し

 

今回のテイクアウトマップづくりは、地域とのつながりをあらためて見つめ直すことになったと、牧野内さんは話します。

 

「目の前で今まさに困っている飲食店の方がいる。そこにとにかく最速でアプローチしようと大急ぎで走りましたが、今思うと旗を立てることの大事さを学びました。

 

旗を立てるというのは、皆さんから見える形で取り組みを示すということです。情報公開してからは、『私たちの商店街の情報も掲載してほしい』という声をかけていただくなど、地域の中でこれまでつながりのなかった方との交流が生まれたのですよね。クラブとして地域とつながる活動はもちろん大事にしていたのですが、こういうきっかけもあると、新たな気づきを得られたのは良かったです」(牧野内さん)

 

これまでのホームタウン活動とは異なる手応えを感じられた。「シャレン!ってこういうことかもしれない」と続けて話します。

 

「やっていくうちに仲間が増えていく感じが本当に良かったです。一つの目標に向かって仲間が集まっていくという点が、シャレン!っぽい、といいますか。必ずしも大きな仕掛けを丁寧に準備しなくても、こういうことができるんだなって、やった後に振り返ってみて気づきました」(牧野内さん)

 

服部さんも、「何もないところからはこの活動を生み出せなかった、サポーターや地域とのつながりがあってこそ実現できました」と、この1年を振り返ります。

 

「スピード感をもってやれたことに価値があると思っていますが、ここまで一直線に実行まで走れたのは、やはり日頃からのつながり、私たちでいうとサポーターがいたからだと思います。長い期間、継続して培ってきた関係性のもとに、お互いが手を取り合って始めたからこそ、実行までの勢いが生まれたのだろうと思います。サポーターや地域の方の協力なく、クラブだけで到底できることではありません」(服部さん)

 

さらに、「スポーツに限らず地域の様々な課題解決へF・マリノスも一緒に取り組めることを皆さんに伝えたい」と牧野内さんは話します。

 

「サッカークラブっていうことで、どうしてもサッカーに直結することを想像されるのですが、サッカーだけじゃないんですよね。地域に根差すクラブなので、地域の課題は僕らにとっても無関係ではない。守備範囲のことなんです。一見サッカークラブと関係なさそうなことでも『F・マリノスとやれないかな』『F・マリノスだったらどう思うかな』なんて思っていただけるとすごく嬉しいなと思っています。

 

私たちのホームタウンは、横浜市だけでなく、横須賀市や大和市も含まれていて、人口規模や地域性も様々です。地域毎に課題も異なりますから、地域ごとの自治体だったり、いろんな団体、商店街も含めて、F・マリノスを使ってもらえることを、もっと啓発していくことが必要かなと思っています。

 

スポーツじゃないから関係ない、と思われるのではなく、ありとあらゆることで街のために役立てる可能性があるというか、街を一緒に良くするパートナーとして認識してもらえるとありがたいと思いますし、そう思っていただけるよう、これからも努力していきます」(牧野内さん)

 

サポーター視点で見ると、シャレン!は、これまでサポーター活動に関心が無かった人とのつながりのきっかけになるかもしれません。

 

「今回のテイクアウトマップの取り組みで、Twitterのハッシュタグで幅広いサポーターが関われることをみんなで共有できました。『ポス活』のように長く続いている活動は、新しい人が参加しづらくなってきているところもありましたが、このテイクアウトマップが、サポーター活動への敷居を下げるきっかけといいますか、シャレン!がサポーター活動の入り口になるかもしれない、そのように期待しています」(荒川さん)

 

 

■対話の中で仲間と一緒につくりあげる

 

つながりがきっかけになり、社会課題解決に対して、できることからアクションする。そういったアプローチが生まれる可能性を感じさせてくれるのが、今回のテイクアウトマップでした。

 

「今後は、テイクアウトマップを広げていくとともに、店舗や商店街とのコミュニケーションを深めていきたいです。本当のことをいうと、テイクアウトマップが無くてもよい世の中が早く来てほしいと思いますが、コロナ禍が続く限りは必要なものなので、今回積み重ねたものを踏まえて次のステージも考えていきたいと思います。例えば、今回つながりが新たにできた店舗に、ポスター掲示にご協力をいただいたり、応援ショップになっていただくなど、私たちのファンコミュニティの中にお店を位置づけて、広げていくこともできると思っています。

 

また、今回の活動を通じて、作り上げていくってことがすごく大切だと感じています。決まったものをやることも大事ですが、様々な方との対話の中で、課題解決につながる何かを一緒に作り上げていく。共感できる目標を立てて、そこに向かっていくことが必要だと感じています。

 

対話をすることで気づくことが、たくさんあるんですよね。F・マリノスの活動って、まだまだ知られていないんです。知ってもらえると新たな対話の機会が生まれますし、対話自体がすぐに形にならなくとも、蓄積することで、いつかなんらかの形になることもある。今回の活動でそれを十分感じました」(牧野内さん)

 

画像提供:一社F・マリノススポーツクラブ、NPO 法人ハマトラ・横浜フットボールネットワーク

 

 

 

 

― 取材後記 ―  

Jリーグが取り組んでいるシャレン!は想像していたよりも身近なもので、誰もが関わって良いもの。今回の取材に参加して最も印象に残ったことです。

 

牧野内さんの言葉を借りると、シャレン!という旗はすでに立てられていて、更に横浜F・マリノスはどんな社会課題でも良いので、一緒にやれることを探していきたいと望まれている、このことを多くの人が知ることで、可能性は広がると思いました。それは市役所職員も同じです。

 

私自身も、複雑化してきた社会課題の解決には一つの側面からだけのアプローチだと難しくなってきていると感じていたところもあり、より良い政策の実現にむけたNPO法人を仲間たちと立ち上げたばかりのところだったので、大変共感しました。

 

取材の終わり、ぜひまたお話しさせてください!と、お声がけさせてもらい、当然に快く受けてくださいました。その時が今からとても楽しみです。まず対話のアクションを起こすこと、それこそがより良い社会のきっかけにもつながっていく、そう確信にも似た感覚を覚える取材でした。受賞おめでとうございます。そして貴重な機会をありがとうございました。