ストーリーstory

イベントレポート 想いが広がる1日。Jリーグがもたらす笑顔の輪。〜第2回 シャレン!キャンプ イベントレポート〜 [2019.11.13]

2019年11月13日。Jリーグが取り組んでいる「社会連携活動」、通称「シャレン!」のイベントが、ノエビアスタジアム神戸にて行われた。「シャレン!」とは、社会課題や共通のテーマに、地域の人・企業/団体・自治体・学校等とJリーグ・Jクラブが連携して取り組む活動のこと。第2回目となる今回は、関西、中四国エリアの各クラブが集まり、西日本では初となる「シャレン!キャンプ」が実施された。西日本では初開催とあって、首都圏で行われた第1回に比べ、より「シャレン!」の意義や成り立ち、目指す世界観についての共有を深めることにも重きが置かれた。

「シャレン!キャンプ」とは、地域の笑顔を増やすためにさまざまな地域・社会課題を解決すべく提案されたアイデアの実現に向け、内容をあらゆる角度から見て、深める場。「シャレン!」の理解を深め、仲間と出会い、提案施策の実現にむけて動き出す場のことだ。今回も前回と同様、多数の応募アイデアの中から選ばれた7つのアイデアについて、日々、ホームタウン活動を行っているJリーグのクラブスタッフを含め、様々なセクターの人たち70人ほどが集まり、多角的な視点で対話がなされた。

開始時刻が近づくにつれ、続々と参加者が集まってきた。期待感とともに熱気が高まる中、まずはSTEP1として、「シャレン!を知る」プログラムからスタート。ここでは、「シャレン!キャンプ」の目的や、進め方、「シャレン!でつくりたい世界観」の共有が図られた。冒頭、Jリーグ社会連携本部のスタッフが挨拶。「シャレンとは、社会連携の略。ここで皆さんと連携した活動を生み出すことで、全国に素晴らしい社会、地域を作っていきましょう」と開会宣言がなされた。

続けて、「シャレン!」の起案者である米田惠美理事が登壇。川崎フロンターレが取り組んだ「発達障害者を支援するプロジェクト」の動画とともに、「シャレン!の世界観」についての話があった。「一つのアイデアが周りの共感を呼び、世の中を良くしていくことにつながっていく。プロジェクトの大小に関係なく、『誰かのために何かをやりたい』気持ちがスタート」。この言葉に、「シャレン!」の意義が凝縮されていた。

セレッソ大阪が取り組む
“読書推進プロジェクト”

7つのアイデアが共有される前に、あらためて、「シャレン!とは何か」について共通理解を深めるトークセッションが行われ、STEP2として、より実践に近い「シャレン!をつくる」プログラムへ突入した。
「シャレン!」とは、「個人の思いで社会や世界を良くすることはできるのか?」という問いかけに本気で真摯に向き合うこと。出発点は、「私たちの力で、もっと幸せな国をつくるにはどうしたらいいか」という素朴な問いかけ。一人のアイデアが発端となり、共感者、賛同者を巻き込みながら、みんなで動いて形にしていくことが「シャレン!」の肝であり、解決したい課題に対し、Jリーグクラブ、企業、行政、NPOなど3者以上の働きかけにより、分かち合えるゴールに向かって取り組んでいくことを目指す。「スポーツでもっと幸せな国へ」との百年構想を謳うJリーグ。スポーツをする、見る、応援することも大切だが、クラブを支える街に笑顔を届けていくプロジェクトこそ、「シャレン!」が目指す取り組みだ。

ここでは、その一例として、大阪市立図書館と協働して、「読書推進プロジェクト─本を読んで、人生を豊かに─」を進めているセレッソ大阪の事例も紹介された。大阪市立図書館とセレッソ大阪は、これまでも、読書を通じて豊かな心を育むことを目的として様々な活動を実施してきたが、セレッソ大阪25周年という節目である今年は、大阪市内外の企業や団体とともに、今までの取り組みに加え、大阪市立小学校の全児童を対象としたオリジナル読書手帳の配布や、セレッソ大阪のホームゲームで選手らによるおすすめの本を紹介するコーナーも設置されるなど、さらに活動の幅を広げた。
「大阪市民が読書とともにサッカーやスポーツも親しむための一助になるように」との思いで実施されているこれらのプロジェクトは、「1冊でも本を手に取り、活字に触れて欲しい」との図書館職員の思いがスタートになっており、セレッソ大阪や企業と組んで、輪が広がっていった。活動を推進していったセレッソのホームタウン担当のクラブスタッフからは、プロジェクトを進めていく上での喜びや意義に加え、スポンサー集めや関連企業との協力体制の構築など、知恵やノウハウ、ネットワークなどプロジェクトを実現するために必要なリソースを持ち寄る重要性も語られた。社会を良くするために、Jリーグクラブが多くの人と関わり合いながら、アイデアの共感を集め、地域、日本中にたくさんの笑顔を創っていくこと。それこそが、「シャレン!」の根本にあるテーマだ。

“想い”が詰まった7つのアイデア

「シャレン!」を知り、つくり方を学んだあと、いよいよ、7つのアイデアが発表された。

  1. ①V・ファーレン長崎みらい大学の設立

    一つめは、長崎県東彼杵町まちづくり課の職員が登壇。テーマは地方の疲弊。人口流出、少子化に伴う「消滅可能性都市」という地方の課題を解決するため、地方の活性化、将来の東彼杵町を作る人材育成を目標に、「V・ファーレン長崎みらい大学の設立」を提案された。

  2. ②みんなで食べようプロジェクト

    二つめの発案者は、農林水産省に所属し、食品ロスの削減を推進している国家公務員。まだ食べられるのに捨てられる、いわゆる「食品ロス」と、食べられずに困っている人に提供するフードバンク活動をされており、Jリーグと連携しての、「みんなで食べようプロジェクト」を提案された。

  3. ③全日本仮囲いアートミュージアム

    三つめは、知的障害のあるアーティストが描くアート作品を使って企画をしている株式会社ヘラルボニーの社員が登壇。「知的障害のある人たちの笑顔が見たい」という希望を元に、知的障害のあるアーティストと子どもたちで、建設現場にある仮囲いにアートを描く、「全日本仮囲いアートミュージアム」を提案された。

  4. ④大都市RE100マッチツアー 自然エネルギーでサッカー!

    四つめの発案者は、指定都市自然エネルギー協議会義務局の事務員。政令指定都市が集まって再生可能エネルギーの普及促進を目指して活動している協議会と、その政令指定都市をホームタウンとしているJのクラブがタイアップし、再生可能エネルギーの必要性や啓蒙を目的とした「大都市RE100マッチツアー 自然エネルギーでサッカー!」を提案された。

  5. ⑤One to Diversity

    五つめは、2020年1月にオープンする京都スタジアムの建設地である京都府亀岡市の副市長が登壇。「外国籍の住民が急増している亀岡市を多文化共生の最先端の街にしたい」という願いを元に、多様な子どもたちを「1つのチーム」にするサッカー教室の開催、伝統文化体験や多国籍文化体験など、「One to Diversity」を提案された。

  6. ⑥多世代交流型スポーツコミュニティ拠点創出

    六つめの発案者は、全国にスポーツクラブを運営している株式会社ルネサンスの社員。高齢化が進む地域の課題に対し、全国にスポーツクラブを運営しているルネサンスとJクラブが一緒になり、地域の不安や悩みを未来への期待に変える「多世代交流型スポーツコミュニティ拠点創出」を提案された。

  7. ⑦子どものスポーツ祭り

    七つめは、中四国エリアの挑戦する人、挑戦する人を応援する人が集結するコミュニティーを主宰している男性が登場。地域活性化を目標に、イベントの中で自然に多世代交流する機会を作る企画、「子どものスポーツ祭り」を提案された。

熱量を持った議論。
新たに撒かれた種が
実現する景色へ向かって

それぞれのアイデアのプレゼンが終わると、次は「ポスターセッション」と呼ばれるワークショップへ。参加者がそれぞれの立場から持ち得る経験や情報を交換、共有し、各アイデアについての理解を深めた。

発表者と参加者のマッチングタイムを経て、参加者は自分がコミットしたい企画を選び、チームができあがると、今度は「チーム対話」が行われた。ここでは、喧々諤々、発案者を中心に一つのテーブルで対話・議論が交わされ、「どうすれば、より良いアイデアになるのか」、「このアイデアのさらなる可能性は?」「単発のイベントではなく継続的な取り組みにするために必要なモノは何か」、「まずは小さくでもいいのでスタートさせることが必要ではないか」などの様々な観点から、アイデアをブラッシュアップしていった。

この時間こそが、バックグラウンドの異なる多くの人が集まって対話を繰り返す「シャレン!」の肝であり、一人で考えていては決して浮かばないアイデア、解決策も生まれてくるのである。参加者の表情を見ていると、皆、生き生きしており、ここから何か新しいモノが生まれてくる予感に満ちていた。

「チーム対話」の後、それぞれのチームが企画フォーマットに改善点を書き込み、最終的に新しい企画フォーマットにアップデート版を作成。アイデア実現の可能性を高めるために飛び交った様々な意見を集約し、整理した。

最後に発案者7名が再びプレゼンテーション。「いろいろなアイデアをいただいて感謝しています。今日、ここに来て本当に良かった」と興奮冷めやらぬ様子で話す発案者もいれば、初めて「シャレン!キャンプ」に参加したクラブスタッフの一人は、「クラブ間の垣根を越えて、社会問題をみんなで解決するプロジェクトは素晴らしいと思った。クラブスタッフだけではなく、企業や行政の人も関わることで、より広がりを見せていく」と話し、「シャレン!キャンプ」の意義を実感した様子だった。

内容もブラッシュアップされつつ、西日本では初開催となった「第2回シャレン!キャンプ」。社会の共通課題に取り組むという真面目なテーマの中にも、参加者の表情は一様に明るく、熱量を持った議論が和気あいあいと行われた。

閉会の挨拶では、今回の「シャレン!キャンプ」の幹事クラブのスタッフから「一人で取り組んでいても、できることは限られている。たくさんの人の意見を聞くことで、やっていることが広がっていく。今日のアイデアが全て実現したら素晴らしいが、今回、もし実現しなくても、さらに企画内容を深めていけば、いつか必ず実現できると思う」という、皆の共感を呼ぶ力強い言葉もあった。

「第2回シャレン!キャンプ」を総括して米田惠美理事は、「第1回からバージョンアップできた。それぞれの提案も素晴らしく、各クラブのシャレン!に対する理解度が上がっていることも実感できた。すぐに成果は出ないけど、プロセスの設計が大切。シャレン!の活動を自分のこととして捉える人がクラブに増えていくことが、このプロジェクトの成功につながっていく。Jリーグからクラブ、クラブから地域、といった主体性の広がり、将来像が感じられたことが、私にとってはうれしいことでした。今日、また新たな種が撒かれたと思っています」と、とびきり素敵な笑顔を見せた。

「シャレン!」の輪が全国に広がり、「シャレン!」の世界観を共有した仲間とともに、Jリーグを通じて日本中に笑顔が広がっていく景色は、近い将来、必ずや実現されるだろう。そういった確信に満ちた「第2回シャレン!キャンプ」となった。

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