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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

スポーツの土台

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西ドイツのスポーツ人口(クラブの登録会員数)は、ブンデスリーガが発足した当時には約500万人だった。それが、20年後の1980年には4倍の2,100万人に増加した。その背景にあった国家的なスポーツ政策の存在を看過することはできない。 現在ドイツにある約9万(うちサッカー2万6千)の地域スポーツクラブの基盤は、1960年にスタートした15年計画の“ゴールデン・プラン”つまり全国スポーツ施設整備計画の貫徹により築かれたと言っても過言ではない。 戦後の経済復興が進む中、生活レベルが向上し経済的な余裕ができると、労働時間の短縮により時間にゆとりが生まれた。他方、工業社会の進展は、国民の運動不足や医療費負担の増加を助長した。 そこで、スポーツの効用に着目。

誰もが日常の中で自由にスポーツを楽しめる環境を整えるため、スポーツ施設の充実を急いだ。計画の目的には「健康の維持、楽しむ(遊ぶ)、元気を回復する」が謳われている。 人口5千人区分で施設を配備。既存施設の適・不適を見直した上で、4つの基本施設- 芝生のグラウンド(16,000ヵ所)、体育館(13,000)、室内プール(2,100)、屋外プール(2,000) -を対象にした。具体的な計画づくりは、現場である地元自治体に一任され、資金は、国20%、州50%、地元自治体30%とすべて公的な負担でまかなわれた。 実際の費用は、当初予算を大幅に超過し、最終的には3倍の174億DM(1兆1千億円)に達した。これだけ多くの公的な資金を長期間スポーツのため、市民クラブのために使い続けることは、わが国ではなかなか考えにくいことではないだろうか。 散歩を楽しむ、仕事を楽しむ、人生を楽しむ・・・「楽しみつつ何かをする」心のゆとりは、今も日本人がもっとも苦手なことかもしれない。スポーツの原点とは、「楽しみながら体を動かす」こと。

そのためには、施設の質も量も欠かせない。 ドイツのスポーツ人口は、いま2,700万人(うちサッカー630万人)、国民の3人に1人が地域のスポーツクラブ(55種目以上)に属し、そのすそ野は広い。成熟した社会では、スポーツや文化が、経済、環境、福祉とならび国家の重要な政策の一つに位置づけられる。政党ごとに独自の「スポーツ政策大綱」を備えることが不可欠なほどに。 “ゴールデン・プラン”は、良質なスポーツ施設-豊かな人生を過ごすための「土台」-を、小さなまちに暮らす人々の身近にも遺している。そこでスポーツを楽しむ光景に、百年構想の1コマが垣間見えてくる。