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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

サポーターズ電車

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沿線住民の喜びをのせた始発電車が、2006年4月1日早朝、貴志駅をゆっくりと走り出した。地方鉄道の再生プロジェクトのお手伝いをさせてもらったときの話である。その鉄道とは、猫の駅長“たま”ちゃんや“いちご電車”で有名になった和歌山電鉄貴志川線(和歌山-貴志間14.3km)。 赤字を理由に廃線が決まった南海電鉄のローカル線の運営が、両備グループ:岡山電気軌道の協力によって引き継がれた時の利用客の大半は、沿線の通学生と高齢者になっていた。ベッドタウンの住民たちの多くは、いつしかマイカー利用に転じ、ピーク時360万人いた利用客も、存続問題が表明化した04年には192万人に。この危機を救ったのは、一時はアイデンティティを失いかけたが、それに気づいた「地元の声」だった。

存続を願う沿線住民の心は、“乗って、残そう、貴志川線!”を合言葉に、地元自治体関係者を動かし、ついには財政支援につながった。(1)利用の有無に関係なく地元全体で起きた存続運動(2)子供からお年寄りまで全世代からの存続を求める声(3)存続策や沿線の魅力を考える住民フォーラム開催など具体的な活動が実を結んだ。 再出発から約2ヶ月後、筆者が会長を務める「地方鉄道再生研究会」は、利用促進策を考える基礎資料づくりのため、地元の方々とともに乗客アンケート調査を二日間実施した。伊太祁曽(いだきそ)神社内で行われた打合せは、貴志川線の未来を自分たちの手でつくるんだという地元の熱意がみなぎる雰囲気だった。 回答率は、存続検討時を10%以上も上回り関心の高さを示す。回答者の56%(660人)の方々からさまざまな自由意見が書き込まれ、「~して欲しい」という要望事項がほとんどだろうという予想に反して、「~したらもっと利用客が増えるのに」「サポート活動へ積極的に参加していきたい」と激励や前向きで具体的な提案が数多く寄せられた。

初年度の乗客数は、前年比10%増の211万人に。通勤定期の利用者が14%も増え、マイカーから電車に乗りかえる地元民の意識改革も顕著になる。地元の意見を反映するため、住民・高校生・PTA・商工会・自治体らで構成する運営委員会を月1回開催。駅舎では、高校生が掃除をしたり花を飾ったり、またお年寄りが草刈したりする光景が見られる。 「日本一心豊かなローカル線になりたい」と語る両備グループの小嶋光信代表は、「地方鉄道再生の鍵は、『地元の声』」と話す。地域の人々にどれだけ愛されているか、その心がどれだけ具体的なかたちで表現されているかということ。「おらがまちの鉄道」も「おらがまちのチーム」も、一番大切にしなければならないものは同じ。地元の声こそが宝物だ。