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今日の試合速報

コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

ホームスタジアム

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今春、欧州各地のスタジアムを訪問した。かつての「グラウンド」から、近年では“Arena”と呼ばれる「多機能複合型」へ進化を続けている。百年を経ても、その設計思想に一貫して変わらぬ哲学を見た―『ホームのために』。 どの種目でも、ホームチームにとって最適な建設や改修が行われる。サッカーであれば、専用のグラウンド、ファンに快適な観戦を約束するホスピタリティ(もてなし)、個席のすべてを覆う屋根、ナイトゲームに十分な照明設備など、どれも臨場感あふれる環境を演出し、ゲームを楽しむためには欠かせない。

スタジアム内にあるファンショップは、常に老若男女でにぎわう。ロケーション(立地条件・交通アクセス)も、最重要ポイントの一つ。こうした要素が備わるホームスタジアムへは、毎試合足を運びたくなるだろう。 Jクラブがホームスタジアムとして使用している多くは、もともと国体などスポーツ大会開催に照準を合わせ、予算が根拠づけられた「競技場」である。たとえば、宮城、新潟、東京、横浜、静岡、大阪、岡山、広島、大分、熊本など。 設計する上で最優先されたのは、当然のことながらホームチーム主体ではないから、すべて陸上競技との兼用型である。幅の広い陸上トラックを挟み、ピッチから遠く傾斜の比較的緩いスタンドからの観戦は、チームとファンが一体となる劇場空間にはなりにくく、スポーツ文化とはほど遠い。 “ホームスタジアム”の名称は、ホームチームを第一に考えてこそ、アイデンティティ、市民のプライド(誇り)を映し出す場となる。

欧州では、その証(あかし)として、スタジアムの正面にクラブのエンブレム(紋章)を大きく飾るなど、スタジアムの「顔」をつくる工夫が見られた。ホームに集まるファンたちは、その「顔」に互いのアイデンティティを確かめ合って連帯感を高める。アウェイからの訪問客は、試合前から圧倒される。 仙台、鹿島、浦和、千葉、神戸、鳥栖、大宮(改修)、清水(改修)など“ホームスタジアム”が徐々に誕生している。毎試合大勢のファンが集う“埼玉スタジアム2002”や“ユアテックスタジアム仙台”に、ホームの「顔」が登場するのも近い日かもしれない。