本文へ移動

今日の試合速報

コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

マイカー

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「ご当地ナンバー」の一つに“下関ナンバー”がある。これまで、全県“山口ナンバー”だった。「自ら手続きをして入手したプレートが車に取り付けられたとき、下関への愛着を覚え“自分のまちの車なんだ”と強く感じました。」という地元の声にうれしくなった。 以前、ドイツで新車を購入する際、日本のように、「標準装備」の名で、初めからなんでもかでも整えられてはいなかった。基本車+オプションのかたちをとり、基本車には、エアコンもオーディオもなく、走るために最低限必要な機能とシンプルなデザインしか付かない。ドアの窓ガラスの開け閉めを手動でするか自動式にするか、車体の色、シートの生地、ギアノブ・カバーの素材などすべてオプションで決め、車のあり様を完成させていく。 出来上がった車は、世界で一つだけの『マイカー』に仕上がる。

与えられた完成品ではなく、自分にとって何が必要で何が必要でないかを、選択する個の力があってこそ。必要なもののみに対価を支払うことへも、はっきりした意思が表れる。自分にとっての無駄は、問答無用の不必要となる。 原則、受注生産方式のため、通常は注文してから約3ヶ月後の納車。お客はディーラーから「工場まで車を受け取りにいらっしゃいますか?」と聞かれる。 シュツットガルト近郊の町:ジンデルフィンゲン(人口6万人)にある、メルセデス・ベンツを生産するダイムラー社の自動車工場を視察したときのことである。見学コースは、まず一般客とともに20分ほどのビデオ上映から始まった。その中に、オランダから来たという初老の夫婦もいた。 工場内の生産工程を順に見学しながら、案内の人から興味深い話を聞いた。この工場で完成した自分の車を引き取りに、毎日欧州各地から訪れる人々がいるというのだ。出来たての車の初ドライブで家路につくのを、みな楽しみにしている。「こんな車に乗りたい」との願いが込められた『マイカー』が、3ヶ月待ってようやく出来上がる。

見学コースが検査工程を経ていよいよ最終地点にさしかかるころ、ソワソワし始めた初老の夫婦のもとへ工場の人が近づき、一台の車を指差した。「あそこに、あなた方の車が出来上がっています。」オランダから持参してきたEU仕様のナンバープレートがその場で取り付け封印される。夫婦が乗った『マイカー』は、シュバルツバルト(黒い森)の工場を後にした。 スポーツクラブの場合も、自動車と同様に、個の意思抜きに語られるものはなく、“手づくり”が基本であることに今も変わりはない。