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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

ベースキャンプのまち

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10年前のこと。シドニー五輪最終予選のアウェイ:カザフスタン戦直前のキャンプのお手伝いをさせていただいた。フィリップ・トルシェ監督が選んだのは、ドイツの“黒い森”にある高級保養地バイヤースブロン(人口2万)。前年のFIFAワールドカップフランス大会の際に、彼が南アフリカ代表監督として大会直前のキャンプ地に選んだところだという。空気がきれいで、ミシュランの星を冠したレストラン3軒を有する食文化のまちでもある。 FIFAワールドカップや大事な一戦に備えたキャンプ地の選定条件には、さまざまな要素が必要である。精神的にリラックスと集中ができる環境は、特に優先順位が高い。2002年のFIFAワールドカップ日韓大会の際、日本代表が静岡県袋井市にある、市街地から隔たった閑静な和風のホテルに決めたこともうなずける。

2006FIFAワールドカップドイツ大会に参加した32カ国のプロがベースキャンプ地に選んだ町とホテルについて調べてみた。人口規模の小さいところがほとんどで、30万人超の大都市には、僅か5チーム。22チームが、10万人以下の小都市に滞在し、スイス・オランダ・チェコ代表など7チームは、1万人に満たない村に陣を張った。 小さい町ながら、どこもBad、Spa(温泉)やLuft-Kur-Ort(空気の澄んだ場所)の認定を受けた本格的な「保養地」(イングランド代表ほか)。静寂な町の雰囲気、住民の高いおもてなし意識など、スポーツ文化にふさわしい環境である。共通するのは、地元の伝統あるスポーツクラブの存在と、そこで住民が日頃からスポーツを気軽に楽しんでいること。 宿泊施設には、次の三つの特徴があった。第一は、自然を好む郊外の立地。

心身ともにリフレッシュできる空間が意識される、静かな森の中(アルゼンチン・オーストラリア代表)、美しい湖畔(ウクライナ代表)、緑豊かな公園の中(スウェーデン代表)などが多い。 第二は、宿泊施設のたたずまい。我が家にいるような感覚を与える大きな離れ家風。“Schloss-Hotel”(ドイツ・フランス・ブラジル代表)や“Landhaus”(イタリア代表)と名付けられたホテルがこれに当たる。 第三は、施設の専門性。日本ではあまり見かけないが、スポーツのキャンプ専用の機能が施され、“Sport-Hotel”や“Sportschule”と呼ばれる(スペイン・ポルトガル代表)。 温泉のある町、空気のきれいな中山間地の町、自然豊かで静かなたたずまいの宿、心温まるおもてなしの心を、各々のおらが地方で、われわれ日本人が引き継いできたことは、いまさら言うに及ばない。 たとえ初めは小さな“スポーツクラブ”であっても、そこに暮らす人々や子供たちを豊かに育む“クラブ”の存在があれば、「ベースキャンプのまち」は確かに誕生するだろう。