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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

分散のすすめ

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J1の1試合平均入場者数19千人(2008年)は、欧州強豪国に次いで世界第6位。トップは、39千人のブンデスリーガ(独)で、人気のプレミアリーグ(36千人)を抑えて首位に立つ。その秘密は、中心が分散した“国のかたち”にあるようだ。 過去、欧州チャンピオンズリーグ(カップ含む)とUEFAカップの決勝戦にコマを進めたドイツのクラブは、B・ミュンヘン、ドルトムント、ハンブルク、メンヘングラッドバッハ、フランクフルト、レーバークーゼン、シャルケ、ケルン、シュツットガルト、ブレーメンと、多くの有力クラブが国中に散らばる。 “国のかたち”の基本は、欧州(EU)もアメリカ合衆国も分散主義、その上にスポーツ文化は繁栄する。文豪ゲーテは、エッカーマンとの対話(1828年)の中で、ドイツの“国のかたち“を多くの手足を持つ体に例えている。

「首都は心臓、生命と健康が個々の肢体に流れ込む。肢体が心臓から遠いと、流れて来る生命はますます弱くなる。一つの大中心地よりも、たくさんの中心から流れ出ている方がよい。国のあらゆる場所に行きわたった”文化“に伴い、”富“も拡がる。」 欧米の企業は、その成長過程で、本拠地(ホームタウン)を発祥の地から大都市に移すことは稀有。たとえば、欧州最大のソフトウェア会社SAP社は人口15千人のヴァルドルフ(独)に、高級車メーカーのフェラーリ社は16千人のマラネロ(伊)に、この小都市に創立以来ずっと腰を据える。その例を数え上げれば、枚挙に暇がない。 売上高上位400社(1995年:除く金融・保険)の本社所在地を、日独で比較してみた。日本は、僅か50都市に集中。64%の会社は東京に、大阪を加えると8割が2都市に集中する。

ドイツは、127都市に分散、最多のハンブルクでも11%、次いでミュンヘンの7%・・・上位22都市を合計すると、ようやく東京と同じ割合になる。 今シーズン初優勝したWolfsburgのホームタウン:ヴォルフスブルク市は、北ドイツにある人口12万人、自動車メーカーVW(フォルクスワーゲン)社の城下町。かように、クラブを経済的に支える有力企業もまた、ドイツ全土に分散している。 Jリーグ誕生の年、戦後日本の国土計画の“御大”と呼ばれた下河辺淳氏が、『地域社会とスポーツ』と題するセミナーのパネリストとして口にした言葉が思い出される。 「まず、全国に工業を発展させることが地域の活性化につながると信じてきた。しかし、いま元気になった鹿島町の姿を見ていると、都市の文化水準(例えばスポーツ文化)が高くないと、その工業自体を維持できないとわかった。文化が、工業に代わる時代になった。」