本文へ移動

今日の試合速報

コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

市庁舎バルコニー

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

バルコニーは、イタリア語の「balcone」に由来する言葉で、建物の壁面の外側に張り出した、手すりのついたスペースである。欧州では、「ロミオとジュリエット」の舞台となったヴェローナ(伊)にある住宅のバルコニー、正装した観客のために備えられた劇場のバルコニー席のほか、まちの市庁舎にもみられる。市庁舎の2階に設けられた大きなバルコニーは、眼下の広場と一体化して、昔から市民に向けた報告会や祝い事が催されてきた。 ドナウ川の上流に沿う中世都市ウルムは、人口10万人、アインシュタイン博士の生誕地。ここをホームタウンとするSSVウルム1846は、クラブ創立153年目の1999~2000シーズンに、ただ1年だけブンデスリーガ1部に在籍、現在は4部にあたる地域リーグ南に属している。

このまちでは、市庁舎バルコニーにまつわる興味深い伝統がいまも続いている。 毎年、市の予算が議会で承認されると市長がバルコニーに立ち、広場に集まった大勢の市民の前で、次年度の予算内容と事業計画を報告して誓いを立てるという行事である。市民は、これに対し、大きな拍手をもって受け容れるというもの。この後、広場では盛大に市民祭りが行われる。 スポーツの世界でも、バルコニーは活躍している。2002年7月、FIFAワールドカップ日韓大会で準優勝したドイツ代表は、フランクフルト・アム・マイン空港に到着後、市庁舎2階のカイザーザール(皇帝の間)でロート市長らの祝福を受けた。そして、市長と英雄たちは、外のバルコニーに勇姿を現す。市庁舎前のレーマー広場を埋め尽くしたサポーターたちの前で、GKオリバー・カーンが代表して準優勝の報告を行った。

代表チームがこのバルコニーで凱旋するのは、6年前のEUROイングランド大会に優勝して以来のこと。 ドイツの市庁舎バルコニーのこうした光景は、地元チームが好成績をおさめたときこそが真骨頂である。1998年6月、アイントラハト・フランクフルトが1部復帰を決めた。3月に赴任したばかりの筆者も、レーマー広場に集まった2万人のサポーターの中にいた。最高潮に達したのは、まだかまだかと待ちかねていた大勢のサポーターの前に、バルコニーから選手や監督らが姿を見せ、互いの歓喜が爆発したそのときだった。 Jクラブの本拠地を「ホームタウン」と呼ぶ。市庁舎バルコニーは、一つの舞台上に、ホームタウンとクラブ、サポーターをつなげる夢の懸け橋である。