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今日の試合速報

コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

幼い記憶

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故郷の土佐は、昔から相撲の盛んな土地柄。幼い頃、大相撲の地方巡業に訪れた横綱大鵬や柏戸を間近に見ることができた。土佐中・高校時代、2月の体育の授業は、決まってプロ野球のキャンプ見学。学校から10分ほどランニングすると、当時実力日本一と謳われた阪急ブレーブスがキャンプを張る高知市営球場があった。テレビの日本シリーズ中継で観た有名選手のプレーを、監督やコーチのすぐそばで見られる。いずれも、プロスポーツ不毛の地ながら、本物に触れることができる数少ない貴重な体験だったと思い返す。 あこがれの選手との触れ合いは、幾つになってもサッカー少年の夢である。35年前、東京の予備校に通っていたときに、そのチャンスが到来した。国立競技場のピッチで、サッカーの王様“ペレ”とワン・ツー・パスを交わしてシュートするという企画。一枚の往復はがきに夢を託したが、残念ながら叶わなかった。 Jリーグでも、スタジアム、練習場、クラブハウス、コミュニティ活動などさまざまな場面で、子供たちの夢を大切にしている。

触れ合いの種類は、サイン、写真撮影、握手、ハイタッチ、学校訪問などさまざま。中でも、試合前ホームの選手と同じウェアを着て、手をつなぎ入場する「エスコートキッズ」の体験は、選手と写した記念写真とともに、いつまでも記憶から離れることはないだろう。 選手にとってエスコートキッズは、子供たちの目の前でプロとして恥ずかしいプレーを見せないと約束する意味から、フェアプレーの象徴でもある。今年5月、J2横浜FCのホームゲーム、対ファジアーノ岡山戦でのこと。入場を前に選手も子供たちも緊張感を隠せない中、大ベテランの三浦和良選手がとった当たり前のしぐさに思わず目を奪われた。敵味方なく自ら手を差し出し、選手全員と目を合わせしっかりと握手をしていた。 試合後、その真意を尋ねてみると「敬意を込めて、お互いの健闘とフェアプレーを誓うために、以前からずっと心がけてきたこと」だという。

彼の何気ない紳士的振る舞いを目の当たりにした子供たちは、興奮気味に家族に伝え、友だちに自慢げに語り、自分の試合でも同じことをしてみようとするにちがいない。 この日、岡山市東京事務所の福井貴弘さんの音頭で、首都圏在住の岡山ゆかりの人々が大勢応援にかけつけた。横浜FC 側のはからいで、その中から岡山のエスコートキッズとして、Tシャツ姿の22人が両手に元気よく入場した。両チームかつ両手で試算すれば、今シーズン年間765試合のエスコートキッズの数は、4倍の33,660人になる。ホームクラブの工夫次第では、夢がふくらむ幼い記憶の種をより多く蒔くことができるだろう。