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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

テラス席

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フランクフルトの自宅を出て散歩しながら5分も行くと、Alte Opera広場がある。広場やそこにつながる通りにならんだカフェテラス文化が大好きだった。 「カフェ」が、フランスで初めて登場したのは17世紀後半。パリのカフェは、まちの通りを彩る開放的な空間で、舗道にせり出したテーブルと椅子が幾層にも連なる「テラス」の存在が特徴である。飲み物を片手に道行く人を眺めたり、恋人や友人と会話を楽しんだり。フランス南西部のオーヴェルジュ地方からパリへ出てきた人たちの深い愛郷心が、カフェをつくったのだと聞く。そのテラス席が、スポーツの世界にもある。

「Terrace」は、古フランス語の盛り土を意味する言葉に由来して、階段状の地形をさす。もともとサッカースタジアムでは、ホームのサポーターが命がけで応援する、ゴール裏にそびえる巨大な立ち席を“テラス席”と呼んだ。最前列から最上段まで途中で階層が途切れることなく連続したひな壇構造になっている点が特徴で、力強いホームの後押しとなる。 かつて、ボルシア・ドルトムントの7万人収容ヴェストファーレン・スタジアム(現Signal Iduna)の大きなテラス席で観戦したときには、表現しがたい身震いがした。チームカラーのユニホームを着た2万人を超すサポーターが総立ちになり波打つ名物テラスは、“黄色い壁”(Gelbe Wand)と呼ばれ壮観である。 1997年、卓球のブンデスリーガに日本人選手、松下浩二が参戦した。所属するボルシア・デュッセルドルフのホームゲームをテレビで見たことがある。ホーム&アウェイ形式で行われる試合には、約500人のサポーターが卓球台を取り囲み、一球一球のプレーに鳴り物入りで応援していた。

3年後、彼は南フランスのクラブ:セスタスに移籍して、独仏の違いについて著書「ザ・プロフェッショナル」(卓球王国刊)の中でこう述べている。 『フランス人は、コートの横にカフェテラス席を作って、優雅に試合をみる。純粋に試合を楽しんでいる感じだった。試合は夜の11時とか12時近くまでかかるのに、帰らずに楽しんでいる。』 『ドイツ人よりも卓球を文化として楽しんで、生活の一部になっている。スポーツをビジネスに結びつけることが多いドイツ人に比べて、厳しい中にも自分が楽しむ部分を残している。おおらかで、人間らしく、ヒューマニズムを感じる。』 熊さんと八つぁんが将棋を指す縁台もまた、古くから日本にある歴としたテラスのひとつ。古今東西テラスは、人々の生活の中で身近な文化である。