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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

普通のクラブ

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ブンデスリーガ“秋の王者”に立ったレバークーゼンは、新装なった3万人収容のスタジアム“BayArena”とともに、悲願の初優勝を夢見ながら新年を迎える。ホームタウンは、ドイツルール工業地帯の南部に位置する人口16万人の都市。1904年創立の歴史あるクラブは、当地に本社を置く世界有数の薬品会社バイエル社が単独支配しており、正式名称をバイエル04レバークーゼンという。 地域に密着したホームタウン制を重視するよりも、唯一企業本位制を崩さなかったこのクラブに対して、周りのクラブ関係者からは「プラスティック・クラブ」―人工物、伝統なし、サポーターなし―などと、長年ひどい呼ばれ方をしていた。ファンも多くは、バイエル社の仕事絡みだった。 1988年UEFAカップで見事初優勝を飾ったときに、転機は訪れた。

欧州一になったシーズンでさえ平均入場者数は、スタジアムの収容能力に対し僅か31%の8,124人だったのである。ホームタウン活動を重視したクラブは、ファミリー・マーケティング戦略を立てた。たとえば、18歳以下の若者向けサポータークラブの設置。年会費50DM(3,500円)で、1本のサポーター旗がもらえ、チケットの優先購入権と年1回開催されるトップ選手とのパーティ参加権が与えられるというもの。スタジアムには、ファミリー席が設けられ、7DM(500円)でポップコーン、コーラ、ドーナツが提供された。 入場者数は一貫して増加基調に転じ、その効果は目に見えて現れた。5年後の1993~94シーズンには17,315人と倍増、シーズンチケット購入者のうち25%がファミリー(親子チケット)での申し込みだったという。成績も、常に優勝争いを演じた。

百年前、従業員のための福利厚生を目的に創設されたこのクラブが、サッカーだけでなく、陸上、ボクシング、バスケットなどの種目をもつ模範的な地域の総合型スポーツクラブへの道を歩み始めたとき、「地域の人々は、我々を伝統的なクラブであると受け容れはじめるようになった」と、クラブの代表ユルゲン氏は語った。 Jリーグの理念の根幹にある「ホームタウン制」は、地域住民の帰属意識を共有する場と時間を提供し、人生の豊かさやゆとりを導くと謳う。経済的な好不況の波の中、安定したクラブ経営の原点は、真に地域に根ざしたクラブづくりの内にある。 レバークーゼンの変身ぶりについて、当時のドイツのサッカー専門誌Kickerは、こう伝えている。「全く普通のクラブになった」・・・