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コラム

百年構想のある風景

2015/1/30 10:00

経営ボランティア

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Jクラブと、地域貢献活動を重視している地元金融機関との関わりはきわめて深い。出資、融資、ユニホームスポンサー、オフィシャルスポンサー、スタジアムのネーミングライツ、定期預金の企画、経理担当者としてクラブに人材を派遣するなど関係は多様である。 今年J2に仲間入りするガイナーレ鳥取には、耳慣れない「経営ボランティア」がいる。そのリーダーが中ノ森寿昭さん。地元山陰を代表する銀行の役員だが、7年前ガイナーレがJリーグを目指すと旗揚げした時から、地域ぐるみで経営を支えようと様々な活動を続けている。 60万人弱と全国一人口の少ない鳥取県。サッカー先進地でもなく、母体となる有力企業もない。クラブ経営は、自力をつけるしかない厳しい環境下にある。そこで中ノ森さんは、クラブの育成と地域の産業基盤の創造を結びつけた。

2008年春、胸スポンサーに「大山(だいせん)黒牛(くろうし)」、背中スポンサーに「白バラ牛乳」、袖スポンサーに「因幡の白ウサギ」(菓子)。地域の食品産業のブランド育成戦略である。 地元で無名の和牛ブランドが、地域の人気サッカーチームの胸スポンサーに突然登場する。知名度があがり、消費者に人気が高まると、翌年の秋、米子市内に大山黒牛専門の焼肉レストランが開店した。スポンサー→ブランド確立→レストラン繁盛→地域畜産業の活性化→スポンサー継続。「ガイナーレと地域経済が好循環するこうした関係を通して、Jリーグを地域の文化財的な価値に成長させたい」と語る。 作家井上ひさしさんの著書「ボローニャ紀行」には、イタリアの銀行の興味深い役割が紹介されている。ローマのコロッセオ、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会、ボローニャのスポーツセンターなど、どこも似たような立て札がある。

『文化とスポーツは、私たちの日常生活の質を高めてくれます。そこで、この施設の 建造費用と維持管理費用を、私たち○○○財団が全面的に負担することにしました。』 財団の母体は、どれも地元の銀行である。銀行は、文化、スポーツや弱者に資金提供するための財団をもっている。イタリアの銀行法では、最終利益の49%以上を地域の文化やスポーツに還元するよう定めているという。低金利政策の国に馴れると忘れがちだが、地元の顧客から預かった大切なお金から稼いだ利益を、地元に還元することが銀行の本来の存在意義とあらためて思う。 一流の文化は、人を楽しませ、利益をあげることができる大切な投資先である。とともに、「経営ボランティア」に支えられている。