2022年1月31日
Jリーグ役員候補者選考委員会後記者会見(2022年度第1回理事会後記者報告会)
2022年1月31日(月)19:30~
オンラインにて実施
登壇:Jリーグ 村井 満 チェアマン
第6代 Jリーグチェアマン候補者 野々村 芳和 氏
Jリーグ 役員候補者選考委員会 野宮 拓 委員長(Jリーグ法務委員長)
コーン・フェリー・ジャパン株式会社 中島 正樹 氏
〔司会より説明〕〔理事(チェアマン候補者)選任の件〕
本日行われました、2022年度第1回理事会後記者会見を始めさせていただきます。
本日の会見は新型コロナウイルスの感染状況に鑑み、登壇者ならびにメディアの皆様もZoomでの開催となりますことをご了承いただけますと幸いです。
それでは本日の会見についてご説明させていただきます。
本日の会見は第一部として役員改選についてご報告させていただきます。役員改選の事項が終了次第、第二部として他の公表事項の会見をさせていただきます。
なお、役員改選のリリースにつきましては、チェアマン以下の理事については五十音順となっています。各理事の役職も含め3月15日の社員総会ならびに理事会にて決定する見込みでございます。
また、その他の公表事項については19時にプレスリリースを配信させていただきましたのでご確認をお願いします。
なお、次期役員候補者の写真素材はすでにメディアチャンネルにて公開させていただいています。また、本会見の映像については会見終了後にメディアチャンネルを通じて皆様にご報告させていただきます。
それでは、役員改選についてご報告させていただきます。
まずは登壇者をご紹介いたします。
役員候補者選考委員会 野宮 拓委員長、役員候補者選考委員会のアドバイザー コーン・フェリー・ジャパン株式会社 コーポレートガバナンス・アドバイザリー部門 リーダー シニアクライアントパートナー 中島 正樹様、Jリーグ 村井 満チェアマン、次期チェアマン候補者 野々村 芳和様でございます。
それでは、役員候補者選考委員会 野宮委員長より、次期チェアマン候補内定者および業務執行理事候補者の選任につきまして、その選考過程をご説明いただきます。
〔野宮委員長より説明〕
役員候補者選考委員会の野宮でございます。
当委員会は2020年9月15日の理事会決議で発足し、これまで15回委員会を開催し、委員会だけでも合計31時間超をかけて役員候補の審議を重ねてきました。
本日、チェアマン候補者を含む業務執行理事候補者を理事会で答申し、答申通りに承認いただきましたので、その内容と結果についてご説明したいと思います。
まず、答申結果です。すでにプレスリリースさせていただいておりますが、チェアマン候補者として、北海道コンサドーレ札幌の代表取締役会長であられる、野々村 芳和氏、チェアマンをサポートする業務執行理事候補者として、現職の窪田 慎二氏、V・ファーレン長崎 代表取締役社長の髙田 春奈氏、フィールドマネージメント 代表取締役の並木 裕太氏、NTT ドコモ スポーツ&ライブビジネス推進室長 馬場 浩史氏を答申し、理事会にてご承認いただいております。
選定プロセスについてご説明の上、その後に答申理由について述べたいと思います。各プロセスについて個別にご説明いたします。
【委員会の構成】
最初に委員会の構成です。
委員会は法務委員長、社外理事、社外監事、J1実行委員、J2実行委員、J3実行委員と有識者から構成されます。
いずれも誰を選出するかはその属性の各母体の意思にゆだねられており、Jリーグの執行部の意思は介在していません。
有識者については、委員会発足後に委員会の決議により選定していますが、サッカーへの理解とビジネスへの深い知見を携えたものとして、株式会社経営共創基盤会長の冨山 和彦氏を、Jリーグの歴史に精通し、サッカーの観点から意見を述べられるものとして、株式会社ジエブの前代表取締役である小森 秀二氏を選任し、以上の10名の委員で選考を進めることとしました。
なお、今回チェアマン候補者として内定した野々村氏は当初、J1実行委員枠として委員に名を連ねていましたが、ロングリストに野々村氏の名前が載り、そこから先の選考プロセスに進む意思があると表明がありましたので、ロングリストからの絞り込みの過程で第8回の委員会から湘南ベルマーレ(実行委員)の水谷氏に交代して、以後の審議を進めました。選考委員会にはJリーグ執行部の関与は一切なく、発足から本日の答申にいたるまで委員会は独立して選考を進めてまいりました。
【全体のプロセス】
全体のプロセスは、前回の改選と同様に、Jリーグの内外のステークホルダーにインタビューを実施した上で、Jリーグの経営課題を整理し、それをベースとして人材要件を定義しました。
それから人材要件に合致すると思われるものを募って、ロングリストの作成、チェアマン候補者と業務執行理事候補者それぞれに分けてのショートリストの作成、候補者との面接、包括的アセスメントの実施、委員会での討議、候補者の決定というプロセスをたどっていきました。
前回と異なるところのひとつとして、まずチェアマン候補者を決定し、候補者と協議しながらその他の業務執行理事を決定した点がございます。
【Jリーグの経営課題】
続いてJリーグの経営課題です。
事業、フットボール、社会連携、経営基盤の4領域に分けて課題を整理し、総括すれば、リーグの価値を最大化するため、先行き不透明な複雑な環境の中で、理念を基軸にビジョン、基本戦略を示し、フットボールの魅力と事業の競争力を高める革新と変革を進めるとともに、社会連携で多様なステークホルダーをマネジメントする力を持たなければならない、と整理させていただきました。
【チェアマン候補者の選考】
以上の経営課題を踏まえて、コーン・フェリーのグローバルナレッジを活用して、人材要件をコンピテンシー、経験、性格特性、動機の4つの側面から包括的に定義いたしました。コンピテンシーは経営者として成功するための行動、経験は経営者に必要となる過去の経験、性格特性は適性、人格的特長など、動機は経営する意欲、覚悟、挑戦心、モチベーションの源泉などを意味します。
コンピテンシーについては顧客、現場志向、複雑性への対処、全組織戦略の提示、組織変革等々の12項目、経験は、損益責任、組織外ステークホルダーへの対応、グローバルでの事業機能責任とクロスカルチャー経験等々12項目、性格特性は大局観、曖昧さの許容等々10項目、動機は4項目にまとめています。
このような人材要件を定義して、アセスメントを実施して各要件の充足条件を検討することによって主観的な人物評価、印象論を越えた客観的な評価が可能になったと考えています。
以上の人材要件を踏まえて、委員による推薦、コーン・フェリーの人材ネットワークからのサーチを行い、それに加えて今回は理事・実行委員に対して先程ご説明したJリーグの経営課題を提示した上でこれらの課題を解決できる方として、心当たりがある方の情報提供を呼びかけました。そして、ロングリストの作成へと進み、推薦、情報提供のあった人数は400名を越えました。そこから経験を初期的に評価して、170名のロングリストを作成いたしました。
リストに掲載された方々の属性を見ると、スポーツ関連事業会社の経営者、スポーツのスポンサーの方など事業領域に強みのある方々が90名超、日本サッカー協会(JFA)をはじめとするサッカー界の方、各クラブの強化・育成経験者、元選手等のフットボール領域に強みを有する方々が50名超、政府・自治体をはじめとする社会連携領域に強みを有する方が30名超いらっしゃいました。また、そのうち約30名が女性でありました。
ロングリスト掲載者に対して、コーン・フェリーが意思確認と職歴情報の聞き取りを行って、経験を一段深く評価する作業を行いました。そして、チェアマンに意欲を示した方について、委員会で議論をして、10数名のショートリストを作成し、10数名全員に対し委員会によるインタビューを実施しました。そして、委員会において、このインタビュー結果を受け、全委員により10数名を評価させていただき、包括的アセスメントに進む者を複数名抽出いたしました。
包括的アセスメントは3時間におよぶ候補者本人へのインタビュー、オンライン調査、他社からのレファレンス取得により、個人を包括的かつ多面的に分析するものであります。そのアセスメント結果が出てから、各最終候補者にインタビューを再度行いました。そこではアセスメント結果から伺われる課題について確認を行わせていただき、その上で委員会を開催し、3時間半に渡って議論を尽くし、チェアマン候補者を決定いたしました。
【業務執行理事候補者の選考】
業務執行理事候補者についても、ロングリストから経験を一段深く評価して絞り込んだ暫定的なショートリストを作成いたしました。そこにチェアマン候補者のショートリストに掲載されていた方で残念ながらチェアマン選考から漏れてしまったものの、業務執行理事にも関心があるとおっしゃった方を加えています。
さらに、委員会において決定したチェアマン候補者からも若干名推薦をいただきました。最終的には10数名のショートリストができ、その10数名が検討対象となっています。
チェアマン候補者にも委員会に出席いただき、チェアマン候補者の組閣イメージや、各業務執行理事に期待することなどを伺って、ショートリストに載っている方の中で面談する方を絞り込みました。
チェアマン候補者を補完するに足る能力、経験を持つかどうか、包括的アセスメントに進めるべきかどうかを面談において調査し、一部の方を対象として包括的アセスメントをいたしました。
アセスメント結果が出たところで再度委員会にて討議を行い、業務執行理事4名を決定いたしました。業務執行理事候補者については、経営チーム全体として人材要件を概ね充足しているかについて留意しつつも、チェアマン候補者の意向を多分に反映しております。
【チェアマン候補者の答申理由】
それでは答申理由についてご説明いたします。
野々村氏は、Jリーグの今後の経営課題に取り組むチェアマンに求められる要件を概ね有しており、フットボールの強化とフットボール視点での事業の成長の両方を追求して、Jリーグの価値の最大化を図ることが期待できる最良の候補者である、と委員会は判断いたしました。
野々村氏はクラブを成長させた経営者としての能力・経験、Jリーグの選手としての経験、Jリーグの実行委員・理事としての経験をあわせ持ち、フットボールをリーグ運営の基軸に置くという方針を明確に持っておられます。さらに、組織内外への効果的なコミュニケーション能力と説得力、経営トップとしての勇気ある決断力を併せ持ち、Jリーグのチェアマンとしての高いリーダーシップを発揮すると期待されました。また、フットボールの魅力を高めるJリーグの新たなビジョンを示し、現場感覚を持った実効性の高い変革をフットボールと事業の両面で実現できるものと評価いたしました。
包括的アセスメントに進んだ最終候補複数名の方々は、いずれも極めて優秀な方々で甲乙つけがたい状況でございましたが、Jリーグのチェアマンとしてのリーダーシップ能力と、フットボールと事業を横断して意思決定ができる強みを評価し、すなわちフットボール面の強化・改革、フットボール視点から事業を強化できる点が決め手となって野々村氏を次期チェアマン候補者として決定した次第です。
【業務執行理事の答申理由】
続いて、チェアマンを補佐する業務執行理事の答申理由です。
窪田氏は過去2年間の理事としてのクラブ対応等を含む幅広い実務・管掌経験と本部長までの長期の在職年数で培われたJリーグの人・組織に対する理解により、「フットボール、クラブ経営、組織開発担当」として野々村氏を補佐できると考えています。
髙田氏は地方クラブの経営経験を通じて、現場の課題を理解し、社会連携活動の実績をあげており、それをさらに広げたいという強い動機・意欲も持つことから、「社会連携担当」等として成果を期待できます。
並木氏はこれまでのJリーグ理事、クラブ役員としてのJリーグの課題に対する深い理解と実務経験、スポーツビジネスに対するコンサルティング経験と知見を活かし、財政基盤の持続可能性の確保や会議体と意思決定プロセスの改革を含む「経営企画、管理、総合調整担当」として野々村氏を全般的に補佐できると考えています。
馬場氏については、スポーツ関連の新規事業企画等の経験と業界、技術についての知見を活かし、「マーケティング、デジタル、ライセンス」担当として、関係部門を管掌することで、マーケティング強化によるファンベースの拡大やデジタル活用による事業機会の拡大を実現することが期待できます。
この4名を選任することによって経営チームに求められるコンピテンシー、経験等は概ね補完されます。また、相互に個人的信頼関係があり、経営チームとして機能すると期待できますので、委員会は冒頭の答申結果の通り、理事会に答申し、理事会において答申通りご承認いただきました。
私からは以上です。
〔村井チェアマンより挨拶〕
今、野宮委員長から報告をいただきました。
実に1年半の歳月を経て、先程の話でいうと400名を超える母集団の中からしっかりとした議論をしていただき、今回野々村さんを答申いただきました。野々村さんに関しては改めて議論する余地もない位、先程紹介がありました。この30年のJリーグの歴史の中で、初めてJリーグでプレーをした選手、経験者が実行委員を経て、理事を経て、今回チェアマンとなりました。
そういう意味では30周年を迎えるタイミングにふさわしい新たなチェアマンだろうと思っています。
コロナが始まった2年前、忘れもしない2月21日が開幕節、湘南ベルマーレ対浦和レッズの試合でした。翌22日、私は柏に行って、柏レイソル対北海道コンサドーレ札幌の試合を観戦しました。その2月22日、野々村さんは自分のクラブの試合をリアルで見ることができず、駐車場の車で試合中継の配信を見ていたのですが、彼と試合後にこの後のコロナにどう対応するかを1時間、2時間じっくり話をしました。それが最終的には4か月の中断に繋がる意思決定となりました。
当然、札幌の感染状況が非常に厳しい状況であったこともありますが、野々村さんの現状に対する洞察の深さと今後の展望に対する見識の高さをその時点で再認識したことを覚えています。
フットボールのプレーヤーであり、クラブ経験者ですが、経営の舵取りに必要な深い考察、洞察の力を併せ持つということは、先程の野宮委員長の説明にもありましたが、私もまったく同感でございます。
今後、野々村さんらしい大改革を私は歓迎しますし、心から応援したいと思っています。
今回の検討プロセスにおいては、本当に今日31日の理事会で初めてチェアマン候補、業務執行理事の候補の名前をお聞きしました。当然我々Jリーグの中の役員誰一人もこれを認識する者もなく今日の日を待っていました。かように我々サイドから独立した形で自由活発な議論をしていただけたことが私の誇りでもありますし、こうしたトップの選考プロセスそのものが日本社会に一石を投じることとなればと願っております。
私の方からは以上でございますが、今回このタイミングで、原さん(副理事長)、木村さん(専務理事)、佐伯さん(理事)が業務執行理事を離れます。私自身がやってこられたのもこうした脇を支えてくださる方々のサポートがあったからこそ、これなくしては自分自身のチェアマンを語ることはできません。
野々村さんの脇を固め、今後サポートするいいチームを作っていただき、チームで困難を克服していただくことをお願いしたいと思っています。野々村さん、頑張ってください。
〔野々村次期チェアマン候補者より挨拶〕
選んでいただき大変光栄ですが、まだ自分でも当然可能性でしかないと思っています。
ここからいろんなことを決めて動かしていかないといけない責任はすごく感じています。
その中で大事にしたいことを自分なりに考えると、僕は49になりますが、40年以上サッカーと一緒に生きてきました。サッカー少年だった頃の気持ちとか、選手になった気持ち、引退した後はメディアの方でサッカーを伝えるときの気持ち、クラブの社長として、クラブを背負っていくようないろんな立場に応じた気持ちを経験してきています。いろんな難しい決断をしないといけない中でそれぞれその時代に感じた気持ちを大切にしながら、より良いサッカー界にしていけるように頑張っていきたいと思っています。
〔質疑応答〕
Q:選考プロセスで、リーグの課題を解決できる方として選任されたということで、色々な課題が書かれていました。村井チェアマンの4期8年の任期の中で、実行委員として感じていらっしゃったことはいろいろあると思います。今リーグが抱えている課題は何だと考えているのか、またご自身が一番注力したい部分、重点施策を教えてください。
A:野々村氏
課題は30年たっても、そんなに変わらないかなと思います。より多くの人たちにどうやってJリーグ、日本のサッカーを届けるかということが課題だと思います。
ビジネスとフットボール、村井チェアマンが進められた8年で進歩してきていると思うのですが、もう一回フットボールに基軸を置きたいと思います。要するにサッカーはすごくシンプルだと思います。 強いところが上に行って、弱いところが下に行くというような当たり前のことを各クラブ、リーグで再認識したうえで、より良いサッカー届けることです。
クラブを経営していて常に思うのですが、サッカーと一言で言ってもいろいろな切り口があって、サッカーは一つの作品だと思っています。ピッチ上のクオリティがもちろん大事だと思いますが、スタジアムや、スタジアムのスペック、各クラブが行う色々な催し物も含めて、「あのスタジムに行きたいな」と思わせるようなこと、そして何よりもファン・サポーターの人たちが作ってくれるあの熱量、雰囲気。これらがあいまってサッカーという作品ができると思っています。より良い作品としてのサッカーを全国60近いクラブで毎週提供していくという当たり前のことを各クラブの皆さん、選手、監督と意識しながらやっていくこと。それが作品を伝えるうえで最も大事な基軸になると思います。その作品をどうやったら多くの方々に伝えられるか、ここを一番のポイントにして進めていきたいと今は思っています。
Q:競技力向上という観点で、何か具体的な施策として考えていることはありますでしょうか。
A:野々村氏
追って話をしていこうかなと思いますが、さきほどの話と同じで、シンプルに勝ったところが上に行くということを、テクニカルの部分ではなくて伝えていくことが大事かなと思っています。細かい施策については、この時間で話せないくらいたくさんあると思います。それぞれ変えたほうが良いことについては、積極的な変化を起こしていきたいと思います。
Q:シーズン制移行も含めた日程の問題というのは、野々村さんが進められる中で非常に大きなテーマになると思います。村井チェアマンを拝見していてもそうですが、実行委員、あるいはクラブの考え方や意見を集約するのは非常に難しい仕事になると思います。シーズンについては、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝を2月に開催するとされています。ほぼ待ったなしの状況をどのように考えていくか、どのように向き合っていくか、シーズン以降についての考え方はどのように調整していきたいのでしょうか。
A:野々村氏
(シーズン移行については)今までもリーグの中でも議論してきました。いくつかの課題があって、それをクリアしていかないと前に進めないという状況の中で、外的な要因でACLの日程などが変わってきています。そういうことも含めて、日本のサッカーにとって何が一番大切かというスタートラインに立って考えていかなくてはいけないと私自身は思っています。
それと少し切り口は変わるかもしれませんが、先ほどそれぞれのクラブが毎週良い作品を見せることが一番大事だという話をしました。札幌などもそれにあたりますが、雪国では12月、1月、2月にその作品が見られない、表現できないということは、変えていけるのであれば変えていかなくてはいけないのではないかと、個人的には思っています。
サッカーには世の中の何かを変える力があると思いますので、シーズン制をどうこうするということと少し違った切り口で、冬でもしっかりと良い作品が見せられるような物を、サッカーをスタートラインにして変えていき、スポーツ界全体も冬にいろいろなことができるということを、もし日本のサッカー界が見せられるようなら、ぜひそのようなことは考えていきたいと思っています。
Q:先ほど野宮委員長が提示されたJリーグの課題の中で、特に海外を含むスポンサー、パートナーの 獲得が課題として挙げられていました。野々村さんは札幌の社長としてこの辺りについてはいろいろな活動をされていて、札幌はJリーグの中でも屈指のクラブなのですが、これからリーグとして海外との関係はどのように考えていますか。
A:野々村氏
今だったらヨーロッパの五大リーグにどう追いついていくかというポジションだと思います。そこに到達するまでの過程では、当然ながらアジアの中では当然圧倒的なリーグでなければいけない。それはフットボールの質、スタジアム、ファン・サポーターの熱量も含めて。それらを作っていくうえで、やはり東南アジア、アジアの選手に「あのリーグでやりたい」と思われるような施策が必要。
今までもJリーグが主導してくれる中でチャナティップなどを獲得してきたりはしましたが、各クラブがチャレンジしていくことは、そう簡単ではありません。クラブもよくなる、リーグもよくなるということをわかりやすく表現できるような準備をリーグ側がしてあげなくてはいけないのではないかと思います。まずはアジアで圧倒的なプレー、またホスピタリティ面でも「あそこ行きたい」というリーグになるということが絶対条件だと思っています。
Q:村井チェアマンと8年間、色々なやり取りをしていると思いますが、チェアマンぶりを見て、次期チェアマンとして手本にしたいことがあれば教えてください。
A:野々村氏
私は9年間クラブの社長をしていて、村井さんは8年間チェアマンをされていますが、私はほとんど村井さんを見ながらクラブの経営をしてきました。コロナ禍で自分なりに一クラブの人間として村井チェアマンに提案したことを、本当にスピーディーに実行されていました。コロナ禍のリーグ運営は本当に難しかったと思います。それを外から本当に素晴らしいなと思ってみていました。
色々な話を村井チェアマンとさせていただきましたが、私が印象に残っているのは、札幌が昇格した時に、村井チェアマンがシャーレ(Jリーグ杯/優勝銀皿)を持ってきてくれた時です。みんなで最後撮影をしていた時に、選手だけの撮影には私は入らないようにと思って端の方にいたのですが、「野々村さん、行きなよ」と村井チェアマンに言っていただいたのが、印象に残っています。
Q:ある意味、断ることができたと思うのですが、なぜチェアマンをやろうと思ったのでしょうか。
A:野々村氏
なぜといわれると明確な答えはないのですが、コロナ禍でリーグの運営が相当難しい中で、本当に難しい決断をしなくてはいけないことがリーグ側にもクラブ側にもありました。その時に、フットボール、サッカーという基軸がしっかりすれば、Jリーグはもっと良くなるなということをなんとなく感じました。
明確ではないのですが、もし自分が必要とされるならば、やります、というようなことを選考の過程では伝えてきました。
Q:いま改めて候補となって、フットボールという現場との関係性の中で、色々な弱さや限界を感じられたのだと思いますが、それを踏まえて、プレーヤー出身だからこそできること、こういうことをやっていきたいということを一つ挙げてください。
A:野々村氏
どの国のリーグもそうだと思いますが、現場とビジネスとのバランスで衝突が起こるというのは、どの世界でもあると思います。今の日本はまだまだ強くならなくてはいけない。当然強くなるためにビジネスも必要ですが、強くなるために本当に純粋にサッカーという現場のスタンスから、みんなで一緒になって努力する方向を向くということが、今の日本サッカーにとって大切な時期なのではないかと思っています。
もちろんクラブの社長としてビジネスの面は大事だとは思っていますが、現場の意識をどう変えていくかということも含めて、現場の視点、現場の空気感で今のリーグを進めていくことは絶対に必要なのではないかと感じています。具体的に何をしていくかは、これから追ってお伝えしていくことができれば良いと思います。フットボールと一言で言っても、選手や、元選手、監督、コーチ、代理人、クラブの経営者、審判員など色々な立場からフットボールを考える人がいます。そんな人たちを一つにまとめて、日本のサッカーの方向性を議論するようなグループを作りたいと思っています。
Q:30年前、Jリーグがスタートするときに、日本代表を強くするという大きな柱がありました。野々村さんが今後チェアマンになられると、流れで行くと日本サッカー協会(JFA)の副会長を兼任されると思います。私も日本代表をもっと強くしていかないといけないと思っていますが、野々村さんが思い描く、日本代表への施策、イメージなどがあれば教えてください。
A:野々村氏
今、30年前という話がありましたが、まさに30年前、Jリーグが始まったときにサッカーを始めたような選手たちが、代表としてワールドカップにまたチャレンジしています。少しロングスパンの話になってしまうかと思いますが、やはり 30年前に熱い思いを持った、例えば川淵さんたちが始めたことが今のプレーヤーに繋がっているわけです。
例えば1試合をどのような戦い方をしてほしいというような思いはあって当然だと思いますが、私としては20年後、30年後に活躍できるような選手たちがサッカーをやりたいと思ってもらえるようなサッカーの情報の届け方をもう一度考えないと、今のワールドカップというよりは20年後、30年後のワールドカップにまた新たな問題が出てきてしまう可能性すらあると思いますので、そういうことを意識しながら仕事をしたいと思っています。
Q:野々村さんも札幌という地で社長をされていましたが、Jリーグの中でも地方とどのような親交をしていくか、どのような連携をしていくかが、ここから先に進んでいくポイントになると思います。そのような経験をされた野々村さんから見て、改めてJリーグから見た地方とどのような親交をしていきたいか教えてください。
A:野々村氏
たとえ地方クラブであっても、J1の上位に行けないと思っていません。サッカーという良い作品を作る中で、スタジアムの雰囲気を作ってくれるのは地元のファン・サポーターだと思っています。そのクラブが地域においてどのくらい貢献しているか、どのような関わりがあるかによってサポーターの熱量は決まってくると思っています。都市部と地方、多少ハンデや違いはあったとしても、サッカーというスポーツにおいては、十分そのハンデを越えて強いクラブ、良いクラブになるチャンスはあると思っていますので、そのような観点で色々なクラブには頑張っていただきたいと思っています。
Q:その中のポイントをひとつ挙げるとしたら何があるでしょうか。
A:野々村氏
サポーターといわれるような人たちは、こちら側の仲間だと思っています。例えば社員は20名しかいないクラブだったとしても、サポーターは100人、1,000人います。その人たちと良い作品を作り、その作品を外側のファンの方々に見てもらって、そのファンをより内側に引き入れていくという循環を作れれば、クラブはどんどん成長していくのではないかと、自分がやってきた経験の中では感じています。難しいと思いますが、そのあたりがポイントとなるのではないかと思います。
Q:5大リーグに伍していくためには具体的にどのようなことが必要でしょうか。
A:野々村氏
数字で表す場合、色々な切り口があると思います。クラブの売り上げ、リーグ全体の売り上げなど。当然サッカーの世界なので、資金力があるところに良い選手が集まります。いわゆる、イングランド・プレミアリーグが一番だろうという評価もあれば、フットボール、サッカーの現場からすると、スプリントの数がどれくらいで、走行距離がどれくらいで、というようなシンプルな数字もあります。一概にどの数字を持って(5大リーグと)並んだということは、明確に答えることは難しいかもしれませんが、「日本のあのリーグは魅力的だ」ということを、サッカーをやっている世界中の人たちからどれくらい思ってもらえるかではないでしょうか。
サッカーの質、ホスピタリティ、サポーターが出してくれる熱量もそうですが、それらが明らかにヨーロッパとはまだ違っているのかもしれません。しかし、日本もヨーロッパも大差ないということを、ヨーロッパの選手たちが伝えてくれるということもあります。またJリーグは、別の魅力を世界のサッカーシーンの中で見せることができていると思いますので、その声がより大きくなるような努力をやはり続けていくことだと思います。
Q:先ほど野宮委員長の説明で、ご自身が内々定者となった後に、常勤の理事の選考の中に野々村さんの意向がどのくらい反映されていると感じられていますでしょうか。
A:野々村氏
今のお認めいただいたメンバーは、自分の思ったメンバーだと思っています。
Q:今回のこういう決め方は、過去のチェアマンの交代の事例からすると初めてのケースだと思います。
村井チェアマンが非常に透明性ということにこだわって、ルールを変えてこういう決め方になったのだと思いますが、野々村さんご自身はチェアマンに選任された後、この決め方は踏襲されるおつもりでしょうか。
A:野々村氏
透明性をもって決めていくということに関してはJリーグの誇れるところだと思います。踏襲するところは踏襲し、若干、時期の問題などは微調整しなければいけないところはあると思います。例えば、私の場合、新シーズンが始まったのに、自身のクラブの選手たちにも伝えられないということが今日まで続きました。このようなことは勝負事の世界ではなるべくない方が良いということも含めて、時期の問題はあると思います。選考の方法については、私自身はそんなに違和感はありません。
Q:野々村さんという非常に頼もしい後継者が決まったことに対して、今どのような思いを描いているのでしょうか。また、任期が1月半ありますが、この間、どのようなことに注力していきたいか、教えてください。
A:村井チェアマン
今日の理事会で正式に名前を聞き、また会見で野々村さんの話を聞いていて、やはり一定のインターバルでトップが変わることはいいなと思いました。野々村さんの言葉の端々に、私にはない視点や覚悟や、色々な思いが見えたような気がします。やはりフットボールの経験者だからこそ、試合をリアルに見られないで車の中で見ているような心根を持つ彼だからこそ、借りた言葉ではない思いが伝わって来ます。こうしたエネルギーや思いが、Jリーグを発展させていくのだろうなと感じています。本当に応援したいと思っています。
思えば振り子のようなもので、初代の川淵チェアマンはいわゆるスーパーマンだったかもしれません。そのあと鈴木(昌)さんになり、フットボールやクラブ、もしくはビジネス側の方が来られました。そして、鬼武 健二さんがフットボールに舵を切られて、その後の大東(和美)さんはラグビーや、クラブ経験者。その後私のようにどっちでもないような人間が来たのですが、今回もう一回今度クラブや選手を経験された立場の方が来られました。様々なトップが就任することで、常に新しい風を吹かしていくという振り子が振れている状態が、Jリーグの素晴らしさだと思いますので、野々村さんには存分に思うことをやっていただきたいと思います。
1カ月半ですが、世にはレームダックという言葉がありますが、とてもそんなことが許される状況ではありません。コロナ対策然り、いわゆる開幕に向けたレビューしかり、何も安閑として眺めていることは許されないと思いますので、我々経営チームで3月15日まで走り続けたいと思っています。それ以降はまったく何も考えていません。
Q:8年間お疲れ様でした。本当に、村井さんのおかげでJリーグがここまで来たということを実感しています。一昨年にはJ1の平均入場者数が2万人を超えていますし、素晴らしいトップの仕事をされたと思っています。8年間の経験は村井チェアマンにとっても素晴らしい経験で、サッカー界をここでいきなり離れるとその8年間がもったいないなと個人的には思っています。チェアマンの任期を終えた後、今後もサッカー界にかかわっていくことは考えているのでしょうか。
A:村井チェアマン
今後のことは全く今の時点では考えておりません。私は8年間門外漢で、思い出すと今日の野々村さんとの会見と、私の当時の就任時の会見は全然違いました。「あなたは誰ですか」という状況から始まった私からすれば、隔世の感があります。ここまで私を育ててくださったサッカー界に恩返しをしたい感はあります。なので、邪魔にならぬよう、陰ながら何某かサッカーに恩返しができる活動が見つけられればと思っています。今は漠然としていて、それ以上のこともそれ以外のことも全くない状況です。
Q:長年様々な立場からサッカーに関わってきた中で、サッカーへの想いというものは持ち続けてこられたと思います。逆に、選手に近い立場だったのが経営する側を経験されたことで、考え方や景色が変わった部分があればお聞かせください。
A:野々村氏
景色が変わった部分はもちろんあると思います。
ただ、サッカーに育ててもらったと自分で強く思っているからこそ、サッカーを信じて、クラブでも札幌はこのまま浮上せずに終わるわけはないと信じることができたのは、サッカーのおかげだと思っています。それは経営者としてクラブに関わってからも、その前も、今も全く変わってはいません。
クラブに関わる人たちは毎週、毎週、目の前の勝負を死ぬ気でやっています。チェアマンとして、その立場からは若干離れるわけですが、色々なことを決めていく中で、毎週毎週の気持ちを忘れないようにしたいと、今強く思っています。それはクラブの社長をやらなければわからなかったことかなと思っています。