ポゼッションとコンビネーション。この2つの言葉が、広島を長く象徴していたことは、間違いない。
だが、毎年のように主力選手が流出。広島サッカーに対する徹底的な対策への対応にも迫られた森保 一監督は今季、チームづくりに変化をつけた。キャンプからあえてメンバーを固定せずに競争を煽り、コンビの成熟速度に目をつむってでも、チーム全体の底上げを図った。その競争過程でシャドーのポジションを確保したのがドウグラスであり、柴﨑 晃誠だった。
また、Jリーグヤマザキナビスコカップではほとんどの主力を休ませて若手を多数抜擢。その経験で自信をつけた浅野 拓磨・野津田 岳人・宮原 和也らU-22世代の活躍がチームを押し上げた。丸谷 拓也や清水 航平らの中堅選手たちも、Jリーグヤマザキナビスコカップで大きく成長。チームの危機を何度も救い、主力に刺激を与えた。
また指揮官は、守備のやり方も微調整。5-4-1のブロックを構築する基本形と前線からプレスをかける応用形、2つの形を準備した。その使い分けの指揮棒をピッチ上で振るっているのが、森﨑 和幸である。彼は今季、深い位置でのバランサー的な役割だけでなく、積極的にプレスを仕掛けて攻撃の起点となった。その彼の動きに青山 敏弘や千葉 和彦、他の選手たちも呼応し、ブロックからプレス、あるいはその逆へと柔軟に守備の姿を変えた。
その典型がアウェイの新潟戦だろう。前半は引いてブロックを構築し、新潟の攻勢に耐えながらチャンスを待ち、後半は機を見てプレスを仕掛けて速攻から得点を重ねた。森﨑和がレオ シルバからボールを奪い、ドウグラスを経由して奪ったゴールシーンは、今年の広島の新しい武器=ショートカウンターの見本である。
速攻と遅攻、アグレッシブとリトリート。ポゼッションとカウンター。様々な形を柔軟に選択できる幅広さが、2015年型・広島の本質。平均得点2点台の攻撃力と平均失点0点台の守備力を手に入れ、優勝の争いを演じ続けた安定感のベースも、まさにそこにある。
[文:中野和也]