
Jリーグ選抜が、大会初戦で1対7の大敗。まさに、波乱の幕開けだった。今年8月29日から9月3日にかけて、ブラジル・リオデジャネイロで開催された「U-15日本ブラジル友好カップ」でのことだ。しかし、その後の連戦を経て大会を終える時、田中智宗監督は「選手たちが1試合1試合、成長していく姿が、僕らは楽しくて、嬉しくて」と語り、小林祐三テクニカルダイレクターも「本当に爆発的な成長をした選手が何人かいて」と成果を振り返った。地球の反対側にあるブラジルに遠征し、サッカー大国に挑んだJリーグ選抜に、何が起こったのか。そして、2人の育成のプロが語った「成長」とは。
U-15日本ブラジル友好カップとは、「サッカーの神様」そして元日本代表監督でもあるジーコが、毎年、リオにあるジーコサッカーセンターで開催し、今年で第26回を迎えた大会だ。
もともと国土の広いブラジルで、U-15のカテゴリーには最大でも州レベルの大会しかなかった時代、ジーコがこの世代の育成において、全国の強豪同士で対戦する機会の重要性を考え、さらに日本からも参加できれば「異なる土壌のサッカー文化を持つ強いチームと真剣勝負をすることで、得られるものは非常に大きい」として始めたものだ。
ブラジルからは毎年、各州を代表するビッグクラブが参加。その歴史とレベルの高さから、国内でもU-15では最も重要な大会と言われている。2016年大会にサントスの一員として出場し、優勝とMVPを達成したロドリゴが、ブラジル代表とレアル・マドリードで活躍する今、この大会について「U-17に行けるかの分岐点であり、プロチームでのチャンスを得るためのスタート地点にもなる。それに、自分たちを世界に向けて披露してくれる、とても重要な大会。」と語ったことがある。
今年もリオ州の4大クラブであるフラメンゴ、ヴァスコ、フルミネンセ、ボタフォゴに加えてバングー、サンパウロ州サントス、ミナスジェライス州アトレチコ・ミネイロ、リオグランデドスウ州グレミオ、バイーア州ヴィトーリアと、強豪が集結。Jリーグ選抜は、常連の鹿島アントラーズ、初出場ファジアーノ岡山と共に、日本から乗り込んだ。

乗り継ぎを含む約30時間の空の旅を経て、チームがリオに到着したのは大会3日前。12時間の時差、気候、食事など、様々な環境の違いに適応することはもちろん、Jリーグ選抜はこの大会のために各クラブから選ばれた選手たちによって結成されたチーム。監督とスタッフも、選手同士も、それぞれの性格やプレーの特徴などを知ることからのスタートになる。到着翌日はU-14フラメンゴとの練習試合に臨み、大会前日は会場となるジーコサッカーセンターへ。選手たちは盛んに声を掛け合い、真剣な中にも明るい表情で練習に取り組み、チーム作りの第一歩を踏み出した。

開幕前日には、ジーコとも対面。大会中、ジーコは大半の試合に立ち会う上に、日本のチームに対しては、毎年歓迎式を開き、この挑戦への心構えを話してくれるのだ。良い練習と休息、睡眠、栄養の大切さ。健闘を祈り、大会でベストを尽くすのはもちろん、遠征してきた土地であるリオを知り、体感するのにも活かして欲しいと語りかけるジーコ。その後、参加する選手とスタッフ一人ひとりに対して、大会のADカードを渡し、時には冗談を言いながら少年たちの緊張をほぐし、ガッチリと握手。こうしてチームは本番モードに入っていく。

今回Jリーグ選抜の指揮を取ったのは、現在サガン鳥栖でアカデミーダイレクターを務める田中智宗監督。この大会でJリーグ選抜の監督を務めるのは2回目で、前回の2018年はベスト4進出と、Jリーグ選抜の友好カップ参加史上、最高位を記録している。
今回の抱負について「決勝トーナメントに残ることは最低限の目標」とし、さらに力を込めて話してくれたのが、この参加における姿勢だった。
「最近は、結構海外に行っている選手が多いと思うんですが、南米にはなかなか行く機会が少ない。だから、今まで行った国とは違った、サッカー王国ブラジルの選手たちと対戦する中で、いろんなものを学び、体感して欲しいと思っています。
前回と比べて、どれくらい日本の選手たちにできることが増えているのか。また、前回から解決できていないことを、再び実際にここに来ることで、解決ができるかというのも楽しみにしています。」

そして迎えた初戦は、ブラジル南部の古豪グレミオとの対戦。チームでのミーティングはもちろん、スタッフからの個別指導もあり、選手同士でもキックオフ直前まで話をするなど、意思の疎通を図る様子が伺えた。
ところが、まさかの展開となる。試合開始から数分での失点。そこで崩れた様子はなかったものの、前半だけで3失点し、Jリーグ選抜もPKで一矢を報いて1対3で後半へ。立て直しが期待されたが、さらに4失点し、第1節を1対7で終える結果となった。


翌日の第2節。この日も試合直前まで、盛んに意見交換をしながら準備をする。対戦相手はヴィトーリア。バイーア州の強豪で、昨年はこの大会で初めて決勝トーナメントに進出するなど、勢いがある。
この日、先制したのはJリーグ選抜。1対0で前半を終え、後半は取って取られての激戦を展開。最終的に3対2と、今大会初勝利をあげた。試合後はチーム一同、笑顔で記念撮影し、勝つことの喜びを噛み締めた。



選手たちは何を感じていたのか。右サイドバックの氏家累選手。
「チームは昨日の負けで、しっかり勝つという気持ちが強くなっていました。守備では1対1で負けないのと、攻撃では裏へのスルーパスでアシストも取れました。次はもっと攻撃参加して、自分で点取りに行きたいです。」

ヴォランチの古河瑠亜選手。
「自分のプレーで変わったのは、昨日より簡単にはたいていくというところ。相手の嫌なポジションを取ったり、得意のドリブルを出せました。チームとしては、奪われた後の切替や、ボールを持っている選手を越えて、どんどんゴールに向かっていくっていう姿勢が変わったかなと思います。」

センターバックの山本櫂生選手。
「監督から副キャプテンと言われたんで、キャプテンシーを持って、チームを盛り上げたり、最終ラインを整えるところはできました。ブラジル人はやっぱり身長が高く、ガタイが良いんで、クロスを入れて簡単にヘディングで決める。1試合目はそのクロスからの失点が多かったんで、昨日今日のミーティングで話して、2試合目は失点が少なくなったので、良かったです。」

監督もこの2つの試合の間での、具体的な変更と変化を語ってくれた。
「ウチのベースである攻守の切り替えなどを、もう一度徹底したこと。それから、スタッフも選手たちも全員、初戦を通して、誰がどういうプレーをするのかというキャラクターが分かったのが大きいですね。今日はスタッフの総力戦で知恵を絞り、メンバーも形も変えながら、選手たちもそれに応えてくれて、素晴らしいゲームになったと思います。」
第3節は、昨年の優勝チームであり、今年も最終的に決勝進出する、フラメンゴが相手。先制したのはJリーグ選抜。しかし、その後は前半3失点し、1対3でハーフタイム。後半も先に1点を追加するが、相手にも1点を奪われ、2対4で試合終了。Jリーグ選抜は1勝2敗、決勝トーナメント進出という目標は果たせなかった。
選手たちはもちろん悔しかったはずだが、しっかりと振り返っていた。ヴォランチで、キャプテンも務めた佐野翼選手。
「ボールを受けた後にすぐに展開したり、判断を速くしたりできるようになったんですけど、ブラジルは強度が高くて、スピードとかフィジカル面で通用しなかったので、今後、成長できるようにやっていきたいです。」

センターバックの山本櫂生選手。
「海外の選手はフィジカルが強くて速いし、日本ではやられないけど、ここでは相手の身長が高くて、クロス入れられて失点する。そういう、すぐには伸ばせない身長やスピードは、ちょっとずつ意識して、練習していくしかない。それを、日本に帰ったらチームメイトにも伝えたいです。」
選手個々としても、チームとしても、改善すべきことは全力でやり、手応えを掴んだ。ただ、課題も知った。それが、選手たちの実感のようだった。
田中智宗監督は、今回新たに発見したことや、再確認したことを整理してくれた。それが、冒頭の「成長」という言葉に繋がっていく。
「ここで練習試合を含めて4試合やった中で、毎試合、映像を見ながら振り返り、修正していくと、1試合でそれを改善してくれる選手たちがいたんです。これを毎日続けていけば、選手たちはもっと成長し、変わっていくんだろうな、というのが分かったこと。
おそらくやったことがないようなポジションにチャレンジして、ものすごく良い特徴を出した選手たちもいたので、自分の新たな可能性を感じて帰ってくれるんじゃないかな、ということ。
スタッフも選手も、成長しようという力を、みんなが注いでくれました。ポジションも色々変わる中で、選手たちが1試合1試合、本当に成長していく姿が、僕らは楽しくて、嬉しくて、だからこそ、もう1、2試合やれたら、もっともっと成長できたし、良いゲームができたのかなと思います。」
この経験を日本に持ち帰る選手たちに望むことは。
「選手たちは、日本ではおそらくチームの中心選手でやっているんですけども、当たり前のことは、ここでも日本でも、同じことを求められていると思うんですね。ただ、それを日本では、ちょっとサボったりして、やらなくてもやられない、という日常があるけど、ブラジルでは、それが直接失点に繋がってしまう、というのを痛感したと言っていた選手がいました。高いレベルを知ったがゆえに、あらためて、当たり前のことを当たり前にやらなきゃ、このレベルではやっていけないと感じたことを、自分のチームメイトたちに伝えて欲しいと思います。
我々も、その基準を持って選手たちに接していくことです。みんながわかっているようなことを、どれだけ選手たちに徹底してやらせていけるか。それをスタッフに落とし込んでいくつもりです。」
小林祐三テクニカルダイレクターも、Jリーグ選抜を統率するのは昨年に引き続き2度目。今回の成果をこう語る。
「目標としていたグループリーグ突破が達成できず、結果としては非常に残念だったんですけど、2戦目の勝利や、最終節のフラメンゴ戦など、本当に素晴らしい試合が出来たので、そこは昨年から比べて、大きな進歩だったと思います。
3試合を通して、本当に爆発的な成長をした選手が何人かいて、それはスタッフを含めて、良い形でゲームに入り、取り組めたことで得られた成果。選手個々の成長は、本当に大きな財産だと思います。
ブラジルは一貫して、局面でいかに個人で優位に立つか、というところにフォーカスを当てて、フットボールを続けている印象があります。そこでシンプルな1対1になると、まだまだ対等に渡り合える日本の選手は少なかったので、ブラジルの選手たちの能力は高いなと思いました。
ただ、少しスタッフがオーガナイズし、2対2、3対3、4対4のグループをうまく作って繋がりを見せた時には、十分、戦っていけるのを感じました。」
課題も見えた。これは、選手たちの実感や、田中監督の意見とも、ほぼ共通している。
「難しかったのは、フィジカル的な差ですね。今大会、毎試合セットプレーでの失点をしていたし、日本が世界で戦っていく上で、それをどうやって埋めていくかっていうのは、長期的な課題になると感じました。
攻撃の部分では、選手たちの特徴や強みを、スタッフがうまく引き出してくれて、非常に良い、可能性が見えるフットボールが出来ました。反面、ディフェンスでは、言葉を選ばずに言うと、失点が止まる気配がなかった。だから、日本が守備の選手をこの世代でどう選んで、どう育てていくのかというところは、大きな課題ですね。そこは持ち帰って、色々な人たちと話し合って、今後の日本サッカーの発展の一助になれたら、と思っています。」

ジーコに、今年の日本勢を総括してもらった。 Jリーグ選抜と共に挑んだ鹿島アントラーズはベスト8進出、初参加のファジアーノ岡山は毎試合接戦を繰り広げながら、3 敗でグループリーグ敗退となっている。
「日本の3チームは、彼らの可能性の中で良い参加をしていた。注目したことは色々あるが、一番はチームのクオリティだ。どのチームも毎試合、前半は非常に良かった。ただ、今年も後半になるとパフォーマンスが大きく落ちた。いつも直前にリオに来るから、時差や食事など色々な面が、選手たちにとって厳しい条件になっている。そこは改善すべきだし、敗戦から学ばなければならない。今後の勝利のためにね。
気になったのは、厳しい状況になった時にも、日本人選手たちがフィニッシュで多くのミスをし続けていることだ。チャンスを作るが、それを逃し、最後に差がついてしまう。それが、修正されるべきポイントの一つだ。」

今年から新設された日本人最優秀選手賞には、ジーコいわく「選考メンバーの議論でも全会一致」で、礒部怜夢選手が選ばれた。彼は昨年14歳にしてJリーグ選抜の一員として参加し、今年は所属する鹿島のメンバーとして、2年連続で出場するという貴重な経験をし、前大会からの成長を感じさせるコメントをしてくれた。
「タフな戦いで、最後の走り切る、決め切るというところが力不足でした。ブラジル人と対戦して、一つのボールに執着心を持つなど、サッカーに賭ける思いを学べました。僕も鹿島の伝統ある背番号40を任されて、責任や覚悟を持ってプレーしています。今回の経験を活かして、やっぱり人に矢印を向けないで、いつでも自分に矢印を向けて、ひたむきに、練習から常に100%でやって、1日でも早くプロに上がり、活躍できるようにやっていきます。」

例年同様、大会中はブラジルの年代別代表の監督やスタッフが日参し、視察をしていた。今年はA代表から年代別代表までの全カテゴリーを統括する、エグゼクティブコーディネーターのホドリゴ・カイターノも訪れ、こう語ってくれた。
「少年たちに伝えたいのは、この大会が非常に多くを学べる場だということ。タイトルを獲れなかったり、敗戦することも、将来プロになった時のための大事な経験になる。それに、これほどの大会に出られるのは、それだけで勝者なんだ。クラブの長年に渡る素晴らしい仕事、スタッフと選手たちの努力、日々の積み重ねが生み出した成果として得られた機会なんだから。ここへ来た日本のチームや選手たちにおめでとうを言うよ。」



公式戦を終えた後も、Jリーグ選抜は地元クラブのバルセロナ・リオと練習試合。4対2で勝利し、ピッチの上でのプログラムを締め括った。
リオ滞在中は他の2チームと一緒に、プロの試合も観戦した。サッカーの聖地マラカナンスタジアムで行われた、ブラジル全国選手権フラメンゴ対ボタフォゴ戦。リオの4大クラブ同士のダービーマッチに、約6万6000人の観客が熱狂し、ブラジルのスタジアムの独特な雰囲気を体感することもできた。
食事は毎日、宿泊したホテルで、ブラジル人が日常的に食べるメニュー。米は塩とニンニクで薄味をつけて、パラパラッと炊く長粒種で、他に豆や肉料理、パスタなど。日本料理には頼らない。公式戦が終わった後、1度はブラジル流のバーベキュであるシュハスコも食べた。
リオの観光名所コルコバードの丘にも行った。そうした全てが、ジーコが歓迎式で言っていた「リオを知る」ことによる異文化体験に繋がっていく。
選手たちに、ここでの経験を活かして、今後どんな目標に向かっていくのかを聞くと、U-15日本代表、プロ選手、海外での活躍の他にも「日本代表のキャプテンを背負って、W杯で優勝する」(山本櫂生)、「将来の夢はバロンドール」(氏家累)など、笑顔で語ってくれた。
スタッフ、指導者たちは、勝利の追求と同時に、選手たちに成長のきっかけを与えたいという、深い愛情と情熱を持って向き合っていた。その中で、こうして非常に濃い時間を共にした選手たちは、これからもクラブの対戦相手として、または日本代表のチームメイトとして再会し、切磋琢磨することもあるだろう。その時、ここで共に戦い、学んだことを語り合うこともあるに違いない。
ジーコは言った。「ここに来て選手たちが得たものは、一生役に立つんだよ。学んだことをすぐに発揮できた選手たちも、そうでなかった選手たちもね。」
2026年U-15日本ブラジル友好カップ。ここで得た経験、挑戦する勇気、学び、歓喜と悔しさ、自分自身の可能性、友情、そして夢。そうした全てが、選手とスタッフ全員の明日に、そして日本サッカーの将来に、どう繋がっていくのか、これからも期待したい。