天皇杯ゆえ中立開催ではあるが、舞台は埼玉スタジアム2002。そして今回は、声を出しての応援がいまだ解禁されないものの、収容率の上限が撤廃。浦和にとっては、実質的にホームアドバンテージを得て試合に臨める。
この状況に「どアウェイですね」と苦笑を浮かべたのがC大阪の大久保 嘉人。しかし、「それはそれで気持ちが良いので」と百戦錬磨のベテランは意に介さず、むしろモチベーションへと変える余裕がある。この大久保は今季限りで現役引退となるが、先日のJリーグYBCルヴァンカップでは決勝で涙を呑んだ。輝かしい実績を残してきた大久保も、国内タイトルとは無縁。この天皇杯がラストチャンスとなるため、小菊 昭雄監督も「大久保 嘉人を無冠のまま引退させるわけにはいかない」と意気込む。大久保本人も「タイトルを獲って終われれば最高」と話し、自身と今季チームのフィナーレに花を添えるべく全体の士気は高い。
一方の浦和も負けられない理由がある。明治安田J1、ルヴァンカップと、すでに終了した2つの大会では好成績と言える結果を残しながら、いずれも目標には届かなかった。リカルド ロドリゲス監督は以前、「(現時点でも)悪くないシーズンだったと言えると思うが、良いシーズンではなく素晴らしいシーズンにしたい。ルヴァンカップでもあと少し、天皇杯もあと少し、J1でも惜しかったという状況は避けたい」と語っていたが、ルヴァンカップは準決勝で敗退。リーグ戦でも目標の3位・4位には届かず、6位に終わった。残されたのは天皇杯のみだ。
そして、多くの選手がチームを去る。宇賀神 友弥、槙野 智章という大ベテランが契約満了を言い渡され、阿部 勇樹がスパイクを脱ぐ決断をした。ここ数年は遠ざかっているとはいえ、彼らとともに数々のタイトルを獲得してきたのが浦和。手ぶらで送り出すわけにはいかない。さらに、この3選手がいずれも強調してきたのがアジアの舞台だ。リーグ戦では出場権獲得がかなわず、ここでも残されたのは天皇杯のみ。優勝してアジアの舞台に返り咲くことこそが、何よりものはなむけになる。
約1カ月前、彼らの退団について問われた指揮官は、嗚咽をこらえながらこれまでの貢献に感謝を述べ、こう語った。「1カ月後に阿部が天皇杯のカップを掲げる姿を想像しながら、その気持ちを持って残り1カ月を一緒に闘っていきたい」。
くしくもルヴァンカップ準決勝と同じカードとなった一戦。どちらにも去り行く人があり、無冠では終われない理由がある。ここ2年、約28,000人までしか座席が埋まっていなかった埼玉スタジアム2002にどれだけの人が詰めかけるのか。そしてどれほどの熱気を呼び、どんな試合になるのか予想もつかない。
[ 文:沖永 雄一郎 ]
