「ACL(AFCチャンピオンズリーグ)がここまで目の前にきたのは初めて。僕は2年前から『大分にACLを』と言い続けていて、そんなことを言っているのは僕1人しかいないと思っていたけど、僕は本気で目指していたので、手の届くところまできたチャンスを逃したくない。こうやって言って頑張っていれば本当にかないそうなところにくるんだなと思った」 そう語るのは松本 怜。2013年から在籍している男は、ここ10年近くの大分の歴史そのものとも言える。その間、降格・昇格を経験し、明治安田J1からJ3まで、すべてを大分の男として戦ってきた。渇望したタイトルとアジアの舞台は目の前にある。
そして、強い思いはもう1つ。大分を長らく率いた名将との幸福な旅があと1試合で終わる。
「今季リーグ戦で強いられた残念なつらい思いを、なんとかこの天皇杯決勝にぶつけて、タイトルを獲って、最後に笑って、ファンやサポーターと一緒に喜び、私自身の大分での指揮を終えられることが、一番ハッピーで最高の結果だと思う」 この試合を最後に大分を離れる片野坂 知宏監督。2016年、前年にJ3まで降格したチームの監督に就任してから実に6シーズンを指揮。大分を再びJ1まで引き上げ、2季に渡って残留させた。今季はJ2降格となってしまったが、その功績はまったく色あせるものではない。『カタさん』へのはなむけにタイトルを。大分は一体となって燃えている。
タイトル、そしてアジアへの渇望という意味では、もしかすると浦和は大分のそれをはるかに上回っているかもしれない。そして負けられない理由も多過ぎる。決勝までたどり着いたというのに、なぜこんなにも涙が流れ、心が痛いのだろう。
阿部 勇樹が引退を決意し、槙野 智章と宇賀神 友弥に契約満了が言い渡される。時計の針は否が応でも進むものだが、浦和はその速度を自ら速めてきた。リカルド ロドリゲス監督をはじめ多くの新しい血を取り入れ、浦和は変わらなければいけないという覚悟を示してきた。それが正しかったと証明するにはやはり結果しかない。志半ばで去る選手もそれを望んでいる。
「やはり決勝で勝たなければ何も残らないし、何も意味がない。また来年アジアで、ファン・サポーター、そして選手ともに、アジアで暴れてもらうために、必ず優勝をつかみ取りたい。そして決勝でカップを掲げたときに、もう一度みんなでいろいろな話をして、『次頼んだぞ』と最高の形で言えるようにしたいと思う」 準決勝・C大阪戦で先制ゴールを決めた宇賀神はそう語った。浦和はアジアへ戻らなければならない。それは浦和に残るもの、去るものすべての願い――ではなく、認識である。
[ 文:沖永 雄一郎 ]


