8月29日(水) 2007 J1リーグ戦 第23節
甲府 0 - 1 新潟 (19:04/小瀬/9,038人)
得点者:'25 坂本將貴(新潟)
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「攻・め・ろッ! 攻・め・ろッ!」。ホームスタジアムに沸き起こった不満の声が虚しく鳴り響く。J1第23節、甲府対新潟の一戦は、1−0でアウェイの新潟に軍配が上がった。
試合後、甲府の大木武監督に対して、ある記者がこんなことを尋ねた。「サポーターが攻めろコールをしていたが、あの攻めろはどういう風に解釈しますか?」。「俺も聞こえたよ」とこの質問に応えた指揮官は、「要するにパスをつなぐなということじゃないかな。時間をかけるから、それに対して不満があるのかなと。でも、シュート数もそんなに変わらない(甲府15、新潟14)。攻めてないとは思わない」。その表情には、チャンスに決められない展開にやり切れない想いがにじんでいた。
試合は序盤から甲府ペースで進んだ。右サイドを起点に、杉山新の突破などでアクセントを付けながら新潟ゴールに迫っていく。だが、「新はかなりよかったと思うんだけど、クロスの精度という部分ではちょっと難しいかなと思った。悪くなかったと思うんだけど、点を取るために代えた」と大木監督。キレのあるドリブルは見せたものの、最後の部分でうまくいかない。後半にピッチを退くことになる背番号32のプレーが、まさにこの日の甲府のリズムを象徴していた。
そんな甲府に対し、CKからまんまと先制点をせしめたのは、エジミウソン、マルシオ・リシャルデス、シルビーニョといった外国籍選手たちを中心に反撃を始めていた新潟だった。25分、マルシオ・リシャルデスが蹴ったボールに、ニアに飛び込んだ坂本將貴が頭で合わせてゴール。先制点を取れば負けない新潟にとって、セットプレーからのこの1点がチームの心理面に与える影響は非常に大きかったに違いない。
それを示すかのように、センターバックとして充実のときを迎えている永田充は、試合後こちらの質問に対して「先に点を取れれば守り切れる自信はある」と言い切った。同じくDFラインに入る内田潤にしても、押し込まれる劣勢の展開に「やっていてそんなに『ヤバイな』という感じではなかった」と語るなど、前節の清水戦(0-2で敗戦)での戦いを踏まえて我慢しながら集中が続いたと話していた。
「前半3つミスが続いて、ぐっとチームが落ちてしまった」とは大木監督の言葉だが、煮え切らないチームへの不甲斐なさを紛らわすかのように、ハーフタイムには192センチメートルを誇るその体躯には似合わない足さばきでボールと戯れるモンテネグロ人ストライカーへ大きな拍手が送られる。練習終了後には「ラドンチッチ!」コールで迎えたサポーターの新戦力への期待は高まるばかりだった。
そんななか、後半に入って一段ギアを上げてきた選手がいた。茂原岳人である。左サイドにポジションを取り、得意のキレのあるドリブルと高いテクニックで相手を翻弄する姿は、甲府攻撃陣のなかにあって誰よりも頼もしいものだった。大木監督に茂原の出来について聞いてみたところ、「もうひとつだね。もっと彼はできる。でも、今日は悪くなかったんじゃないかな。時間が経つにつれてよくなった気がした」とのことで、長期の出場停止が明けてから徐々にリズムを取り戻しつつあるチームのキープレーヤーの姿に目を細めていた。
そして、この茂原との絡みに最も期待感を抱かせたのが、ラドンチッチだった。前節に初登場した際にも際立ったシュート数は、この日も55分からの出場でチーム最多の5本。シュートの際にうまくボールを捉えきれないなど、「間違いなくフィジカルの問題は抱えている」(大木監督)ラドンチッチだが、巧みな反転やトレードマークともなり得る強烈なシュートなど、時折訪れる見せ場では強いインパクトを残してみせた。そこにいるだけで存在感を放ち、吸い寄せられていくように彼のもとにボールが集まるなか、やはりあとは最後の部分での精度ということになる。
「決して悲観はしていない」「あとひとつ入れれば、必ず道は開けると思う」。もちろん敗戦を喫したこの日に景気のいい言葉が並ぶはずもないが、大木監督はこうも話している。「勝てないから、すべてが悪いという形になってくると、これはもう収拾が付かなくなるから。それだけは避けたい」。結果が出ないとき、そこには選択肢が2つある。信じる道を突き進むか、思い切って変化への道を突き進むか。大木監督は前者を選ぶのだろう。この試合で確実につかんだ収穫と改めて浮き彫りになった課題。結果はどう出るか。
試合開始前、蝉の音が響き渡る小瀬スポーツ公園陸上競技場に訪れる甲府サポーターの顔に浮かんだ笑顔。試合後その顔に描かれた表情は、なんとも渋いものへと姿を変えてしまったが、それでも甲府の戦いはこれからも続いていく。6勝3分14敗、勝点21、16位。前日には皆既月食にもなったという満月が夜空に浮かび上がるなか、この日のスタジアムにはサポーターの巡らせる様々な想いが渦巻いているようだった。
以上
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