11月16日(水) 第91回天皇杯 3回戦
広島 0 - 1 愛媛 (19:01/広島ビ/3,171人)
得点者:86' 石井 謙伍(愛媛)
★第91回天皇杯特集
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右サイドから駆け上がったのは、わずか2分前に交代出場した関根永悟だった。「延長だとどうしても、個の能力の部分で難しい。90分で決めるべく、勝負した」と愛媛・青野慎也コーチは言う。その決断が吉と出た。
後半、カウンターから決定的なシーンを何度かつくった愛媛だったが、ラストパスの精度にブレが生じ、どうしてもネットを揺らせない。だがこの時の関根のクロスは、完璧だった。飛び込んできた石井謙伍の走り込むコースにピシャリ。完璧な形でゴールに叩き込んだ。決めた石井もまた、青野コーチが「練習の状態が良かったから」と抜擢した選手。勝負の采配がズバリと的中し、愛媛はこれまで1度も勝てなかった広島に、敵地・広島ビッグアーチで勝利した。
試合展開は広島ペースでもあり、愛媛のやりたいことができていたとも言えた。ボールポゼッション率は圧倒的に広島。テンポよくボールを回し、相手を揺さぶり、ゴール前に迫った。一方の愛媛は広島の攻撃を想定し、守備時には中盤の選手を最終ラインに下げる5バックを形成。3トップ気味の前線も決して無理に前からプレスにいかず、自陣に強固なブロックを築き広島の攻めをしのいだ。共に想定どおりの内容だったと言える。
広島のモチベーションは、確かに高かった。愛媛のブロックの上から浴びせた前半14本のシュートが、その気持ちの高さを物語る。今季限りで退任するペトロヴィッチ監督と共に、国立でタイトルをとるんだ。その想いがひしひしと伝わった。
だが「気持ちが強すぎると、悪い方向に行くことがある」とはペトロヴィッチ監督の口癖である。シュートのほとんどは、枠の外。枠内に飛んだシュートも相手GK川北裕介をヒヤリとさせるものではなかった。縦へ縦へと急ぎ過ぎて、相手の守備のリズムを変えることもできない。代表や負傷で主力5人の不在が、選手たちの心理に微妙な焦りを呼んでしまったのかもしれない。
青野コーチは後半、前線の3人の位置取りをさらに低くした。1トップ気味に1人残し、残りの2人は中盤での守備に参加、広島のシャドーに対するケアを厚くする。形としては5−4−1、10人のフィールドプレーヤー全員でブロックをつくる。だが守備の修正のために変えたこの形が、決して守備そのものを強くしたとは思えない。確かに広島のシュート数は前半よりも減った(9本)が、決定機は増えている。前半よりも力が抜けた広島のパスワークは冴え、愛媛のブロックにはほころびも生じた。特に58分、中島浩司のオーバーラップからの高萩洋次郎にスルーパスが通ったシーンは決定的。だが、シュートレンジでフリーになった高萩の想いは、届かない。シュートは枠を外れ、むなしく転がっていった。
その後も広島は何度も決定機を迎えるが、シュートが枠に飛ばない。68分、トミッチが飛び込み丁寧なシュートを打ったが、今度は力がなく川北の守備範囲におさまった。そのトミッチが83分、不用意なファウルから2枚目の警告で退場。この時点で残り時間を考え「守備から入る」のか「変わらずに攻める」のか、その意思統一が不透明だった。広島は如実にバランスを崩し、続けざまに愛媛にチャンスを与えてしまう。
86分、広島は決壊を、愛媛には歓喜の瞬間を迎えた。勝利した愛媛は4回戦で浦和と対戦。思えば2007年、愛媛は浦和のホーム・駒場で2−0と快勝。今は広島で活躍している森脇良太の鮮烈なクロスに田中俊也が合わせた痛快なボレーシュートを覚えているサポーターも少なくあるまい。もちろん、狙うはその時の再現だ。
イッスルが鳴った瞬間、広島の選手たちはピッチに倒れ、茫然自失。特に高萩のショックは大きく、ガックリと腰を落としたまま動けない。佐藤寿人に促されるように立ち上がっても、顔をあげることができない。罵声と怒りに包まれたスタンドへと足を運ぶイレブン。高萩はサポーターに深々と頭をさげたまま、ずっと動かないでいた。スタッフに促されるように顔をあげたその瞳には、光るものがあった。
だが選手たちがうなだれて引き揚げる中、一人だけサポーターの前に残っている選手がいた。中島浩司だ。彼はさらにスタンドへと歩を進め、「こんなことでいいのか!」と叫ぶサポーターの熱情をじっと聞いていた。
「一生懸命、応援してくれているから、ああいう(怒りの)言葉も出る。その気持ちに応えないといけない」
涙を浮かべながら言葉に耳を傾けたベテランは、最後にこんな言葉を発した。
「今は、何も言われてもいい。ただ残り試合、頑張りますので、また応援に来てください。本当にすみませんでした」
頭を深く下げた真摯な男にさらに怒声を浴びせる人は、もういなかった。
以上
2011.11.17 Reported by 中野和也
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