9分、左サイドを突破した岡本賢明からのクロスに前田俊介が頭で合わせて札幌が先制すると、32分には右サイドバックの日高拓磨が攻め上がって蹴ったクロスに高木純平がこちらも頭から飛び込んでゲット。前半中ごろの時点でホームチームが2点をリードする展開となり、その後も札幌が優勢に試合を進めることが予想された。それに2点目を振り返ると、今シーズンリーグ戦に初めて登場した日高のクロスから、同様に今シーズン初めて2列目に配置された高木純が得点を挙げるという、見事なまでの采配的中である。これはもう札幌のゲームと言うしかない。「2点差は危険な点差」という声もあるが、どう考えても2点をリードしているチームが優位であることは間違いない。
だが、後半に入ると展開は一変することになる。
57分、川崎Fは中盤の底に、コンディション不良でベンチスタートとなっていた中村憲剛を投入。「前半のポイントはボールが動かなかったことだと考えたので、中村を入れて活性化させた」と監督代行を務めた望月達也コーチは説明する。この中村はファーストプレーでいきなりゴールを奪うと、その後は長短織り交ぜたパスワークでチームにリズムを与えていった。ゲームの主役は完全に中村となり、そしてその活躍により、劣勢だった川崎Fが一転して主導権を奪ってしまった。
中村が光った要因には、札幌の間延びした陣形も影響した。
「後半に入って相手が前に出てきたので、ちょっと受け身になってしまった」と岩沼俊介が振り返るように、後半の札幌は積極的な押し上げをしなくなり、少し引いた状態で川崎Fの攻撃に応対する場面が増えていたのだ。それに反して前方の選手は積極的に高い位置から相手ボールを追いかけたり、あるいは中盤の選手は疲れから運動量を減らしてしまったりしたため、最終ライン、中盤、前線のそれぞれの間に大きなスペースを生んでしまった。そのスペースへ中村はうまく入り込み、パスの起点にしたのである。
札幌の守備的MF河合竜二も「(中村)憲剛は中盤の低い位置、それもFWが引いて来れず、それでいて守備的MFもチェックに行き難いポジションでボールをさばいてきた」と口にする。中村はその高い戦術眼で有効なスペースを見つけだし、そこから前左右にパスを配球することで札幌の守備をいとも簡単に翻弄していった。パスだけでなくコーチングによる指示でも周囲の選手を動かし、田中裕介も「(中村)憲剛さんが入ると、みんなが動き出してスペースが生まれた」という。この選手がピッチ上にいるだけで川崎Fは活性化してしまったのである。前半は精彩を欠いていた大島僚太も、中村が投入されてからはよりボールに絡めるようになり、生き生きとプレーし始めたのも印象的だった。
そうして流れを得た川崎Fは67分にPKをレナトが決めて同点にすると、その後もテンポよく攻め続ける。同点に追いつかれた札幌も選手交代やポジションチェンジも絡めて追加点を奪いに出るが、前に出るたびにスペースを中村や大島に脅かされ、結局、投入されたばかりの山瀬功治が88分にゴールネットを揺らし川崎Fが見事に逆転勝利を収めてみせた。
2点のリードを守れなかったのだから、札幌としては非常に痛い敗戦と言うしかない。特にリードして折り返した後半については「相手が前に出てきたときに、うまくカウンターで追加点を狙うような戦い方をしなければいけなかった」という前田の言葉や「もっと臨機応変に戦う必要がある」との河合のコメントが的を射ているだろう。後半の札幌は、慌てずにブロックを形成し、得点が欲しい川崎Fが前がかりになったときにカウンターを繰り出すセオリー通りの戦いをすればいい状況ながらも、失点を恐れたからから、プレーに余裕のない局面が幾度も見られた。ボールを奪ってもなかなかキープできず、攻めては縦に急ぎがち。やはり今シーズンはまだリーグ戦で勝てていないからなのか、リードしている、あるいはタイスコアの状況でも、メンタル的な余裕を持ち切れていない印象がある。
ひとつ結果が出れば状況は大きく変わるのかもしれないが、その“ひとつ”がなかなか難しい。まさに札幌はその難しさに直面しながら、カレンダーを進めている最中なのだろう。一方で川崎Fは監督解任という大きな出来事があったなかで、こういう厳しい試合に逆転勝ちができたのだから、着実にチームは落ち着きを取り戻していると見ていいだろう。新監督就就任後の戦いぶりにも注目が集まりそうだ。
以上
2012.04.22 Reported by 斉藤宏則
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