秋田は28戦無敗というJリーグ初の快挙で明治安田J3を制した。吉田 謙監督の下、チームは球際の競り合いや走力で相手を上回るために綿密なフィジカルトレーニングを積んだ。そのトレーニングの効果は、前線にロングボールを送る縦に速いサッカーで威力を発揮。中村 亮太や齋藤 恵太らスピードを武器とするFWとMFが攻守に奮闘。敵陣に押し込んだ状態でセットプレーを得ると、江口 直生の高精度の右足から放たれるボールから、韓 浩康や千田 海人ら高さと強さのあるDFがストライカーと化して得点を量産した。前線からの連動した守備で相手の攻撃の選択肢を減らし、優勝を決めるまでの28試合で8失点の堅守も構築。1点を守り切る粘り強さで勝点を拾った。
しかし、11月18日に6試合を残して優勝を決めたあとは、1勝2分3敗。結果を見ると振るわないが、吉田監督が「少しずつではあるが、いろいろなことに挑ませている。選手たちがすごくやってくれている」と話すように、チームは挑戦を続けている。リーグを制した前への推進力を柱とし、さらにスペースを使い連係して相手を崩そうとするプレーが見られる。またシーズン終盤に入り、大卒新人の井上 直輝が前線の起点として成長。J3第32、33節でボランチで起用された輪笠 祐士が攻守で活躍するなど新たな要素が加わっている。
こうして迎える天皇杯。吉田監督は「J3チャンピオン、そしてJ3代表、秋田代表の誇りを持って、“全走力”で立ち向かうのみ」と力を込め、これまでどおり目の前の一戦に全力で臨む。試合会場はユアテックスタジアム仙台。宮城県出身の千田やGK田中 雄大にとっては凱旋試合とも言うべき試合で、大いに発奮するだろう。
一方の福山シティFCは天皇杯5回戦で福井ユナイテッドFCと対戦し、3-0で完封勝利を挙げた。この試合では最終ライン付近のビルドアップを起点とし、相手を引きつけた上での前線へのロングボールが効果的だった。16分の先制点もこの形から生まれている。深い位置からのロングボールが相手の連係ミスを誘い、これで得たPKを田口 駿が決めて先制。34分には、かつてJ3盛岡(現・岩手)でもプレーしたキャプテンの田中 憧がCKからヘディングで追加点を挙げた。3点目は前がかりになった相手の裏を突き、再び深い位置からのロングボールで抜け出した田口がループシュートを決めた。
自陣深い位置でのビルドアップはリスクを伴うが、福山シティFCの選手たちは織り込み済みで、ボールを失っても素早く切り替えて奪い返そうとする。ここまでのトーナメント4試合で無失点が3試合と守備も堅い。まとまりのあるチームを作り上げた22歳の小谷野 拓夢監督は「Jクラブ撃破」を掲げ、虎視眈々と仙台に乗り込む。
良いポジションを取り、数的優位を作ってビルドアップする福山シティFCに対し、秋田が素早いスライドと球際の競り合いで対抗できるかが1つのポイントとなりそうだ。
カテゴリーを超えた真剣勝負が魅力の天皇杯。これまで数々のジャイアントキリングが起こっただけに、勝ち上がってきた福山シティFCに追い風が吹いているような空気もある。だが秋田には、厳しいリーグ戦でも自分たちのプレーを貫き通した一体感がある。チーム一体となってそうした空気を吹き飛ばすはずだ。
[ 文:竹内 松裕 ]


