それが持つ意味は、ことのほか大きい。今年度はJ3降格に伴い、長野県予選から出場。決勝から登場するスーパーシードとなり、同じJ3の長野と覇を競った。公式戦ではJFL時代以来11年ぶりとなる“信州ダービー”。大型連休3連戦の最後を飾る5月8日、サンプロ アルウィンで激突した。
ほぼフルメンバーだった長野に対し、松本はリーグ戦の出場機会が少ない面々。連係面などには課題を残したものの、守備は安定して水漏れすることはなかった。そして79分、17歳の若きストライカーが大仕事をやってのける。松本U-18所属の田中 想来だ。安東 輝からのスルーパスを受けてゴール前に進入すると、冷静な切り返しで相手DFの裏を取って値千金のゴール。8,072人が集まったスタジアムを、緑色の熱狂に包んだ。
この一撃が決勝点となり、本戦への出場切符を確保した松本。敗者のぶんも付託され、サッカー新興県・長野を代表してトーナメントに臨む。
思えばこの2チームは、天皇杯を大きなはずみとして好成績を残してきた。松本はJFL時代の2011年、横浜FCと新潟を連破して過去最高の16強に進出。この勢いをリーグ戦にも持ち込んで悲願のJ2昇格を達成すると、その後のラウンド16では同年に急逝した元日本代表・松田 直樹氏と縁深い横浜FMに胸を借りた。
敗れた長野も天皇杯では名古屋、札幌などを撃破した経験を持つ。昨年度は最強のJ1王者・川崎Fと互角の戦いを演じてみせた。サブメンバー主体で臨んだものの、前半に先制。しかし、後半アディショナルタイムに同点弾を許し、PK戦の末に惜敗した。ただ、このプレー強度と貴重な経験を生かすなどし、以降のリーグ戦では4連勝を含む6戦負けなしとした。
つまり今回も、長野県代表にとって天皇杯はさらに勢いを加速させるための舞台となり得る。メンバーは実戦機会に飢えている顔ぶれがメインか。守護神・村山 智彦やCB橋内 優也ら、後方は百戦錬磨のベテラン。野々村 鷹人か三ッ田 啓希などの若手DFが加わったとしても、彼らがいることで大崩れすることはないだろう。
ここに若手アタッカーが新鮮な風を吹かせていく。スピード豊かで運動量豊富なレフティー・村越 凱光や、186センチの長身を生かしたプレーが持ち味の榎本 樹らがどん欲にゴールを狙う。村越は昨年度の天皇杯でプロ初ゴールを記録しており、榎本は昨季の明治安田J2終盤戦で一気に存在感を増した有望株。今回の一戦を成長のきっかけとしたい。
サンプロ アルウィンに迎えるのは石川県代表・北陸大。5月8日に行われた天皇杯石川県予選決勝は金沢星稜大との一戦となり、後半に2ゴールを挙げて2-1と逆転勝ちを収めた。53分に讃岐U-18出身の福田 龍冴がPKを決めて同点とすると、わずか3分後には韓国・安養高出身の申 峻雨が勝ち越し弾。このリードを守り切り、3年ぶり5回目の本戦出場を決めた。
昨季の北信越大学リーグ1部では申 峻雨と太田和 隆斗が得点ランキング6位タイとなる7ゴール。背番号10を背負う遠藤 青空がアシストランク5位タイの7アシストをマークした。こうした面々が軸となり、天皇杯初勝利を挙げた前回出場の2019年に続く初戦突破を狙う。
[ 文:大枝 令 ]
