馬場賢治がふと口にした言葉に思わずハッとさせられる。
「ホームはあと6試合しかないから――」

目の前の勝点3につねに意識を傾け、ここまで文字通り駆けてきた。開幕前の口さがない下馬評も、蓋を開ければ首位を快走し、8試合勝利に見放された時期を経てなお現在3位につけている。負け数はリーグ最少タイの4にとどまり、引き分け12はリーグ最多だ。負けない試合を演じているのではなく、勝点3を追い求める過程がそうさせている。そうして重ねた試合は、気付けば30を数えていた。

「いまの位置は“GET3”の積み重ねの結果」曹貴裁監督はそう語り、さらに続ける。
「いまそういう位置にいられるのは幸せなことだけれど、上位で戦う経験値を含めて今後チームとして高めていくことが大事。これから右肩上がりに結果も内容も出していかなければいけない。相手が我々のよさを消してくるなかで、ただ自分たちのよさを出すのではなく、相手を上回るだけのよさをさらに伸ばしていかなければいけない」

前節アウェイで対戦した徳島はまさしく湘南のよさをかいくぐってきた。逆に湘南はパスが合わず、自分たちのリズムをつくれない。「攻撃に入るところでパスミスが多く、後手に回ってしまった」3試合ぶりに先発した島村毅は振り返る。同じく3戦ぶりの先発となった馬場も、「感覚が鈍っているような、普段では考えられないようなミスが多かった」と首をひねった。連戦の足かせは例に漏れず無視できない要素だろう。ただ、「うちのサッカーはいい守備といい攻撃が表裏一体」とGK阿部伸行が触れたように、立ち上がりに押し込まれたところから本来のリズムをつくれなかった感が強い。

見方を変えれば、その苦しい展開のなかで持ち帰った勝点1は小さくない。スコアレスドローの背景には、12本に及んだ相手のコーナーキックを防ぎ抜いた事実がある。ドウグラスのマークに付いていた島村は、「彼が強いのは知っているので恐怖との戦いでした」と苦笑いを浮かべながらも、「ぼくも必死だったし、みんなが意識して声を掛け合って集中していた」と明かす。また阿部も、「誰がリーダーシップをとるとかではなく、みんなが目の前のプレーに集中し、その集中を外に発信しながらいい空気をつくれていた。声で止められるものではないけれど、声がなければ始まらない」と語った。それでも危険なシーンはあり、彼らに反省は尽きないが、3試合連続で失点していたセットプレーを凌いだ粘りと集中力がなければ、勝点は遠のいていたことだろう。

そして今節もまた、セットプレーの攻防はポイントのひとつとなりそうだ。今節BMWスタジアム平塚に乗り込む栃木はセットプレーの得点率が高い。実際、引き分けた前回のホーム湘南戦でも菊岡拓朗がフリーキックを直接沈めている。また総失点は4位タイと少なく、組織的な堅守と精度の高いプレイスキックを背景に、セットプレーがチームの重要な武器になっている印象だ。

第20節終了時点で13位に甘んじていた栃木は、しかし難敵の松本を降して以降6連勝を果たし、リーグの混戦を尻目にじわじわと上位に詰め寄ってきた。2試合のスコアレスドローを含め3試合連続でゴールに見放されるも、前節は廣瀬浩二の鮮やかなミドルによって愛媛から1−0の勝利をもぎ取った。順位こそ現在9位だが、湘南との勝点差は5に過ぎない。プレーオフ圏内の6位山形にも勝点3差に迫っており、今節の湘南戦、ひいては次節の横浜FC戦と続くアウェイ連戦は、さらなるジャンプアップへの要所となろう。

週末に向けて阿部は言う。「補強もあってどのチームも前回の対戦とはメンバーが変わっている。いつも通りいい準備をして、新しい気持ちでしっかり臨みたい」。また馬場は続けた。「ホームはあと6試合しかないから、一戦一戦、決勝戦の気持ちで臨もうと、曹さんにも言われている。いかに主導権を握るか、徳島戦の経験をチームとして活かさなければいけない。連戦と思わせないようなメンタリティで臨むことが大事」。3連戦の締め括り、足をからめ取ろうとする酷暑のなかで、湘南はホームの声援を背に勝点3へ向けて走る。

以上


2012.08.25 Reported by 隈元大吾