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コラム

Jリーグチェアマン 村井満の“アディショナルタイム”

2014/7/26 10:00

二つの劇場で(♯12)

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舞台挨拶が行われた『丸の内TOEI』前にて
舞台挨拶が行われた『丸の内TOEI』前にて

 J1リーグ戦が再開された7月19日、NACK5スタジアム大宮で大宮アルディージャ対サンフレッチェ広島戦の視察前に銀座の映画館に足を運んだ。劇場版「仮面ライダー鎧武(ガイム)サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯!」の封切日だったからだ。

撮影中、ほとんどNGが無かったという役者顔負けの中山雅史さん
撮影中、ほとんどNGが無かったという役者顔負けの中山雅史さん

 仮面ライダーシリーズといえば40年以上の歴史を持つ日本の国民的長寿番組だ。「ゴレンジャー」から始まる「スーパー戦隊シリーズ」と並んで、日本の男の子なら誰でも一度は「変身ごっこ」を真似た経験があるのではないか。

ドラマ「半沢直樹」での金融庁のエリート官僚役でお馴染みのラブリンこと片岡愛之助さん。歌舞伎役者初の変身ライダーだ
ドラマ「半沢直樹」での金融庁のエリート官僚役でお馴染みのラブリンこと片岡愛之助さん。歌舞伎役者初の変身ライダーだ

 今回の劇場版映画ではフクダ電子アリーナを舞台にした「オールライダーカップ」というサッカー大会の場面が登場する。ライダーに交じってジュビロ磐田の駒野友一やジェフユナイテッド千葉の佐藤勇人が華麗な技を見せてくれる。スタジアムの外では、ゴンこと中山雅史さんが実名役で登場してキックターゲットを披露したり、人気歌舞伎役者のラブリンこと片岡愛之助さんも悪役として登場してライダーに変身する。

ライダーファンの中山さんは仮面ライダー1号の赤いマイベルトを持参した
ライダーファンの中山さんは仮面ライダー1号の赤いマイベルトを持参した

 この日は初日ということもあり、関係者の舞台挨拶があり、中山さんや片岡さんにも楽屋でご挨拶することができた。映画館は子供連ればかりかと思いきや、何とも若い女性客が多いのには驚いた。実は、ライダーたちはイケメン俳優の登竜門でもあるのだ。舞台挨拶が始まると一気に熱心なファンの黄色い歓声に包まれる。仮面ライダー恐るべし。

 舞台挨拶での中山さんのスピーチが圧巻だった。「自分はライダー役だと思っていたら中山雅史役でした。」と笑いを誘ったあと、「みなさん、今日からJ1が再開しますよ。」(一歩前に出て)「いいですか?スタジアムに来てくださいね。」(一歩前に出て)「いいですか?Jリーグですよー!」という具合に猛然とアピール。若い女性から喝さいを浴びていたのだ。新規のファン獲得に向けた彼の体当たりのアピールは本当に素晴らしいものだった。

 そして、もう一つの劇場の話。FIFAワールドカップブラジル決勝の日であった7月14日、Jリーグ参入をめざす関西リーグ1部・奈良クラブ所属の岡山一成選手がチェアマン室を訪ねてくれた。私がぜひ会いたいと申し出た選手である。

 彼は1997年に横浜マリノス加入後、大宮アルディージャ、セレッソ大阪、川崎フロンターレ、アビスパ福岡、柏レイソル、ベガルタ仙台、韓国Kリーグ・浦項スティーラーズ、コンサドーレ札幌、奈良クラブと18年間に10のクラブを渡り歩いた男だ。

 以前から「岡山劇場」という言葉は知っていた。試合後に拡声器をもってサポーターとともに勝利を祝うパフォーマンスはファン・サポーターの熱狂を呼び、YouTubeなどにも数多くアップされている。つい先日の天皇杯でも奈良クラブは彼の決勝ゴールでベガルタ仙台を破りジャイアントキリングを見せてくれた。その際も、古巣のベガルタのサポーターの前で彼は感謝の気持ちを込めてパフォーマンスを演じたのだ。

 そんな彼のエネルギーや明るさはどこから来るのだろうと思い、ぜひ彼と話をしてみたいと思ったのだ。彼のことをある程度事前に知っておくべきだろうと思って、彼の著書「岡山劇場」は入手していた。しかし、実はこの間結構忙しく、本を読む気も正直なかった。結局彼の本を手に取ったのは、彼と会う前日である13日の夜のことだった。

 13日は午前2時からスタジオに入りFIFAワールドカップブラジル3位決定戦の前後の生放送に出演していた。日が昇ってからは、千葉のフクダ電子アリーナに向かいクラブハウス訪問をした後、天皇杯のジェフユナイテッド千葉対AC長野パルセイロの試合の視察。何だかんだで夜になると疲労もピークに達していた。

 私は、「どこでも眠れる、何でも食える。」のが唯一の取り柄の男だ。その夜一杯引っかけて、本でもめくれば即座に眠りに落ちると思っていた。ところがどっこい、手にした彼の本は本当に面白くて、眠りに落ちるどころか、眠かったことも忘れて一気に読み終えてしまったのだ。

 本の中にあったのだが、彼は一度も複数年契約を交わしたことがなく、1年1年を真剣に生きてきたそうだ。そして、生身の人間としてサポーターのブーイングにどれだけ自分や仲間が傷ついてきたかが綴られている。そうしたサポーターとの関係を改善し、サポーターとの絆を力に3度も昇格を実現していく真実のドラマは迫真の物語だ。飾らない彼の語り口が心に響いていく。

 彼のような選手にサッカー界は支えられているのだ。彼の本を紹介する巻頭言には、どんな人に読んでもらいたいか という文脈の中で下記のように書かれている。
 「『必要とされない』と悩んでいる人にヒントになればいいなあと思う。俺 自身がいっぱい悩んだテーマだから。」
 戦力外通告を力に変えてきた彼の生き様は本当に説得力がある。