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コラム

Jリーグチェアマン 村井満の“アディショナルタイム”

2014/8/30 10:00

差別問題について思うこと(♯16)

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 前回の8月20日更新の秋田での話題から少し間隔が空いてしまった。この間に体験したベトナム訪問記やガイナーレ鳥取の岡野雅行GMと一緒に山口まで出かけた講演旅行の話などを紹介しようと思っていたのだが、先週末の8月23日に起こった差別的挑発行為を機に筆が止まってしまった。ピッチ上の相手選手に対してひとりのサポーターがバナナを振りかざして挑発するという行為だった。当事者のサポーターの意図がどうあれ、多くの関係者に悲しい思いをさせてしまったことは事実であり、安全で安心なスタジアムを提供する責任を持ち、差別撲滅などを中心としたソーシャルフェアプレーの実現を約束したJリーグを代表して心からお詫び申し上げます。

 私の前職は、採用支援・就職支援の仕事だった。年齢差別や男女差別にとどまらず、どうしたら様々な差別のない社会にしていけるのか、いつも悶々と自問自答していたように思う。人と人との間の強い絆を形成する時には、お互いの「同質性」を探すプロセスがあるように感じていた。たとえば、友達になる時に「同じ郷里だね」とか「同じ趣味だね」と言って意気投合するように。しかし、時にこの絆が強くなりすぎると無意識のうちに他の属性の人々を排除してしまう危険性がはらむようにも思う。時に職場やスタジアムといったオープンな場ではなおさらだ。強い仲間意識(同質性の絆)と差別意識は裏表の関係にあるということだろうか。同質性の絆だけではなく、「一人ひとりは違うものなんだ」という多様性を前提とした強い絆を築いていくのはどうしたらいいのだろう。これが、ずっと底流にある自らへの問いだった。

 言動として現れる差別が許されないものであると分かっても、裏側にある問題をどう考えるかは本当に難しいものだ。言い換えれば、表面に現れる差別行為を断じて許さない姿勢は大切なのだが、ただ、処分をするだけでは本質は解決しない可能性もあるのだ。差別行為が行われ、当該者に処分が下される、対策として管理強化されたとしても、結果としてスタジアムの雰囲気が悪くなり、それがまた悪循環の始まりになってしまっては何の解決にもならないのだから。

 昨日の記者会見でも述べたのだが、我々Jリーグは「処分・管理」という内部統制的枠組みに留まらず、サポーターやクラブと手を携えて日本社会に差別撲滅を訴えていく方向に踏み出そうと決意している。昨年40あったJクラブは合計で年間4000回のホームタウン活動を行っている。1クラブあたり年間100回の計算になる。1年を50週とすれば週2回のペースで、各クラブはサッカー教室を開いたり福祉施設を訪問したり、学校を訪ねたりして地域に出向いている。こうした活動をする際に、ひと声「いじめや仲間はずれなどの意識」をなくしていくメッセージを発信することができれば、その影響力は大きなものになるだろう。男の子のなりたい職業No.1はプロサッカー選手と言われている。そうした憧れの存在からのメッセージは生涯忘れないものとなるはずだからだ。サッカーは世界に通じているスポーツだからゆえに、私たちは差別の世界基準を身をもって感じている。そうした皮膚感覚を社会に還元できたら何よりだ。私見だが、各クラブが行うホームタウン活動の際に利用できるような差別撲滅に向けた啓発ツールを作成しようと考えている。それは、Jリーグの資金と今回の制裁金を合わせて活用できないかと考えている。今日このブログは大阪行きの新幹線の中で書いているのだが、これから大阪で人権啓発シンポジウムに参加する予定だ。私自身もそうした啓発活動に積極的に参加していこうと思っている。