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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

信州ダービー

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北信越リーグでしのぎを削る松本山雅FC(創立1965年)とAC長野パルセイロ(1990年)の“信州ダービー”を題材にしたドキュメンタリー映画『クラシコ』が松本市内で封切られた。松本と長野は、長きにわたる歴史的因縁の間柄。両市民の“プライド”が、近時一つのサッカーの試合に投影されてきたことは、地域リーグに集まる数千人の観客数をみれば明らかである。 ダービーを生む背景には都市の歴史が深く関係し、その伝統は地元市民に代々受け継がれた。明治維新後の1871年、廃藩置県によって、信濃の国は、善光寺のある天領:長野を中心にした「長野県」と、安曇・筑摩・諏訪・伊那に飛騨を併せた「筑摩県」に分かれ、筑摩県の県庁は城下町の松本に置かれた。

だが5年後の府県再編により、飛騨は岐阜県に分離されて筑摩県は消滅、県庁は長野に移る。 以来130年間、松本と長野の地域意識のぶつかり合いは、日本のダービーの祖を築いた。旧制松本高等学校を前身にした国立大学や地元新聞には、長野ではなく「信州」や「信濃」の名が冠され、また日本銀行の支店が松本に置かれるなど、すべてがこの関係を意識して動いてきた。 世界のダービーの発端は、社会階層の対立(ACミランとインテル)、ブルジョア対労働者(リヨンとサンテティエンヌ)、宗教(セルティック・グラスゴーとレンジャーズ)など実にさまざまである。昨年発刊された『英国のダービーマッチ』(白水社)の訳者で、自らも熱烈なサッカーファンの実川元子さんは、ダービーと呼ぶに値する条件として、次の二点を挙げている。同じ都市や地域にあるという共通点と、ファン層に社会階層、宗教、民族、政治上などの対立の歴史があること。クラブ、選手、スタッフ、ファンみんなが、相手を強く意識し、激しい敵対心と連帯感の両方を持っていること。

松本山雅は、今シーズンから長野パルセイロよりワンランク上の全国リーグ:JFLに昇格した。地元チームが好成績をあげることが地域全体を元気づける。ホーム開幕戦には、5,500人のファンが詰めかけた。ライバル長野の存在は、クラブと地域に対して、自分とは何かを問い、自分の生き方を考えさせる不思議な効果をもたらす。 ダービーマッチは、地域を一つにまとめる力とともに、地域の意識を分裂させる力を併せもつ。この結束と独立の両者が繰り返されて、また一つ新たな地域を代表するクラブが誕生する。やがて長い年月を経て、日本列島は北から南まで「百年構想のある風景」に染まっていく。