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コラム

百年構想のある風景

2015/1/30 10:00

ネーミングライツの心

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ネーミングライツ(施設命名権)は、1950年代に大リーグのセントルイス・カージナルスの本拠地が、地元企業の創業者名からブッシュ・スタジアムと命名されたことが起源だとか。単なる企業名や商品名をPRするためではない。そこに地域の発展に貢献する姿勢が反映されているからこそ、その名が半世紀以上も地元から愛されている。 Jリーグ開幕から十年後の2003年、初めてホームスタジアムにも登場した。現在、全国に24ある。契約金額は年額千万円単位がほとんどで、更新時にはJ1に昇格すると増額、逆の場合は減額になるなど成績に左右されやすい。期間は3~5年と短く、愛着が生まれるにはやや安定さに欠ける。契約の大半が年額で億円単位、一度に20~30年の長期にわたる本場の米国に比べ、歴史の差はさておき、そこに宿る思想の違いに注目したい。

今年1月、クリーブランド市が所有するスタジアムの命名権契約を、ホームのNFL(アメフト)のブラウンズが大手エネルギー企業と交わしたという記事に驚いた。日本政策投資銀行の駐在員レポート(2006)によれば、米国では、スタジアム所有者である自治体と長期賃貸借契約を交わした使用者たる地元のプロスポーツクラブが、命名権契約をパートナー企業と直接に結び収入を得る仕組みが一般的だという。さらに、スタジアム建設資金の一部をクラブが負担し、その返済財源として命名権収入を充てるケースもある。 米国では自治体がクラブ経営を収入面からサポートするのに対し、我が国では、スタジアムや専用練習場の使用料減額など費用負担の軽減に重きを置く支援が一般的だ。このため命名権に関しても、所有する自治体が募集を行い、パートナー企業と契約を結び、資金は自らの一般財源(用途を特定しない)に収めるのが普通である。同じ命名権であっても、お金の流れが日米ではまるで異なる。そこに映し出される心とは何だろう?

我々がスタジアムの価値を実感するのは、社会的に役に立つかどうかという主観が出発点になる。アダム・スミスは、これを『使用価値』と呼び、貨幣を介して経済取引される『交換価値』と対比した。使用価値のカギは、プロの地元チームの存在すなわち地域のアイデンティティにある。常に良好なピッチ状態、快適な観戦環境、満員の観客の下で、期待通りのパフォーマンスを発揮するホームチームの活躍や成長ぶりが、地域の発展につながる。その“聖地”としての姿に、誰もがスタジアムの存在価値を認識する。 この使用価値を最大化するために、米国では命名権募集の権利が使用者に与えられているのだろう。当事者として様々なインセンティブが働くクラブは、命名権料を活かして自らとスタジアムの価値を磨く努力を惜しまない。 パートナー企業は、ファン・サポーターが向かうスタジアムが“聖地”だからこそ、そこに地域貢献という熱い思いを、命名権として託すことができるのではないだろうか。