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コラム

青山 知雄の悠々J適

2015/4/16 19:52

デカモリシのゴールを待ちわびて(♯7)

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ゴールへの強烈な欲求と苦悩――。胸に溜め込んだマグマはもう爆発寸前だ。

チームのために体を張って必死で戦い、気持ちを前面に押し出して走り続け、攻守に貢献していることはサポーターにも十分に伝わっている。それはヤマハスタジアムに彼への声援が響き渡ることが裏付けている。得点できなくても、決して彼へのコールがやむことはない。

だが、それで満足しているわけにはいかない。前線からの積極的な守備や攻撃の基点になることは、自分にとって最低限の仕事。負傷離脱したライバルがベストコンディションを取り戻すまでに結果を残しておきたいという思いもある。今はとにかく目に見える結果が欲しい。周囲の期待を感じているからこそ結果にこだわりたい。それがストライカーとしての矜持なのだろう。

攻守に奔走し、チームに貢献する森島選手。
攻守に奔走し、チームに貢献する森島選手。

厳しいプロの世界だけに、結果に飢えている選手は無数にいる。その一人が、開幕から7試合無得点に終わったジュビロ磐田の「デカモリシ」こと森島康仁だ。

1-1の引き分けに終わった明治安田生命J2リーグ第7節ファジアーノ岡山戦の試合後、ミックスゾーンに姿を見せたデカモリシは、自分自身に言い聞かせるように何度も何度も前向きな言葉を口にした。「次は絶対に決める。悲観的にならず、やっていることは正しいと思って信じ続けていくしかない」と。

注目の上位対決でスタメン出場した森島は、前線から果敢に動き回ってチームに貢献。攻めては後方からのロングボールに飛び上がって胸や肩を使ってチームメイトにつなぎ、中盤まで顔を出しては縦パスを引き出そうと努めた。裏のスペースを狙った動き出しも繰り返し、櫻内渚の右クロスにヘディングで力強く合わせるなど好機にも絡んでいる。

もちろん守備時に強い存在感を放ったことも忘れてはいけない。ボールを失った瞬間に素早く切り替えて激しいプレスバックからマイボールに奪い返すなど、ファーストディフェンダーとしてしっかり機能。同点ゴールは彼のプレスをきっかけに高い位置でボールを取り、さらに鋭くターンしてからの縦パスが起点となったものだった。

だが、この試合ではシュート1本で無得点に終わり、64分にケガから復帰してきたジェイとの交代でベンチに下がった。開幕から7試合358分間に出場しながら、まだゴールを決めることができていない。岡山戦ではクロスボールへのタイミングや入り方も合ってきており、自分自身も「これまでで一番可能性を感じた」と手応えをつかんでいただけに、悔しさは募るばかりだ。

サポーターも声援を送り、森島選手を後押し。
サポーターも声援を送り、森島選手を後押し。

試合後、うつむき加減にピッチを歩くデカモリシに向けて、ゴール裏サポーターから「モリシマ」コールが飛んだ。得点を決めたアダイウトンに続いて叫ばれたのが彼の名前だった。サポーターはデカモリシのプレーを評価し、彼の頑張りと苦悩を見続けてきたからこそ、信じて待ち望んでいる気持ちを伝えたいと思ったのだろう。ほんの一瞬の出来事ではあったが、「デカモリシにゴールを取らせてあげたい」というスタジアム中の思いがシンクロしていたように感じた。

攻撃的な選手――特にストライカー――は、とかく結果が求められるポジションだ。相手ゴールに近い位置でプレーすることが多いため、選手を評価する際には得点数が一つの指標となる。結果が残せなければ叩かれることもあるが、表には見えない貢献度にも目を向けることが必要だと思う。

北條さんが3月に連載コラムで書かれていたとおり、今シーズンのジュビロ磐田は雰囲気が良くなったように思う。球際の激しさや高い意識はもちろんだが、新体制発表会見後に初練習を取材させてもらった際には、サッカーバレーに興じる選手たちの笑顔が非常に印象的に思った。その中心にいるのが、他ならぬデカモリシだった。2007年のU-20ワールドカップに出場した“調子乗り世代”の中心的存在で、持ち前の明るいキャラクターを武器に在籍チームを盛り上げてきた。今シーズン開幕前に川崎フロンターレからの期限付き移籍で加入したばかりだったが、彼の存在がチームの雰囲気向上に一役買っていることは間違いなかった。

だが、その一方で難しい立場にも置かれていたのも事実だ。昨シーズン終了後、磐田は在籍していた大半の主力FWが新天地行きを選択。森島は彼らの穴を埋める存在として期待を集め、そしてワンランク上を目指す名波浩監督のサッカーを実現するべく、伝統のサックスブルーのユニフォームを纏う決意を固めた。セレッソ大阪時代にチームメートだった名波監督の誘いを受け、「まさに即決でした」と高いモチベーションで磐田の地を踏んだ。

しかし、クラブは鹿児島キャンプ中に元イングランド代表FWジェイを獲得。4‐2‐3‐1を基本フォーメーションとすることから、FWとしてスタメンに名を連ねることができるのは一人だけ。森島は攻守に献身的なプレーを見せながら、高さと柔軟なボールタッチを兼ね備えたジェイにポジションを奪われる形となってしまった。

迎えたギラヴァンツ北九州とのJ2開幕戦当日、スタジアムに到着してウォーミングアップルームからスッと顔を出したデカモリシと目が合い、軽く言葉を交わす機会があった。そして彼はスタジアムを見渡し、いつもの関西弁でこう切り出した。

「今年のジュビロは雰囲気がいいって、いろいろなところで聞くんですよ。しかも、俺が入ったからって言ってくれる人もいる。それは本当にうれしい。正直、スタメンで出られないのはツラいけど、ここで腐ったら絶対にあかんから。チームのためにもそれだけは絶対にやったらあかん。だから頑張りますよ。ピッチの中でも外でも自分の良さを出してね」

ジェイの負傷離脱で第4節大分トリニータ戦から先発の座が巡ってくると、自身は無得点ながらチームは3連勝。そして自分の「結果」にもこだわって4連勝を目指した岡山戦のベンチには、ライバルのジェイが戻ってきていた。森島の危機感とゴールへの渇望が今まで以上だったことは想像に難くない。しかし、残念ながら強く求めていた「結果」は出なかった。

今季初得点に向け、ゴールへの意欲を見せる森島選手。
今季初得点に向け、ゴールへの意欲を見せる森島選手。

「ホントに悔しかった。自分が足りてないからやと思って、もう一回見つめ直してやっていきます。サポーターからの声援はいつも聞こえているんで、申し訳ない気持ちはあります。それがすごく支えになってるから、俺はずっと止まらないし、やり続けるしかない。ゴールを決めることを前提に次の試合までの時間を過ごしていきたい」

もっとできたという悔しさを滲ませながらチームへの貢献を考える森島。周囲との距離感を良くしながら、横幅だけでなく縦に深浅を出せる攻撃を引き出し、ゴール前で相手にとって怖い存在になりたいと意欲を見せる。

最近はメンタルコーチをつけて、何事もとにかくポジティブに捉えるように心掛けているという。それが自分自身でもいい方向に向かっているとも感じている。チームメイトの上田康太は「デカモリシが1点取れれば、本人もチームも勢いに乗っていける」と話すように、とにかく今は1点が欲しい。

存分に溜め込んだマグマは、果たしていつ爆発するのか。その爆発が彼自身とチームに何をもたらすのか。今はとにかくデカモリシの今シーズン初ゴールが待ち遠しくてならない。