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2024JリーグYBCルヴァンカップ 1stラウンド 3回戦の10試合が22日(水)に開催!
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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

シーズンシート

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「来シーズンもまた、この場所で会おう!」と周囲のE・フランクフルトのファンたちと挨拶を交わしヴァルトスタジアムを後にしたのは10年前。この場所とは、シーズンチケット席のこと。スポーツやコンサートでは、観戦や鑑賞の機会を確実にすることを目的に、年間観戦パスとしてシーズンチケットがある。料金の割引や利便性を目当てに購入する電車やバスの定期券とは異なる。 ドイツ語で、“Stamm-tisch”という言葉を良く耳にした。「常連客用のテーブル」とか「常連客仲間」という意味だ。日本の寿司屋や小料理屋でもそうだが、馴染み客にとって妙に居心地のいい席がある。スポーツ観戦や音楽鑑賞の際に「いつもこの席でなければ」という熱烈なファンにとって、シーズンチケットは“シーズンシート”を意味している。人気のある地元のコンサートホールやオペラハウスのシーズンシートは、いつもプラチナチケットになる。平均観客数世界一のブンデスリーガでは,シーズンの始まる3週間前にクラブごとの販売状況が発表され開幕ムードを煽る。

いつも上位は、ドルトムント、バイエルン、シャルケなど。いずれも7万人収容の大スタジアムの約7割が、シーズンチケットファンで早々に埋まる。 海の向こうには、シーズンシートを題材にした映画がある。そのひとつ『二番目のキス』(原作Fever Pitch)は、7歳の時から20数年間保有してきた大リーグのボストン・レッドソックスのシーズンシートと、恋人との愛情を天秤にかけて悩むラブ・コメディ。その尊い価値をようやく認識した彼女が野球場のフィールドに乱入し、身を呈して彼氏のチケット譲渡契約書へのサインを阻止、周りのチケットホルダー仲間から祝福されるところで映画は終わる。

伝統ある地元クラブのシーズンチケットは、代々引き継がれる「家宝」と言っても過言ではない。そのような大事なものを手放す理由とは、いったい何が考えられるだろうか?あろうはずがない! 1960年代に、PSVアイントホーフェン(オランダ)のパートナー企業であるフィリップス社の社長をつとめた故Frits Philips氏は、試合観戦にはVIPラウンジよりも一般席を好んだ。2005年、百歳の誕生日を迎えたときもその席で応援したという。ファンに人気のあった彼が座った席は、“永久シーズンシート”となり、背にはその証しに記念プレートが埋め込まれている。 いかなる天気でも、どんな対戦相手でも、どんなに成績不調でも、週末には必ずホームスタジアムに通い、自分専用の席で見守り続ける人々は、幸福と連帯感に満ち溢れている。