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コラム

青山 知雄の悠々J適

2015/3/12 18:16

「人に歴史あり」選手の数だけストーリーがある(♯2)

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「人に歴史あり」とはよく言ったものだ。

ふとすれば何気ない一試合、一つのゴールやプレーかもしれないが、そこに選手や監督の強烈な思いが込められていることは決して少なくない。

ついに幕が上がった2015明治安田生命Jリーグ。各クラブにかかわる者にとって、この開幕戦は「元日」とも言うべき大切なポイントとなる。長きにわたるキャンプでトレーニングを積み、新シーズンの躍進に思いを馳せているであろう選手たち。果たして全力で乗り越えてきた厳しいフィジカルトレーニングや戦術練習は実るのか。狙っている連携やスタイルは通用するのか。思いどおりのプレーを出すことはできるのか。そして因縁の相手に対して結果を残せるのか――。もちろん一試合ですべてが決まるわけではない。ただ、個人としてもチームとしても何らかの結果が出る開幕戦は、通常以上に様々な感情がうずまくゲームであることは間違いない。

松本は壮絶な点の取り合いの末に名古屋と引き分けた
松本は壮絶な点の取り合いの末に名古屋と引き分けた

その開幕戦取材に選んだのは、名古屋グランパスが初のJ1に挑んだ松本山雅FCを迎えた一戦。反町康治監督が記者会見で口にしたように、試合前に配られた松本のメンバー表には「0/0」という数字がズラリと並んでいた。これはJ1通算出場数を表すもので、大半の選手がこれまでJ1の試合に一度も出場したことがないことを意味する。一見すれば実績のない選手ばかりに取られるかもしれないが、その裏側は壮絶な紆余曲折を経験してきた選手ばかり。現役続行の危機に立たされたところから巻き返してきたプレーヤーも少なくない。クラブとしても今回のJ1昇格は2011年夏に急逝した松田直樹さんの遺志を受け継いでの悲願成就。そんな彼らの思いが詰まったJ1デビュー戦を見逃すわけにはいかないと考えたのが、このゲームをセレクトした理由の一つだった。

試合も苦難の道のりを歩んできた選手に目を奪われた。試合終盤に殊勲のPKストップを見せたGK村山智彦は、前所属のJFLクラブが活動休止を発表し、「J2昇格1年目の松本に練習生として拾ってもらった」という選手。3点目を決めたMF喜山康平はU-16日本代表の中心選手として内田篤人(現シャルケ/ドイツ)らとともにアジアの舞台で戦いながら、Jリーグでは思うように出番を得られず、当時地域リーグ所属だったファジアーノ岡山への期限付き移籍を経て成長。「サッカー選手として生き残れるかどうかの瀬戸際だった」という苦境から這い上がり、この試合でJ1デビューし、記念すべき初ゴールもマークした。

故・松田直樹さんの遺志を受け継ぐ盟友・田中隼磨
故・松田直樹さんの遺志を受け継ぐ盟友・田中隼磨

そして松田さんの背番号3を受け継ぎ、昨シーズン開幕前に「J1に昇格させる」と誓って故郷に舞い戻った田中隼磨にとっては、右ひざに大ケガを抱えながら強行出場を続け、盟友・松田さんとの約束を果たして挑む大舞台。しかも相手は一昨年まで在籍し、2010年のリーグ優勝に主力選手として貢献した名古屋だった。「個人的な感情は内に秘めて、勝つためにプレーした」と多くは語らなかったが、一時は3-1とリードしながら引き分けに終わったことで「これが自分たちの実力のなさ。J1が厳しいことも相手のストロングポイントも、キャンプからずっと言い続けながら伝わっていなかった。だから試合に勝てなかったのは自分の責任かな。マツさんも『そんなに甘くないよ』って言っていると思う。でも、チームとしては怯むことなく戦えた。今日のミスをしっかり突き詰めて、周りにも自分にも厳しく求めていきたい」と悔しさを明らかにしながら前へ進む覚悟を見せた。

惜しくも勝利という結果は残せなかったものの、田中の口から見聞きしていただけのJ1という舞台の厳しさを選手たちが体感できたのは大きい。結果は悔しさの残るものとなったが、近い将来に振り返った際、この開幕戦がチームにとっても選手にとっても、大きなターニングポイントになるのではないかと見ている。

今シーズンの開幕戦では、この他にも強烈な感情をピッチで爆発させた選手が多くいたように思う。松本と対戦した名古屋MF小屋松知哉は、約1年前のプロデビュー戦で左ひざ前十字じん帯を断裂。全治約6カ月と診断されてシーズンを棒に振ったが、実力派のライバルがひしめく中で開幕スタメンの座を勝ち取り、見事にプロ初ゴールを叩き込んだ。

開幕戦で獅子奮迅のプレーを見せた山口蛍
開幕戦で獅子奮迅のプレーを見せた山口蛍

浦和レッズDF那須大亮は開幕直前に行われたAFCチャンピオンズリーグのグループステージ第2戦で後半に退場処分を受けて公式戦3連敗の呼び水となってしまった悔しさをバネに、湘南ベルマーレからダメ押しゴールとなるヘディング弾を決め、拳を握りしめながら雄叫びを上げた。川崎フロンターレMF中村憲剛、セレッソ大阪MF山口蛍はともに昨シーズン終盤に負傷離脱し、中村は優勝争い、山口は残留争いに貢献できないもどかしさを晴らすべく中盤で獅子奮迅のプレーを見せた。試合当日に第二子が誕生した湘南DF遠藤航は自ら祝砲となる先制のPKを決め、モンテディオ山形DF渡辺広大、湘南MF山田直輝、サンフレッチェ広島DF佐々木翔は昨シーズンまで在籍していたチームと対戦している。彼らの心情は推して知るべしだ。

彼ら以外にも記念すべきプロデビュー戦を迎えた選手、悩んだ末に新天地を選択した選手や期限付き移籍からの復帰組、ケガからの完全復活を誓って臨んだプレーヤーもいる。反対に開幕スタメンを逃したり、ミスをしてしまったりした選手は、この試合をバネに奮起する可能性もあるだろう。見守る側も選手たちのプレーや思いを受け止めることで、今後に新しいストーリーを描くことができる。そんな視点を大切にしながらJリーグを見続けている。

各選手が強い決意の上で迎えた開幕戦。それは過去を紡ぐものとなり、物語の始まりでもある。すべてが未来へつながっていく分岐点なのだ。まさに「人に歴史あり」。そこには選手の数だけ、ストーリーがある。