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AFC CHAMPIONS LEAGUE (ACL)2020ラウンド16
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コラム

北條 聡の一字休戦

2015/4/21 21:02

ツエーじゃん金沢 大を喰う『シンクロの巨人』(♯8)

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まるで「ひとりの人間」みたいに――。

強さの秘密は、そこにあるのかもしれません。今季、J2に昇格してきたツエーゲン金沢のことです。開幕戦で昇格候補の大宮アルディージャに0-1と敗れる黒星スタートでしたが、あれよあれよという間に勝ち点を伸ばし、8節を終えて何と6勝2敗。先週末、カマタマーレ讃岐に1-0と競り勝って5連勝を達成し、2位に浮上しています。序盤戦における最大のサプライズでしょうか。

団結、結束、一体感……。快進撃を説明する言葉はいくつも浮かんできますが、面白いのはこれらの本来は「目に見えない」強みが、実際に「見えている」ことかもしれませんね。ピッチに立つ一人ひとりは十分に個性的ですが、キックオフの笛が鳴ると、GKを除く10人のフィールド選手がまるで一体の生き物のように動くわけです。巨像をも倒すアリの群れ、といった趣でしょうか。前々節のアウェイ戦で昇格候補のセレッソ大阪を破った試合などは、その好例ですね。

昇格組ながら、C大阪を破るなど快進撃を続ける金沢。
昇格組ながら、C大阪を破るなど快進撃を続ける金沢。

10人でひとり――というコンセプトが際立つのは、守備の局面でしょうか。前列(FW)の2人、そして中列(MF)と後列(DF)の各4人がそれぞれ横一列に並び、敵の攻撃に備えます。俗に言う守備ブロックですね。この「4人×2ライン」の二重構造は人間の体で言えば、上半身(MF)と下半身(DF)で、その上に頭(FW)が乗っかっている感じでしょうか。

ブロックと言っても、金沢のそれは固いだけじゃありませんね。各ラインの中央に構えるボランチ(秋葉、山藤両選手)とセンターバック(太田、作田両選手)の4人がクッション(関節)の役割を担っていて、ライン(手足や腰)を曲げたり、伸ばしたりしながら、接触(攻撃された)時の衝撃を和らげています。人体の構造と同じで、実に機能的なんです。

緊密性にも卓越しています。実は「穴だらけ」という守備ブロックをよく見かけますが、金沢のそれは実にコンパクトで隙がありません。10人の距離感は付かず、離れず。等間隔をキープしながら、ボールのある場所へ自由自在(縦、横、斜め)にスライドし、侵入者が現れても各選手の距離が近い分、互いにカバーしやすく、なかなか綻びが生じません。8試合を終えて、失点はわずか5。C大阪戦を含む半数の4試合が完封です。森下仁之監督の指導による、訓練の賜物でしょうか。

チームの「一体感」が現在のチームの好調を支える。
チームの「一体感」が現在のチームの好調を支える。

あの一糸乱れぬ一体感は、コンパクトな状態から生じる「引き込み現象」かもしれませんね。異なる振動体同士が近づくと、次第にリズムがそろっていくアレですね。ホタルが一本の木に集まると、最初はバラバラだった点滅が段々とそろってくるような。金沢の選手たちも互いに影響し合い、体内時計や身体のリズムがそろっていくんでしょうか。その足並みそろった守備組織を長時間、持続させているところが、いまの金沢の好調を支えているような気がします。

戦い方はJ3時代と大筋で変わっていません。通常、相手のレベルが高くなれば、バグ(不具合)が生じるものですが、いまのところ大きな破綻はありませんね。まさに一体化した集団の強みでしょう。個々のタレント力に勝る相手に対して、質対質(1対1)の争いから量対質(10対1)の局面へ転換させるアイディアを見事に実践しています。巨大な盾が押し引き自在に動くさまは、守備的云々という話を超越した不思議ワールドの代物という感じですね。

ムダなく効率的なのは攻撃でも同じです。攻め込む回数こそ少ないですが、1試合平均のシュート数はリーグ5位の14.7本。球をもっても選手間の緊密性は変わらず、細かいパスの連続で局地戦をすり抜けていきます。14得点中、実に11点がセットプレー絡みで、清原翔平選手がPKから5点、辻尾真ニ選手が直接FKから2点を奪っています。セットプレー頼みの声が聞こえてきそうですが、危険な場面をつくりだしているからこそPKや好位置でのFKを獲得できるわけです。

小柄ながらキャプテンとしてチームを牽引する清原選手。
小柄ながらキャプテンとしてチームを牽引する清原選手。

キャプテンを務める165センチの『小さな巨人』清原選手のプレーは本当に見ていて楽しくなります。C大阪戦で右サイドから巧みに相手をかわしてエリア内に侵入し、PKを誘った場面なんか見事でしたね。ソロ演奏でも合奏でも光る清原選手が、攻撃の局面における「引き込み現象」のスイッチでしょうか。球をもっても十分に魅力的なんですね、ツエーゲンのサッカーは。

今後はさすがに対戦相手の警戒が強まるでしょうが、あの『シンクロ戦法』は一日や二日で仕上げた薄っぺらものじゃありませんからね。10人でひとり――というコンセプトに忠実な限り、そう簡単には崩れないはずです。ジャイアントキラー? いやいや、巨大な装甲車と化してピッチを走る金沢こそJ2きっての巨人でしょう。大をも喰うシンクロの巨人、次に狙われるのは!?