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コラム

北條 聡の一字休戦

2015/6/29 18:00

ナオへの敬意にみる 「師弟関係」の縦糸(♯17)

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わずか数時間のうちに『現在・過去・未来』へタイムトラベルしたような気分でした。ドイツ1部のマインツへ移籍する武藤 嘉紀(FC東京)選手の壮行セレモニーが行なわれた6月27日のことです。FC東京が清水エスパルスに3-2で勝ち、2位でフィニッシュにした明治安田生命J1リーグ 1stステージ最終戦。試合後のセレモニーを終えてミックスゾーンに現れた武藤選手が報道陣に囲まれる中、ポツリとつぶやいた言葉。それが、時間旅行の入り口でした。

壮行セレモニーで涙ながらに挨拶する武藤。
壮行セレモニーで涙ながらに挨拶する武藤。

「ナオ(石川 直宏)さんは僕にとって『永遠の憧れ』です。ピッチの中でも外でも……」

憧れでした――という過去形じゃありません。憧れ、目標、手本と仰ぐ「師」への敬意はどこまでも続いていました。石川選手がFC東京へ移籍してきたのが2002年。武藤選手は小学4年生ですから、FC東京のスクールに通い始めた頃です。中学に進学した2005年から下部組織に加入。そして、1年半前の入団会見の際には「ユース時代から、ナオさんは憧れの存在」と語っていました。教師と生徒という関係ではありませんが、これはこれで立派な「師弟関係」にあると思うのです。

フランスの巨星ジネディーヌ・ジダンがウルグアイの奇才エンツォ・フランチェスコリに強い憧れを抱き続けた話をご記憶でしょうか。フランチェスコリをはるかにしのぐ名声を得てからもなお、このウルグアイ人を敬愛していました。自分の息子に「エンツォ」と名づけたくらいで……。ジダンにとって、地元マルセイユで華麗なプレーを演じ、ひらめきを与えてくれたフランチェスコリは、フランスの英雄ミシェル・プラティニ(現UEFA会長)以上の特別な存在、心の師でした。

武藤にとって石川は永遠の憧れの存在だ。
武藤にとって石川は永遠の憧れの存在だ。

僕は師弟関係をめぐる落とし穴を『スターウォーズ』の後期三部作から学びました。オビ=ワン・ケノービとアナキン・スカイウォーカー(のちのダース・ベイダー)との間に生じた亀裂です。弟子のアナキンが師匠のオビ=ワンよりも「自分の方が優れている」と確信したところからダークサイド(暗黒面)への転落が始まりました。オビ=ワンよりも強い師を求め、暗黒卿に従い、より強大な力を手に入れるはずが、最終的にオビ=ワンに敗れ、悪の道から逃れられなくなったわけです。

重要なのは技量の優劣ではなく、大事な何かをもたらしてくれたメンター(先達)への敬意と、それを後代へ伝える使命感、現在から未来へパスを送り続けることなんじゃないかと。代表組や海外組へ飛躍してもなお、石川選手へのリスクペクトを失わない武藤選手は、アナキンが築きそこねた師弟ドラマの担い手だと思うのです。海外での挑戦を終えて、日本に戻る際は「ぜひFC東京で」と切に願うのも、無意識のうちに受け手から送り手へと転じる責務を感じているからでしょう。

味の素スタジアムには背番号14のユニフォームを身に着けた子供たちが溢れていた。
味の素スタジアムには背番号14のユニフォームを身に着けた子供たちが溢れていた。

当日、僕は早めに自宅を出て開門の30分前に味の素スタジアムに到着。新宿駅から飛田給駅までの車中で、飛田給駅からスタジアムまでの道中で、さらに「青赤横丁」(フードコート)やスタンドのあちこちで「10年後の未来」に出会いました。誇らしげに背番号『14』のユニフォームを着た少年たちです。まさに背番号『18』に憧れた「10年前の嘉紀少年」そのもの。試合後、大観衆の前で、ひたすら感謝の言葉を口にする武藤選手の真摯な姿を、少年たちは記憶に深く刻みつけたことでしょう。

下部組織の面々を含むパダワン(『スターウォーズ』に登場するジェダイの若き訓練生)たちの中にFC東京の未来を担う、さわやかな好青年のドリブラーがいる――そんな妄想がふくらむばかりでした。数年後、FC東京に戻ってきたときの武藤選手は、オビ=ワンのような立派なメンターとなっているでしょう。そのパスを受け取る若者たちと一緒に「心残り」と語ったタイトルの獲得へ全力を注ぐ姿が、いまから待ち遠しいですね。その日を信じて、See You Again――。