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GWはJリーグに遊びに行こう!12万名様ご招待
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コラム

青山 知雄の悠々J適

2015/5/21 19:12

誰よりも近い場所で見た「伝説の水たまりPK」(♯12)

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先週、『5.15』について書いたことが不思議な縁となったのか、それからJリーグや日本サッカーの歴史について話をする機会が増えた。Jリーグがスタートした1993年に生まれたという新入社員と宴席で一緒になったり、先輩記者からJFL時代の話を聞く機会もあった。その中で最も印象的だったのが、ある打ち合わせで出てきた『Jリーグ動画アーカイブ』というJリーグにおける過去の名場面を集めたアプリについてだ。

実はこのアプリ、登録不要の無料サービスとして昨年秋からスタートしていたが、自分のパソコンが対応していなかったこともあって、お恥ずかしながら完全にノーチェックだった(Xbox OneとWindows 8.1で見られるとのこと)。発行元がJリーグ&Jリーグメディアプロモーションと聞いて、「オフィシャル色が強くて、いわゆる名シーンばかりが収録されているんだろうな……」と思ったのだが、実際にはそんなことはなく、懐かしの迷(?)場面もちゃんと見ることができる。収録されている動画は、トータルで実に200以上にのぼる。

アプリを立ち上げると、選手名やクラブ名、ポジション、プレー・シーンなどのジャンルごとに過去の試合映像を検索できる。「スーパーゴール」、「フリーキック」、「スーパープレー」、「スーパーセーブ」、「得点王」、「MVP」、「パフォーマンス」、「セレモニー」など多くの切り口でソートして見たい場面を探せる形式で、その中にある「アクシデント」というジャンルが「迷(?)場面」のそれだ(残念ながらオウンゴールというジャンルの映像はない)。

Jリーグ史に残る久保竜彦選手のスーパーゴールはまだ記憶に新しい。
Jリーグ史に残る久保竜彦選手のスーパーゴールはまだ記憶に新しい。

「ラモス 瑠偉がチャンピオンシップで決めた魂のループ」や「ゴールに喜びすぎて油断した浦和レッズが鹿島アントラーズにキックオフからカウンターを食らって失点」、「サンフレッチェ広島がサポーターからユニフォームを借りてプレー」、「岩本 輝雄の40メートル弾丸直接FK」、「久保 竜彦のスーパーロングシュート&ひょっとこパフォーマンス」、「白馬に乗ったブッフバルトの引退セレモニー」など、興味本位丸出しでJリーグの名&迷シーンを懐かしみながらアプリを楽しんでいたら、そこで22年ぶりに自分とJリーグとの出会いを見つけることができた。

テレビを通じて前年のヤマザキナビスコカップや『5.15&16』の開幕戦では接していたものの、自分にとってJリーグとの“生”邂逅は1993年5月22日、名古屋市瑞穂球技場で行われた名古屋グランパスエイトと横浜マリノス(ともに当時)の一戦。サントリーシリーズ第3節のゲームは、『5.15』の翌週に開催された名古屋のホーム開幕戦だった。

時は超ウルトラスーパーJリーグブーム。チケットはプラチナ化し、この試合にも小さな球技場に1万1267人が詰め掛けた。自分も貴重なチケットを手にするべくプレイガイドに徹夜で並んで必死に頑張った……わけではなく、スタジアムからほど近い県立高校サッカー部の1年生(と言いながら、ケガが多くて在学途中でフェードアウトしてしまったのだが)だった自分は、雨ガッパを着てサッカー部のチームメートとともにアウェイ側ゴール裏中央の最前列に座り、警備員のような役割を果たしながら試合を見せてもらえることになった。

ピッチ状態が極めて悪い中で行われた名古屋vs横浜の一戦。
ピッチ状態が極めて悪い中で行われた名古屋vs横浜の一戦。

そう、服装は雨ガッパ。天候は大雨だったのだ。当時の公式記録には「ピッチ状態 不良」としか記載されていないが、もともとラグビー兼用で荒れていたピッチは至るところに水たまりができ、泥だらけという悪コンディションになっていた。

ここまで読んで気づいた方もいるだろう。

試合は横浜Mが32分にエバートンのゴールで先制しながら、名古屋は沢入 重雄が77分に同点弾をマーク。その後、延長戦でも決着がつかず、試合はJリーグ史上初のPK戦へと突入する。

名古屋は米倉 誠、横浜Mはエバートンと、ともに先頭キッカーが外して迎えた5人目。名古屋は藤川 久孝がキッチリと決めると、横浜Mは延長開始と同時にピッチへ送り込まれていた三浦 文丈がペナルティマークへと向かった。

延長戦の末、Jリーグ史上初のPK戦にもつれ込んだ。
延長戦の末、Jリーグ史上初のPK戦にもつれ込んだ。

待ち構えるはGK伊藤 裕二。彼の動きをよく見ていた三浦は、短い助走から相手GKの逆を突いてインサイドキックでゴール左下を狙った。だが、完全に決まったかと思われた三浦のシュートは、ゴール前の水たまりに阻まれて推進力を失ってしまう。逆へ飛んでいた伊藤は素早く立ち上がると、勢いを削がれて力なく転がるボールに飛びつき、ジャンピングレシーブのように頭から滑り込んで右手でかき出すことに成功。予想外の展開で名古屋が初のPK戦を制した。

誰よりも近い場所でこの「迷場面」を目撃した印象は非常に強く、今でも鮮明にゴールネット越しの光景を思い出すことができる。当時はテレビのスポーツニュースで試合映像を見ていたが、以降22年間にわたって目にすることのなかった青春時代の記憶を『Jリーグ動画アーカイブ』が呼び起こしてくれた。

日本全国に51のJクラブが誕生している現在、芝が水を含んでボールが転がりにくくなることはあっても、ゴール前が泥だらけになってプレーに支障をきたすようなシーンを見ることはほとんどない。J1からJ3まで大多数のクラブが素晴らしい天然芝ピッチの上でサッカーをプレーできている。そんなところもJリーグ22年間の発展と成長の象徴なのだろうと感じさせられた映像だった。