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コラム

川端 暁彦の千態万状Jリーグ

2016/6/24 12:24

Jの恩返し。YBCルヴァンカップ改称に込められた確かな思い(♯39)

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6月21日、Jリーグは「Jリーグヤマザキナビスコカップ」の大会名称が、今年8月31日に開幕するノックアウトステージ(いわゆる決勝トーナメント)から「JリーグYBCルヴァンカップ」に改称となることを発表した。ヤマザキナビスコ社と「ナビスコ」ブランドの契約が終了し、9月1日から社名変更となることに伴っての措置だが、シーズン中の大会名称変更は異例の決定とも言える。その背景に何があったかと言えば、村井 満Jリーグチェアマンの言葉を借りて表現するなら「恩返し」ということになる。

四半世紀に及ぶ歴史を刻んできた「ヤマザキナビスコカップ」。この大会を機に飛躍した選手は数えきれないほどだ
四半世紀に及ぶ歴史を刻んできた「ヤマザキナビスコカップ」。この大会を機に飛躍した選手は数えきれないほどだ

Jリーグと「ヤマザキナビスコ社」の付き合いは長い。Jリーグ開幕前年の1992年、リーグカップ戦に同社が冠スポンサーとなることで誕生した「ヤマザキナビスコカップ」は、四半世紀に及ぶ歴史を刻んできた。ギネスのワールドレコードになっている事実を持ち出すまでもなく、異例の関係性と言えるだろう。冠スポンサーというのは通常、ある程度の知名度を得たところで撤退するのが自然な経営的判断である。ただ、この幸せな関係は異例の長さで継続し、Jリーグのサポーターにとってこの大会が「ヤマザキナビスコ」であることはごく自然なこととして受け入れられてきた。

ヤマザキナビスコカップは、Jリーグと日本代表の日程調整の中で開催できなかった年もあった。代表選手が出場できないタイミングで開催されるようなことも少なくないが、それでも同社は大会への特別協賛を続けてきた。今季も多くの若手選手がこの大会で「プロデビュー」を果たしているが、四半世紀に迫る歴史を紐解いて大会を機に飛躍していった選手をカウントしたら、数え切れないほどだろう。そうして積み上げた幸せな関係を、村井チェアマンは「恩」という言葉で表現した。

大会改称に関する記者会見に臨んだヤマザキナビスコ株式会社の飯島 茂彰代表取締役社長はシーズン途中での改称に至った経緯をこう説明する。

「当初、今季中の大会については『ヤマザキナビスコカップ』という名前を継続させましょうとJリーグ側に提案していました。しかし、Jリーグから新会社と新ブランドを広く周知させるため、(ノックアウトステージの始まる)8月31日に大会名称を変更しましょうという大変ありがたいご提案をいただきました」

新名称が「YBCルヴァンカップ」となったのも、ブランドチェンジに伴う「社運を懸けた大勝負」をサポートしたいという思いからだった
新名称が「YBCルヴァンカップ」となったのも、ブランドチェンジに伴う「社運を懸けた大勝負」をサポートしたいという思いからだった

シーズン中に大会名称が変わることについて違和感があるのは当然のことではある。ヤマザキナビスコ社はそうした配慮の下でJリーグに対して「継続」を提案しており、Jリーグ側もそれを受け入れていた。「ただ」と村井チェアマンは言う。「飯島社長とお話をして、『この9月1日のブランドスイッチは、社運を懸けた大勝負である』と、うかがいました。それならば来年からの変更ということではなく、一緒に大会名称を変更させていただけないかと提案させていただきました」ということで、一転してシーズン中の名称変更という流れになった。

そして今回決定したのは名称変更だけではない。2017年から19年までの3シーズンに及ぶ大会特別協賛の契約も更新となった。社運を懸けた大勝負のタイミングでの契約更新については、社内に異論もあったと聞くが、それも無理はないだろう。飯島社長はその経緯について「正直なお話として、今回われわれの商号が変わり、契約ブランド商品の製造を中止することによる売り上げの低下も予想されています。実は今季限りでスポンサー契約を終了させていただこうと考えておりました」と内情を振り返った。

その上で、「ヤマザキ(グループ)の会議で契約終了の旨を伝えたところ、『それならヤマザキカップにしてウチ(本社)がやるか!』というようなことをヤマザキ側が言い出しまして、『ええ、そうなるの?』という感じになりましてね」と裏話で報道陣の笑いを取った飯島社長は、「さらにJリーグ初代チェアマンの川淵 三郎さんに(契約)終了のご挨拶をさせていただこうとうかがいましたら、『別に新社名のヤマザキビスケットカップでもいいじゃないですか。(新大会名は)何でもいいから、やっていいですよ』と、ご助言をいただいた。そのあとJリーグ側からも正式にご提案していただき、最後はこちら側としては諸手を挙げて(契約更新を)お願いすることとなりました」と、穏やかな表情を浮かべながらここに至る経緯を説明した。

恩返しと表現した村井 満Jリーグチェアマン。改称に込められた確かな思いと共に、歴史は続く
恩返しと表現した村井 満Jリーグチェアマン。改称に込められた確かな思いと共に、歴史は続く

チェアマンが「恩返し」と形容したのはまさにこの経緯のことで、新名称が「YBCルヴァンカップ」となったのも、「YBC(ヤマザキビスケットカンパニー)」という新社名よりも「ルヴァン」という新主力商品を押し出す形に落ち着いたのも、ブランドチェンジに伴う「社運を懸けた大勝負」をJリーグとしてサポートしたいという思いからだった。

ヤマザキナビスコ社によって四半世紀にわたって支えられてきたリーグカップ。ある意味で特別協賛を受けるのが「当たり前」になってしまい、そのありがたさが忘れられてしまっていた一面もあるかもしれない。今回、社名変更に伴う「大勝負」を強いられる状況にあってもなお継続されたスポンサードの意味は小さなものではないだろう。8月31日の「YBCルヴァンカップ」準々決勝では、その事実の意味を改めて思い出してみたいと思う。