キャスパー ユンカーがチームに合流したのは4月26日。リカルド ロドリゲス監督は30日の会見で、「いまはチームに慣れていくプロセスの中にいる。コンディションや戦術への順応を見極めて考えたい」と起用に慎重な姿勢を見せていたが、そのときは意外にも早く訪れる。5月5日のJリーグYBCルヴァンカップCグループ第5節・柏戦の三協フロンテア柏スタジアムが、彼にとって初めて立つ日本のピッチとなった。杉本 健勇と2トップの布陣だったが、試合のほとんどの時間でそうはならなかった。
彼はボールを受けに下がるようなことはせず、58分の出場時間のほとんどを相手ディフェンスライン上のプレーに費やした。ここが自分の居場所であると言わんばかりに。そして、それは正しかった。
試合が始まって程なく、価値を証明する時間が訪れる。9分、汰木 康也が相手をかわして自陣を抜け出す。柏のゴール前にはまだ3人のDFが残っており、パスを待つのはキャスパー ユンカーただ1人。しかし、彼はここからゴールを奪う術を持っていた。
一度ボールから離れて相手CBの視界から消えると、一気に角度を変えて田中 隼人の前を通り過ぎる。ディフェンスライン上でボールを受けると、鋭く左足を振り抜いた。あまりにもシンプルだったが、それだけに“本物”を感じさせる一撃だった。
早い時間帯に交代となったことを含めて、まだベストコンディションではないだろう。周囲との連係もまだ十分とはいえず、彼がもっとチームを知り、チームが彼をもっと知る必要がある。しかし、すでに力は証明された。時計を進めるのみだ。
柏戦は落ち着かない時間帯に逆転を許すも、終盤の連続得点で引き分けに持ち込んだ。内容に課題はあったが、明治安田J1第12節・福岡戦の敗戦のショックを払しょくし、今節に向けて士気は上がっていることだろう。
いまのキャスパー ユンカーが連戦の起用に耐えうるのか、中盤の要となっている柴戸 海は試合に出られる状態なのか。不安要素もあるが、確実な楽観要素もある。1つは第7節からの連勝の立役者となっていた武田 英寿が戻ってきたこと。そして、もう1つはエース・興梠 慎三のコンディションが上がってきていることだ。
今季はまだ得点のない興梠だが、試合を追うごとにキレは戻ってきている。毎年のように「今年で2ケタ得点記録は途切れるのでは……」と危惧されていたが、最後には結果を出してきた。“仙台キラー”として名を馳せるストライカーの、今季最初の号砲が期待される。
一方の仙台も、危機感とともにチームの士気も高まっているだろう。前節・柏戦では2019年11月30日以来となるホーム勝利を挙げた。気持ちの入ったゲームの勝利のあとだけに反動も懸念されるが、「今日の勝ちは忘れ、これを続けていかなければ意味はない」(関口 訓充)と油断はない。「苦手の浦和」、「鬼門の埼スタ」とは言っていられない。埼玉スタジアム2002での初勝利を挙げることができれば、さらに大きな自信を得て前進できるだろう。
[ 文:沖永 雄一郎 ]
