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コラム

Jリーグチェアマン 村井満の“アディショナルタイム”

2015/5/11 19:30

Jリーグ版寺子屋(♯34)

 先日5月9日にJリーグとしては初の試みとなるスポーツビジネスにおける一般向けの経営者養成講座が開講された。その名は「Jリーグ・ヒューマン・キャピタル」。Jクラブを舞台に起きた様々な経営課題を題材に理想のクラブの在り方について受講生とともに考える講座に育てていくつもりだ。

多士済々の43名がともに学び合う「Jリーグ版寺子屋」
多士済々の43名がともに学び合う「Jリーグ版寺子屋」

 Jリーグやクラブの労働環境はまだまだ未整備な部分が多く、報酬水準も十分とは言えない。またピッチの外側での日常業務は知られていない面も多い。いきなりクラブが転職者を迎えるといっても躊躇する方も多いだろう。そうした背景もあり最初の1年間は夜間の授業を通してJリーグをはじめとするスポーツビジネス界の現実を知ってもらう機会とした。この1年目の講座である「教育・研修コース」では立命館大学の多大なる協力を頂いた。そして2年目以降はお互いに条件が合えば実際にJリーグやクラブで実践経験を積むチャンスもある。

 今回50名をめどに受講生の募集を試みたのだが、大変ありがたいことに説明会には477人の方々に参加頂き、その中から266人の方々に応募頂いた。面接対象者にはVTR収録機材が並ぶ実際の記者会見のセットの前で自己紹介をお願いした。次に、その場で出される課題に対してホワイトボードを使っての経営方針の発表を、そして最後は、対面での意見交換という3つのセッションを行い、総合的に選考を行った。この1年間、私が身をもって鍛えられた現実の場面をそのまま選考過程に応用した。私も面接官として参加したのだが、約60名の方のお話をお伺いすることができた。大変驚いたのは応募者の多くがスポーツの可能性に対する高い期待を持ってくれていることだった。「真の豊かさとは何か」、「スポーツを通じてできる人間教育とは」、「地方創生とスポーツの関係」等々、私自身選考会を通じて彼らから多くの刺激を頂いた。今回の選考は一般の入学試験のように上から順番をつけて合格させるというものではない。また検定試験のように合格基準点があるわけでもない。年齢構成や職務経験、応募動機や問題意識などが重ならないように受講生の多様性を軸に選考したつもりだ。

 選考を経て開講式に集まった43名は本当に多士済々だ。26歳から53歳までの幅広い年齢層のみならず。現在の仕事も、上場企業の社長経験者や会計士、NPO法人の代表、中には介護福祉の現場で働く方もいる。スポーツ業界からは、プロ野球の現場で働く方や、バスケットボールの経営に携わられた方が受講している。中田浩二さん(元鹿島アントラーズ)や堀之内聖さん(元浦和レッズ)をはじめ、Jリーグの選手OBから多数の応募あったが、一切手心を加えることなく選考したつもりだ。開講式冒頭の挨拶では私からは、この43名は単なる受講生ではなく私にとって貴重なブレーンでもあるとお話させて頂いた。例えば、受講生が1人に10人の「スタジアム観戦未経験の友人」がいたら、瞬時に400名を超える「サッカー関心がライトな層」のモニタリングが可能になる。逆に「スポーツ観戦のコア層」の意見集約も可能だ。彼らは、いわばJリーグの新たなブレーン集団と言っていいのかもしれない。

受講生からは選手OBの中田浩二さん(元鹿島)をはじめ4名の方から決意表明のスピーチを頂いた
受講生からは選手OBの中田浩二さん(元鹿島)をはじめ4名の方から決意表明のスピーチを頂いた

 開講式に引き続き行われたキックオフイベントでは、参加者全員による握手から始まり、突然の指名により受講者代表挨拶をお願いしたり、初対面同士にもかかわらず、数分の対面の後に他己紹介をお願いしたり、即座にリーダー選定をお願いしたりした。彼らはそんな無茶振りにもかかわらず、ワイワイガヤガヤと賑やかに、それでいて臨機応変さや機敏さをもっていとも簡単にこなしていくなど、早くもクラブのリーダーとして必要な素養を感じる場面に数多く出会った。

受講生、関係者全員による握手と挨拶で、まずは心を解きほぐす
受講生、関係者全員による握手と挨拶で、まずは心を解きほぐす
いきなりのグループ編成&他己紹介にも臨機応変な対応を発揮する受講生たち
いきなりのグループ編成&他己紹介にも臨機応変な対応を発揮する受講生たち

 受講数の制約上また応募者の構成上、1年目の受講が叶わなかった方も多い。今後は他の大学とも連携して本プログラムの裾野を広げ、多くの方々に参加して頂きたいと思っている。また、2年目以降の実践研修は、現在の仕事に区切りがつけられず参加できない方もいるかもしれない。だが、ご縁のあった方とは、希望があればJリーグに登録して頂き、将来に向けて関係を維持したいと考えている。

 人の育成には多くの時間を要するので、長期の計画で取り組んでいけたらと考えている。クラブ経営に正解はない。理想に向けて試行錯誤を重ねていくしか近道はないだろう。スポーツの可能性を信じる方々とともに考え教え合う、そんなJリーグ版寺子屋ができたら本望だ。

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