「次の1点は、我々にとってはただの1点じゃない」
前節の徳島戦に臨む前、高木琢也監督はそう口にしていた。そして生まれた7試合ぶりのゴール。自陣からの大きなフィードをボックス付近で受けて内側に切り返し、DFをかわして左足で巻くように決めた市村篤司の先制点により、流れは変わったかに思えた。しかし終了間際の80分、交代出場の津田知宏に同点ゴールを許す。得るはずだった2ポイントはこぼれ、連続未勝利は7試合となった。
中2日でのゲームが続いたゴールデンウィークの4連戦、最大値で12を稼げる算段だった勝点のうち加えたポイントは3に留まり、熊本はここまでの13試合で2勝5分6敗、勝点11で19位に沈んでいる。掲げている目標が高いところにあることを考えれば確かに現状は厳しい。加えて、攻撃の軸として期待されていた藤本主税の離脱をはじめ、前節の負傷で連続出場記録がストップしたGK南雄太も欠場、さらに3バックの中央を務めてきた吉井孝輔も警告の累積で今節は出場停止と、過去4シーズンを振り返っても“かつてない”ほどの危機、と言いたくもなる。だが記録を調べてみると、さらに厳しい状況はあった。
加入1年目の2008年は、まず4〜9節の6試合、続いて13〜22節の9試合、さらに30〜35節の6試合と、1シーズンに3度長いトンネルに入っているし、2年目の2009年は12〜21節の実に10試合、勝ちがないという苦境を味わった。思い出したくない過去を、どうやら忘れていたようである。
ただ、そうした状況で迎える甲府もまた、2年ぶりのJ2にやや戸惑っている印象だ。開幕から3連勝を飾り昇格圏内をキープしていたものの8節以降は1勝4分1敗で、前節京都に完敗したことで順位も一気に8位に後退。しかも今節はここまで10得点を挙げているFWダヴィとキャプテンであるCBの山本英臣を出場停止で欠くという状況。熊本にとっては間違いなくチャンスのように思えるが、高木監督はそれを否定する。「ダヴィがいないことで、攻撃のコンビネーションプレーが出てくるかもしれない。2人が出ないことで、100のチーム力が90、80になると思ってはいけない。2人の穴を埋めようと、むしろチーム力はアップするかもしれない」。
スピードのある突破からチャンスを作るMF柏好文をはじめ、テクニックのあるピンバ、鉄人・伊東輝悦に広い展開を見せる井澤惇と力のある選手が揃った中盤に、水戸時代にも厄介な存在だった高崎寛之ら前線にもタレントが豊富な甲府。50本以上のシュートを放っているダヴィを欠くとは言え、安易にシュートまで持ち込ませては主導権を握ることは難しくなろう。ただ、甲府としても前節は前後半ともに早い時間に失点しており、ややセーフティに入ることも考えられる。守備においては無闇に寄せれば消耗させられるリスクが大きいため、コースを切りながらしっかりディレイさせる必要がある。また、ワイドに展開することを前提にした選手間の距離を逆手に取り、ボールホルダーへの速いアプローチで出どころを抑えて前線への供給を絶ち、そこからいかに早く切り替えて薄いところを衝けるかが焦点になるだろう。
「攻撃になったときに切り替えて高い位置を取って、クロスにも入って行けるようにしたい。あとは、食いつきすぎるとスペースができてしまうので、しっかり戻ること。それを繰り返していけば主導権を取れると思う。出せるタイミングで出て行けないってことがないように、呼び込める準備をしておきたい。内容も大事だけど、とにかく結果が欲しい。1つ勝つ事で、今の流れを断ち切りたいという思いがあります」
前節の得点シーンのイメージを残す市村はそう話した。GKからの5本のパス全てをワンタッチでサヌのゴールにつなげた京都の先制場面のように、陣形が整う前に甲府のDFラインの背後を狙い、フィニッシュに持ち込むという共通意識はできている。「中を開かせる動きをしてチャンスを作り、点を取って勝ちたい」と、崔根植も決意を新たにする。
11日の練習で行った紅白戦の合間で、高木監督は主力組への評価や問題点を、あえて控え組から指摘させたという。その言わば“内なる声”がどう響いたかは、ピッチの上で表現されるはずだ。
苦しい時期も、乗り越えれば記憶から薄らいでいくもの。ちなみに、冒頭で触れた過去の苦しかった時期にある“最初のトンネル”を抜けた2008年10節。その相手は、ヴァンフォーレ甲府である。
以上
2012.05.12 Reported by 井芹貴志




































