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コラム

知られざる、あの選手の成長物語。

2018/1/10 12:00

横浜F・マリノス イッペイ シノヅカの成長物語 後編

スパルタク・モスクワと契約をかわしたイッペイ シノヅカだったが、当初はユースチームでのプレーを余儀なくされた。

「本当はリザーブチームでプレーする予定だったんですが、年齢が上の選手がいっぱいで、入れなかった。だから最初のシーズンはユースチームでプレーすることになったんです」

そのユースチームで、シノヅカは違いを見せつけた。ユースの全国大会で最優秀MF賞を受賞したのだ。

「あの大会では何でもやれたというか、いわゆる“ゾーン”に入っていましたね。点を決めたり、PKも取ったり、結構活躍できた大会でした」

この大会での活躍もあり、シノヅカはシーズン終盤にリザーブチームでの出場機会を手にする。そして翌シーズン、新たに作られたスパルタク・モスクワⅡでプレーするチャンスを手に入れた。

リザーブよりひとつ上のカテゴリーに当たるセカンドチームは、ロシアの3部に位置するリーグに所属。なかなかトップからお声はかからなかったものの、セカンドチームで主軸としてプレーし、2014-15シーズンには2部昇格に貢献。2016-17シーズンまで、このチームでプレーを続けた。

結局、トップチームでプレーする機会は得られなかったものの、ロシアでの6年間は「本当に濃いものだった」とシノヅカは振り返る。「スパルタクは名門だし、ユースにもアンダーの代表選手がたくさんいた。トップにも各国の代表ばかりなので、そういうところで練習できたことは代えがたい経験ですね」

2013年にはロシアU-18代表にも選出された。

「あまり戦力という形ではなかったのですが、チームに帯同させてもらって、同じ年の上手い選手と一緒にできたのも良い経験になりました」

またシノヅカは、試合に出られないなかでも、腐ることは一度もなかったという。それは常に「自分は下手くそだと」いう意識があったからだ。

「僕はサッカーを始めてからずっと自分のことが下手だと思っているし、高校でもレギュラーにはなれなかった。だから、練習するしかなかったので、ロシアでも腐る暇はなかったんです。常に向上心を持って練習に取り組む。他のチームに行った時に成功できるように準備をしないといけない。こうやってマリノスに入れたのも、腐らずに練習してきたおかげかなと思いますね」

腐らず努力を続けてきたシノヅカだったが、ロシアでプレーして早6年が経ち、22歳となってもなお、トップチームでプレーできない状況にもどかしい想いも抱いていた。そこで2016-17シーズン終了後に、新天地を模索する。当初はヨーロッパの別の国でプレーしたいと考え、実際にドイツの3部チームのトライアルにも参加した。十分にやれる手応えを得たものの、チーム事情で良い返事をもらえなかった。

一方で、7月には新潟で行われた横浜FMのキャンプにも練習参加して、首脳陣から高い評価を得た。ヨーロッパでプレーを続けたい想いもあったものの、横浜FMから熱心な誘いを受ける中で、最終的に日本でプレーすることを決断したのだ。

「マリノスに誘っていただいたことに本当に感謝しています。ただ、小さい頃はJリーグも見ていましたけど、ロシアに行ってからはなかなか触れる機会がなかったので、正直、分からないというか、不安もありましたね」

しかし、シノヅカは加入から1か月後にはベンチ入りを果たし、第32節のヴァンフォーレ甲府戦で、Jリーグ初出場を果たす。しかも、その試合でゴールを奪うという華々しいデビューを飾るのだ。

 

 

「監督から呼ばれた時は嬉しかったですね。信頼して出してくれるわけだから、その期待にもこたえたかった。試合は負けてしまったけど、点を決められたのは自分としては良かったですし、運も良かったかなと思います」

結局シノヅカは、2017シーズンは6試合に出場し1ゴール。満足いく成績は残せなかったものの、来季につながるシーズンとなったことも確かだろう。

「Jリーグのレベルは本当に高いと感じました。激しさはロシアよりはないかもしれないですけど、テクニックだったり、パスの質だったり、ロシアにはない部分がありますね」

やれるという手応えがある一方で、改善しなければいけない部分も当然感じている。

「すべてにおいて改善しないとダメだと思っています。シュートもそうだし、スピードだったり、判断の部分も完璧にはほど遠いので、あらゆる面をレベルアップしないとダメですね。練習からアピールしていって、出場機会が増えれば、それだけでも自信になる。もっともっとできると思うので、まずは試合に多く出て、自分のプレーで勝利をもたらせるようになりたいです」

シノヅカの理想とする選手像は、どのようなものなのか。

「やっぱりドリブルが好きなのでドリブルでは負けたくないですし、サッカーをやっている以上はトリッキーなプレーもしたい。ネイマールみたいな誰もやらないようなプレーですね。結果を出すのはもちろんですが、見る人を楽しませることのできる選手になりたいです」

最後にこれまでのキャリアを形成するうえで、大事にしてきた考えを聞いてみた。「楽しむこと、ですね。ロシア人って、言い方は悪いんですけどアバウトなんですよ。スパルタクにも試合中、ほとんどなにもしないのに、点だけは取るような選手がいました。

それくらいの意識のほうがいいんですよ。常に100%でやるんじゃなくて、心のどこかに余裕を残しておく。頑張りすぎると力が入っちゃって、ミスも生まれると思うし、ゆとりがないとトリッキーなパスも出せない。もちろん集中するときはするし、やる時はやらないといけない。でも、楽しむという感覚を忘れたくはないですね」

またシノヅカは、ひそかな野望も明かしてくれた。

「来年、ロシアでワールドカップがあるので、ぜひ行きたいですね。モスクワのことなら何でも知っているし、愛着もありますから」

――では、日本代表入りを狙う?

「選手では厳しいかもしれないですけどね(笑)。でも、今はロシア国籍ですけど、チャンスはあるので、後々、日本代表にも呼ばれるような選手になれるように成長していきたいと思っています」

Text by:原山 裕平

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