★米本拓司、サッカーに育まれる男〜前編〜
4月24日の負傷から3日後。米本拓司は、クラブハウスの2階から窓越しに練習グランドを眺めていた。ボールが、芝生の上を跳ねて転がる。それを追いかけて選手が走る。つい先日まで立っていた場所を少し遠くに感じた。しかし、彼はそこに戻るまでの道程を頭の中で辿っていた。
その日、チームドクターの触診を終えると、治療日程を聞かされた。もう一度、同じ思いをしなければいけない。手術後の吐き気が頭を過ぎる。「また、あの思いをするのか…」
米本は、両脇で松葉杖を挟み、それを支えに歩を進める。クラブハウスの入口で待っていた報道陣が彼を囲んだ。支えを置くと、アルミ製のベンチに腰掛けて自らの口で、ケガについて話を始めた。
「(受傷箇所は)前と同じ場所です。着地した瞬間、グリッて音がしたので無理だと思いました。ケガは突然起こるものだし、一生懸命やった結果なので。今、僕が落ち込んでいても仕方がない。できるだけ明るく振る舞って、自分ができることを精一杯やるしかない」
一言ずつ選ぶ言葉には、影を見せなかった。時折、笑顔さえ覗かせる気丈な振る舞いは、20歳の若者を少しだけ大きく見せた。再び辛いリハビリの日々が待っている。だが、照れ屋のはずの彼は、「この壁を乗り越えたら、また強くなれる」と、少しばかり語気を強めて言った。後悔や不安がないわけではない。それでも、ケガをする度に気づく。サッカーを好きだという気持ちは誰にも負けない。だから何度でも立ち上がれる。
「あの時ジャンプしなかったらとか、いろんなことを考えました。親も、隣りで泣いていた。でも、僕の気持ちは、もう切り替わっていますよ。今日ここへ来て(クラブハウスの2階から)みんながサッカーをしているのを見て、もう一度、またサッカーがやりたいと思えましたから」
左ひざ前十字靭帯の再腱手術は、患部の炎症が治まるまで待たなければいけなかった。その期間は、憂うつさが増す。ただ、支えとなる短い文面を彼は目にする。米本をプロの世界に導いた男からの6行のエール。城福浩 前F東京監督が千葉戦の翌日、自身のオフィシャルブログ上の記事の文末に短い文章を掲載した。城福氏は昨季の途中解任後、これまで多くを語ってこなかった。選手に直接呼びかけたり、話をしないように務めてきた。だが、この時だけは禁を破らずにできる方法で教え子に向けてメッセージを送った。
『……最後に、米本拓司。
正式な発表があるまでは、軽傷であることを祈るしかない。
が、敢えて今、断言しよう。
1週間先か、1カ月か、半年先かわからないが、
お前はサッカー界から必要とされて必ず戻って来る。
(診断)結果を受け入れて、前を向け』
城福氏は監督時代、不思議と米本を賞賛するようなことをしなかった。その話をすると、口元を緩めて言った言葉を思い出す。
「ヨネを誉めたり、おだてたりする必要なんてない。だって、そんなことで絆を確かめるようなことをしなくてもいい、そういう関係を築けていた。それにあいつは向上心の塊みたいな選手。俺が何か言わなくても、あいつはずっと上を見続けられるよ」
米本の気持ちを知る恩師が、直接伝えられない思いを込めた。
米本のサッカーが好きだという気持ちが人を呼び、言葉を集める。チームメイトの梶山陽平は「去年も、あまり一緒にボランチを組むことができなかったので、今年こそはと思っていた。残念だけど、J1でまた一緒にヨネとプレーするためには、僕たちがJ1昇格を果たさなければいけない」と、ダブルボランチを組む相棒の帰りを心待ちにしている。
手術前日の5月25日。米本は、クラブハウスから埼玉県内の病院へと向かった。車に乗り込む直前、米本は「痛みも知っているし、嫌ですけどね。(城福前監督のブログ記事を)読みましたよ。うれしかった」と、言葉を噛み締めてから「あれを見てまた頑張れると思いました」と続けた。そして、会釈してから助手席に体を滑らせてドアを閉めた。
涙は、あの日のフクアリに置いてきた。明るく振る舞い、人前では笑顔を崩さなかった。1度、乗り越えた強さが彼にはある。でも、繕った顔が、少しばかり不自然に映って見える時があった。
F東京は手術の翌日、米本の全治までの期間と手術結果を発表した。術後、麻酔で朦朧とする病院のベッドの上では、8カ月後、芝生の上でボールを追いかける自分を思い描くはずだ。その顔は、きっと周りも楽しい気持ちにさせてくれるヨネのあの笑顔だろう。僕にも断言できることがある。米本拓司は、これからもサッカーとともに歩んでいく。
以上
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2011.05.27 Reported by 馬場康平
今日の試合
清水 1(5) C大阪 1(3) PK戦終了 長崎 2 岡山 1 試合終了 名古屋 2 G大阪 1 試合終了 福岡 1(5) 京都 1(4) PK戦終了 FC東京 0 千葉 3 試合終了 広島 1(4) 神戸 1(5) PK戦終了 鹿島 3 水戸 0 試合終了 町田 2 横浜FM 0 試合終了 川崎F 1 東京V 0 試合終了 柏 0 浦和 0 後半6分 八戸 0 湘南 1 試合終了 仙台 2 栃木SC 1 試合終了 山形 1 群馬 2 試合終了 栃木C 2(4) 横浜FC 2(5) PK戦終了 札幌 2 長野 0 試合終了 大宮 3 いわき 2 試合終了 甲府 1 磐田 2 試合終了 藤枝 1(3) 福島 1(4) PK戦終了 新潟 1 徳島 0 試合終了 富山 1(3) 讃岐 1(5) PK戦終了 奈良 1 FC大阪 3 試合終了 今治 1 高知 0 試合終了 金沢 0 愛媛 2 試合終了 滋賀 1 山口 4 試合終了 北九州 1 熊本 2 試合終了 鳥栖 4 鳥取 0 試合終了 宮崎 1 琉球 0 試合終了 鹿児島 0 大分 1 試合終了 秋田 0 相模原 1 試合終了 岐阜 0 松本 1 後半5分






































