昇格も降格も絡まないチーム同士の最終節だったが、宮沢克行のラストマッチという付加価値が添えられ、スタジアムは特別な雰囲気に包まれていた。山形は前節、ほとんど為す術なく大分に敗れているが、この試合では立ち上がりから気持ちをプレーに乗せ、やや強引ながらボールは前に運ばれていた。6分には石川竜也の横パスを受け、トラップで相手をかわした秋葉勝がミドルシュートを放つなど、岡山のゴールを脅かす。しかし19分、宮阪政樹に提示されたイエローカードにスタジアムが一瞬フリーズする。厳しく寄せた体は寸前で止まっているようにも見えたが、パスを出した直後の千明聖典の体が膝の上からかぶさり、その5分前に受けた警告と合わせて宮阪は退場。スタジアムには、それまでとは違ったテンションの風が吹き込んだ。
10分頃からは岡山もポゼッションを高めつつあり、押し込んでから中央にくさびをとおしたり、仙石廉のサイドチェンジから澤口雅彦が右クロスを上げるなど主導権を握り始めていた。ここで一人少なくなった山形は「リトリートせざるを得ないというか、ボールを取りに行ってもかわされるだけなので」(清水健太)と林を前線に残した4-4-1で、無理せずに我慢する方法を選択。ただそのなかでも、「セットプレーがチャンスだと思ったので、できるだけセットプレーをもらって、コーナーキックだったりフリーキックで得点を狙えたらと思ってやっていました」とボランチにポジションを下げた比嘉厚平も積極的に仕掛けてセットプレーを重ね、29分には中島裕希のクロスに林陵平が足を伸ばすがわずかに届かなかったシーンなど、10人でできる最大限の可能性を模索した。
得点を挙げることは難しかったが、それでも「前半だけでも我慢できれば、また違った戦い方というか、相手も点を取りにくるだろうしというのもあった」(秋葉勝)とのプランも見えていたが、綻びが露呈したのは32分。千明、澤口、上條宏晃が右サイドでローテーションしながらパスを回すうちに、右スペースを突いた澤口に上條のスローパスがとおる。「自分がボールに行ってしまったので、そこは誰かに行ってもらうか、自分がステイするかで、声の部分でミスが出てしまった」(比嘉)と完全にフリーでマイナスのクロスを上げられると、関戸健二とクロスしてマイナスに移動してきた川又堅碁が左足でダイレクトのシュート。コースは左にそれていたが、咄嗟の反応で足を出した関戸が枠内にコースを修正し、これが先制ゴールとなった。
41分にはカウンターから上條に決定的なシュート態勢に持ち込まれるなど、失点後はやや前がかりとなり、守備で戻りきれないサイドのスペースを岡山にポゼッションの起点として使われていた山形は、後半に入ると中島をトップに上げて4-3-2に。右サイドバック・小林亮が得点の匂いがするクロスを何度か上げた山形の攻撃は、影山雅永監督が「後半、山形は1点を取るためにすごいパワーを出してきた。自分たちがボールを前に運ぶことによって相手を戻させるということがなかなか、ピッチ上でしたくてもできなかった」と話すほどに岡山を押し込んだが、前節・栃木戦でも2-0とリードした後半に押し込まれ失点していた岡山もウイングバックをしっかりと下ろし、凌ぎながら落ち着いて次のチャンスをうかがっていた。
山形が優勢を保っていた58分、宮沢が比嘉に代わってピッチに登場する。山崎雅人から受け取ったキャプテンマークを左腕に巻くと、スタジアムはボルテージを上げ、さらに勢いを増した山形の攻勢はしばらく続いた。その潮目を変えるきっかけのひとつとなったのが、65分、上條に代わって投入された石原崇兆だった。69分には田所諒のくさびを合図に3人目の動きで左スペースを突きクロスを上げると、その4分後、左サイドで起点となるとペナルティーエリア内にスルーパス。飛び込んだ田所に山形のディフェンダーが引きつけられるなか、田所はファーサイド冷静に確認していた。マイナスに放たれたクロスの先には、完全にフリーで待っていた川又。右足コントロールで左足側にボールを置くと、ゴールマウスの左を冷静に射抜いた。リードを2点に広げた岡山は、仙石に代わり服部公太が登場。今季でユニフォームを脱ぐ2人が同じピッチで同じ時間を共有した。
87分には、途中出場の山田拓巳が中に切れ込んで宮沢へのスルーパスをとおす見せ場もあったが、山形は足をつる選手が何人か出るなど10人で戦ってきた代償は大きく、時間とともに守勢に回されたまま、試合終了の笛を聞いた。攻撃サッカーへの転身を図った今シーズン、前半戦は首位に立ったが、最後の3試合は無得点での3連敗。山形を上回る8位でフィニッシュした岡山の冷静沈着な試合運び、ボール支配とは質の部分で水を空けられた感もある。「1年で結果が出なかったですけれども、こういうスタイルでいくということを決めているなら、それを結果が出るまで継続してやっていくための今シーズンであればいいと思うし、来年に向けて、今年やってきたことがうまく活かせればいい」と石川が覚悟を示した。
宮沢は試合後の引退セレモニーのあともスタジアムに残り、暗くなっても、最後のサポーターにいたるまで一人一人ていねいにファンサービスを続けたという。歓喜も叫喚も飲み込んだNDスタは、今シーズンの全日程を終えた。
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2012.11.12 Reported by 佐藤円
































