「勝ちたい」
あの場所にいる誰もがそう思っていた。身に着けている色も、それぞれの立場も違うのに。それが、ゲームを面白くした。さらに、お互いの手段も違った。それが、面白いゲームを好ゲームにした。さらに、試合終了の笛が一日の終わりにはならなかったはずだ。誰かと、この試合を語りたいと思い、ジョッキや、グラスを右手に握った人もいたに違いない。もしくは、目が覚めてゲームのことを誰かに早く喋りたい衝動に駆られ、電話かメールを打ち込んでいる人もいるかもしれない。どっぷりサッカーに浸かる。26日の19時04分からの約2時間弱で完結しない。試合前、試合後も含めて最高のゲームだった。
語る言葉の多い試合は、浦和が先に仕掛けた。最終ラインからのビルドアップが始まる瞬間、3-4-2-1という数字が無意味になる。F東京MF高橋秀人は「浦和は徹底してきたし、その共通意識が高い」と、試合後に話した。両ワイドが高く張り出し、1トップ2シャドーと合わせて5選手が、F東京の最終ラインと同じラインに並んだ。残る5選手で丁寧に角度を作りながらパスを回し、機を見てサイドチェンジを効率よく使って攻めた。それを繰り返す。F東京の背後に広がるスペースをより有効利用するために、歪みを作り出すビルドアップと、隙を突くピッチを斜めに走らせるロングパスが効いていた。
F東京は本来であれば、高い位置を取りたいはずの中盤の両サイドを帰陣させて最終ラインまで下がる時間が続いた。それが、ボールを奪っても厚みのあるカウンターを仕掛けるのを難しくさせていた。さらに、カウンターの効果を半減させた上でDF槙野智章が攻撃に加わって浦和は前半に、2度の決定機を作り出した。梅崎司の背後への抜け出しも、マルシオ リシャルデスと、ポポとの連係によるカウンターのいずれも、GK権田修一の好セーブによって阻まれた。
ただし、F東京がボールをキープすれば、浦和の両ワイドは必然と長い距離を戻って自陣へと帰らざるをえない。序盤から、かなりの運動量を強いられていた。F東京は、守備時に人数を割いて守る浦和に手を焼きながらも流動的なポジションチェンジで決定機を作り出す。ボールを回す中で石川直宏がサイドを横断して左サイドにポジションを移し、3人目の動きで抜け出してシュートを放つ。浦和の両ワイドの帰陣が遅れた場面を上手く作って渡邉千真にもチャンスが巡ってきたが、これを決め切れなかった。実力伯仲のまま、後半へと折り返した。
後半に入って、時間の経過とともにボールを支配したのはF東京だった。トレーニングを積んできた3人目の動きで堅くゴール前を閉ざした浦和を崩す場面を何度も作った。逆に浦和は両ワイドの疲労も影響した。だが、F東京にボールを持たれても、浦和は常にカウンターという武器を持っていた。それが、終了間際の先制点を生んだ。
88分、右サイドを突破したMF柏木陽介が中央に走りこんだ途中出場の原口元気へとボールを流し入れる。それを原口がヒールで落とし、後ろから詰めたマルシオ リシャルデスが右足を振り抜いた。ゴールネットが揺れて、アウェイゴール裏からも歓声が轟く。耐える展開の中で生まれたゴール。浦和は勝利をグンと引き寄せたはずだった。
そこから3分後、F東京は右CKに、石川がボールをセットする。中央ではポジションを争って動く中、森重真人が狙っていた。ピッチの端から弧を描いたボールを頭で合わせる。森重の頭を放れたボールは、それを追うGK加藤順大の視線にあわせ、ネットへと吸い込まれていった。拳を振り下ろす森重に、今度はホーム側のスタンドが波を打って揺れた。
土壇場で振り出しに戻った試合は、最後まで飽きさせない。浦和が、またもカウンターから好機を迎える。ゴール前で原口が頭を振ると、浦和のベンチ前では水しぶきを上げたボトルが転がる。しかし、ボールは、ポストに弾かれてF東京が高くクリアする。それと同時に、ゲームは終了した。
試合後、両監督の会見を見るだけでもいかにゲームか面白かったが分かる。ペトロヴィッチ監督は「片方は、ショートパスを多用して、我々の自陣の30mぐらいまでは危険なプレーをしていた。もう片方は、ショートパスを多用するが、相手の背後のスペースを狙ってロングパスを使う具体的にゴールへと迫るサッカーをしていた」と言えば、ポポヴィッチ監督は「私たちは、狭いスペースの中でパスをつないで連係、連動を駆使して進むということをやっている。局面によっては、それを手でつなぐことも難しい。それだけ難易度が高いことをやっていると、私は思っています」と言った。その言葉は、自分たちのスタイルが勝っているという感情をどこかに忍ばせていてプライドを感じさせる。しかし、両者ともに「すばらしいチーム同士の対戦だった」と、口にすることを忘れなかった。
互いにスタイルをぶつけあう期待通りのゲームだった。後は、好みの問題だ。もし効率で一括りにすれば、効率的なサッカーが好きなら浦和を選ぶだろう。彼らのサッカーは理論立てられていて、90分間、体力と相談しながらサッカーをしていた。ただ、効率が悪い方をあえて愉しむ人ならきっとF東京を選ぶはずだ。過密日程と長距離移動で疲労度が限界に近づく中で、いつもと同じサッカーを90分間一貫してやり抜いた。どちらも、すばらしかった。
決着はつかなかった。このゲームの価値は、1−1のロースコアに反比例して大きい。8月4日まで暮れない夜は、再戦の楽しみを与えてくれる。それが、ひたと見据える先に、いつもいいフットボールが身近にある人たちの特権だ。それにしても、本当にいい試合だった。やっぱり続きが楽しみでしかたない。
以上
2012.05.27 Reported by 馬場康平




































