試合というよりスパーリングをこなしているような戦いだった。ムアントンにとっては29分に退場者を出したことが大きな痛手になったのは確かだが、11人対10人になる前から防戦一方だった。守ってカウンターに活路を見出そうとしていたようだが、基本的にカウンターの精度が低く、仕掛ける意欲も高くなかった。先制点を奪われた後も淡々とプレーしている印象が強く、興梠慎三も「1点取ってもなかなか出てこなかったので、勝つ気があるのかどうかわからなかった」と振り返っている。
ムアントンは浦和の研究はしていた。Jリーグではどのチームも理解している浦和のやり方に対し、5−4−1のシステムで守りを固めてきた。タイメディアの話によると、普段は4バックで戦っているということだったので、ムアントンはJリーグのチームがよく浦和対策として使ってくる戦術を意図的にとってきたということだ。しかし、枚数を合わせて守るのはいいが、攻撃を跳ね返した後にカウンターに移れないので序盤からサンドバック状態になっていた。
試合は立ち上がりから浦和ペースで進むと、わずか8分に均衡が破れる。マルシオ・リシャルデスのCKから柏木陽介が先制弾。「マルシオがいいクロスを上げてくれて、あとはシュートを打つだけだったけど、ダフってたんでうれしいやら恥ずかしいやら」と振り返ったように、ジャストミートできなかったボールは地面に叩きつけられる形になり、それが絶妙のループシュートになってゴールマウスに吸い込まれた。
これでムアントンも少しは前に比重をかけてくるのかと思いきや、相変わらず守りを固めるばかり。浦和がガードの上から殴りつける展開が続くと、29分にはピヤポン・ブンタオが早くも2枚目のイエローカードで退場。これでこの試合がハーフコートゲームになるのは決定的となった。
先制点を奪ったあとはなかなか追加点を決められなかったが、65分に関口訓充の移籍後初ゴールでリードを2点に拡大。ゴールに向かう形で蹴ったクロスがそのまま入るという流れだったが、関口は「中の選手にセンタリングを上げながら枠を捉えて、触らなかったら入ればいいなというボールを入れた」とイメージ通りのキックだったと胸を張った。
そして69分には平川忠亮のクロスから途中出場の原口元気が打点の高いヘディングで3点目。78分にはカウンターに抜け出した原口がGKと完全1対1の絶好の場面で「ちょっと自分でも優しさが出た」と育成年代からから付き合いのある阪野豊史に横パスを出すと、これが相手選手のオウンゴールを誘って4点目が入った。
内容、結果とも浦和の完勝と言っていいだろう。この日に限って言えば、浦和とムアントンの力の差は歴然としていた。「今日のプレーはあまり参考にならない。リスペクトはしているけど、あまりレベルの高いチームではなかったので。うちに対して攻めてやろうという感じもなかったし、やっていて非常に楽だった」とは永田充の弁だが、確かに脅威を感じる相手ではなかった。
だが、完勝を喜んでばかりもいられない。浦和は内容で圧倒する一方、気の緩みが随所に見られた。相手に怖さがないからか、攻撃時のリスクマネジメントがおざなりになる場面が目立った。実際、ルーズなポジショニングから何回かカウンターを受けている。59分には平川忠亮のスピードがなければあわやという場面を作られており、試合終了間際には安易なカウンターを受けて失点までしている。
結果として4点取れていたから大きな問題にはならなかったが、「0−0だったら、ああいうので0−1で負ける可能性もある」と永田が話したように、もし点差がないような状況であったなら不用意な1失点で結果が変わることだってあり得る。
平川が防いだピンチの場面は1−0の状況だった。その前にも軽率な対応から2回カウンターを受けており、同点に追いつかれる可能性もなくはなかった。4点リードしていたから対応がルーズになったわけではなく、その前から全体的に集中を欠くプレーが何度か見られた。
大勝というインパクトに埋もれがちだが、軽率なミスが少なくなかったことは忘れてはいけない。「特別内容が良かったわけではない。サイドのあたりでイージーなミスが多かった」とペトロヴィッチ監督も厳しく指摘している。
相手のレベルが高ければ、安易なミスが致命傷になり得る。「単純なミスは減らしていきたい。中国や韓国のチームが相手になると、ああいうミスが失点につながる」とは永田。楽なゲームだった時こそ、気を引き締めて問題点を見つめ直す必要があるだろう。
以上
2013.03.13 Reported by 神谷正明
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